航空自衛隊(ASDF)は3月18日、同隊が運用する無人偵察機「グローバルホーク」の1機が、鳥取県沖で墜落した可能性が高いと発表した。同機は同日午後1時ごろ、青森県の三沢基地を拠点に運用されていたが、レーダーから消失。その後、鳥取県沖の海上で漂流する機体の一部とみられる破片が発見・撮影された。航空自衛隊のトップである森田武彦統合幕僚長は定例会見で、同機は訓練には参加していなかったと説明したが、墜落の原因や任務内容については明らかにしていない。
この事件は、日本の防空・監視体制の中核を担う高額な戦略資産が失われた可能性がある点で極めて重大だ。同機は国際水域である鳥取県沖の北方約50キロの地点で消息を絶っており、航空自衛隊は現在、原因究明と情報収集を急いでいる。
全長14.5m、全幅39.9mの大型機
グローバルホークは、アメリカのノースロップ・グラマン社が開発した戦略級の高高度・長時間滞空型無人偵察機だ。全長は14.5メートル、全幅は39.9メートルと、有人戦闘機を大きく上回るサイズを誇り、最大で30時間以上の連続飛行が可能。高度約2万メートルからの広域監視能力を持ち、合成開口レーダー(SAR)や光学・赤外線センサーを用いて、地上の動きを高精細に捉えることができる。
日本政府は2015年、このグローバルホークを3機、関連する地上設備や部品、兵站支援と合わせて、総額約12億ドル(当時のレートで約1440億円)でアメリカから調達することを決定した。この調達は、周辺海域の監視強化、特に中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル開発といった安全保障環境の変化に対応するためのものだった。
1機あたりの運用コストは数百億円規模に
しかし、この調達額はあくまで「本体価格」であり、運用開始後のランニングコストが問題視されてきた。2025年度の防衛予算を見ても、グローバルホークの維持・運用には多額の費用が計上されている。2025年3月に会計検査院が公表した報告書によれば、三沢基地での運用開始から2024年12月までの累計で、関連経費は約1021億円に上る。1機あたりの年間運用コストは数百億円規模と試算されており、国民の負担という観点からも、その費用対効果がしばしば国会などで議論の的となってきた。
グローバルホークとは? その役割と性能
グローバルホークの最大の特徴は、その圧倒的な航続力と滞空時間にある。約2万メートルの成層圏を飛行しながら、一度の出撃で約30時間もの間、監視任務を継続できる。これは、日本の領土・領海の膨大な範囲をカバーするために設計された性能だ。
機体には、悪天候や夜間でも使用可能なレーダーと、高解像度の光学カメラが搭載されている。これらのセンサーで取得した情報は、衛星通信を介してリアルタイムで地上の管制局に送られる。これにより、有人機では難しい長時間の連続監視や、パイロットの疲労やリスクが伴う危険な空域での偵察任務が可能となる。今回の墜落事故は、まさにこのような高度な任務に従事していた機体で発生した可能性がある。
中国の無人機動向と日本の安全保障上の文脈
航空自衛隊の森田統合幕僚長は会見で、今回の墜落が訓練中のものではなかったと述べている。この「任務」の内容は明らかにされていないが、近年、日本海における中国の無人機を含む軍用機の活動が活発化していることは、重要な背景として指摘できる。
中国は近年、自国の無人機「WZ-7」や「GJ-11」などを日本海上空に頻繁に飛来させ、日本の防空識別圏(ADIZ)に進入する事例が報告されている。これらの無人機は、グローバルホークと同様に長距離・長時間の偵察能力を持ち、日本の防衛体制や自衛隊の艦艇・基地の動向を探るための活動を繰り返しているとみられる。防衛省はこれらの動きを「極めて異例」として警戒を強めており、グローバルホークは、こうした中国の活動に対する「対抗手段」として運用されてきた側面がある。
今後の調査と防衛体制への影響
今回の墜落事故は、日本の高性能な無人機運用にとって初めての大きな挫折となる可能性がある。航空自衛隊は原因究明を最優先としているが、機体が完全に破損・水没している場合、回収作業は極めて困難を極める。また、機密情報が搭載された電子機器の流出防止も喫緊の課題だ。
残る2機のグローバルホークの運用停止期間が長期化すれば、日本海方面の継続的な監視能力に一時的な空白が生じる恐れがある。防衛省は、この空白を既存の哨戒機(P-1やP-3C)や、将来的に配備が予定されている国産無人機などで補う必要に迫られるだろう。今回の事故を契機に、高額な無人機システムの脆弱性や、より堅牢な運用体制の構築が改めて問われることになる。