書籍取次大手の日本出版販売グループホールディングス(日販GHD)が、米AI企業Anthropicへの書籍販売を確認した。日本書籍出版協会に宛てた書簡で、海外向け書籍販売子会社の日販IPSが2024年11月にAnthropicと契約し、2024年12月から2025年12月まで書籍を販売した事実を認めている。この取引は、AI学習用の書籍を世界中から収集する構想「プロジェクト・パナマ」の一環だったとみられる。
日販グループは何を認めたのか
日販GHDは、海外向け書籍販売子会社の日販IPSが2024年11月に米AI企業Anthropicと書籍販売契約を締結し、2024年12月から2025年12月まで書籍を販売した事実を認めた。あわせて、AI学習用であることは認識していなかったと説明している。
一方、販売冊数や総額は非公表。日販GHDは出版各社からの問い合わせには個別に対応する方針で、日本書籍出版協会は書簡を会員の約380社に共有している。
「AI学習用とは知らなかった」日販側の説明
日販GHDが提出した書簡では、日販IPSが契約を結ぶ前にAnthropic側へ購入目的を確認していたことが明らかにされている。そのうえで「AI学習を目的とした購入であるとは認識していなかった」と説明しており、確認に対しどのような回答が得られていたのかが注目される。
日本の書籍を海外へ販売する流通の担い手として、日販IPSは出版社に代わって販売網を築いている。出版社側への事前の情報共有がどこまで徹底されていたのかも、今後の論点となりそうだ。
米訴訟が明かした「プロジェクト・パナマ」
Anthropicは、AIアシスタント「Claude」を開発する米国の有力AI企業だ。同社と日販の関係が表面化したのは、米国で提起された著作権訴訟がきっかけとなっている。訴訟で開示されたAnthropicの内部文書には、「プロジェクト・パナマ」の一環として「Nippan Japan」と契約したと記録されていた。
プロジェクト・パナマは、世界中の書籍をスキャンし、AI学習用のデータを構築することを目的とした構想だ。この記録からすると、日販からの書籍購入も、世界規模のデータ収集戦略に組み込まれた動きだった可能性がある。どの書籍がどれだけ購入され、どう学習データに加工されたのかは、現時点では不明である。
出版業界に広がる波紋と著作権の論点
日本の著作権法は、AI学習などの情報解析を目的とする場合、著作物を一定の条件で利用できると定めている(第30条の4)。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は対象外だ。文化庁も「AIと著作権に関する考え方」を公表し、権利者とAI事業者の双方に判断材料を示してきた。
今回のケースが、これまでの無断収集型のAI学習問題と異なるのは、書籍の購入という正規の取引ルートを経ている点だ。出版社や取次には代金が支払われており、AI学習用と事前に明示されていれば、契約条件や価格設定が異なっていた可能性も考えられる。それだけに、契約時の目的確認のあり方が問われることになる。
実際、出版社とAI企業との間では、学習データ利用をめぐるライセンス契約を結ぶ動きも出始めている。無断使用への懸念から、利用範囲と対価をあらかじめ取り決めようという試みだ。今回のような取次経由の販売が明らかになれば、そうした契約の在り方にも影響を及ぼす可能性がある。
日本書籍出版協会が今回の書簡を全会員約380社に共有したことから、各出版社で自社の取引状況を確認する動きが広がりそうだ。AI学習用データとしての書籍提供を禁じる条項を新設したり、AI企業との個別ライセンス契約を検討したりするケースが増えるとみられる。
書籍をAIの学習データとして活用しようとする動きは世界的に加速しており、日本語の書籍もその対象になっている。AI技術の発展と著作権保護のバランスをどう取るのか。日本の出版業界は、今回の一件を契機に、デジタル時代の新たなルールづくりを迫られることになる。