KDDIは6月10日、NTTが組成を発表したAI時代の先端技術向けファンド「IOWN AI Fund」への出資参画を正式に決定したと発表した。ファンド規模は約800億円(約5億ドル)で、運営パートナーにはNTTに加え、Walden Catalyst Ventures共同創業者のYoung Sohn氏、SK Group、台湾の中華電信、日本政策投資銀行が名を連ねる。出資に関心を示す企業は世界で20社以上に上り、KDDIの参画は国内通信キャリアとして先陣を切る形となった。
IOWN AI Fundの全体像——800億円規模、5者の運営体制
本ファンドは、AI時代のインフラを支える先端技術に特化した投資ビークルとして位置づけられる。運営会社として、シリコンバレーと東京を拠点とするCatalight Capitalを新たに設立。北米を中心に、アジアや欧州の有望なスタートアップへの投資を実行する。NTTの島田明社長は「AIネイティブインフラの実現には、NTTが培ってきた光・ネットワーク技術に加え、世界中の先端技術やパートナーの力と結びつくことが不可欠だ」とコメントしている。
IOWN AI Fundとは——投資対象と背景
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、NTTが2019年に提唱した構想で、光技術を中心にネットワーク、コンピューティング、電力を一体的に最適化することを目指す。本ファンドの投資対象は、フォトニクスやAI向け半導体・パッケージング、光電融合モジュール、分散型AI基盤制御、AIソフトウェア、AIモデル・推論、さらには医療・製造・金融などの応用領域まで、IOWN関連技術を核に幅広くカバーする。
KDDIが出資に踏み切った理由——光電融合技術への本気度
KDDIが本ファンドに参画する最大の狙いは、AI時代の通信インフラにおける省電力化だ。同社は2026年5月、商用環境において光電融合技術による単一拠点から複数拠点への光信号伝送に世界で初めて成功したと発表。この実証実験では、従来比で約60%の電力削減を確認している。生成AIの普及に伴い通信需要のさらなる拡大が見込まれる中、データセンターの消費電力問題は業界全体の喫緊の課題となっている。
KDDIは国内では大阪・堺データセンター、海外ではTelehouseを世界45拠点以上で運営しており、グローバルな視点での省電力化は経営上の重要テーマだ。松田浩路社長CEOは「『AI前提社会』におけるAI需要拡大に伴い課題となる、通信インフラの省電力化と高レスポンス化に向け、光電融合技術に取り組んでいる。IOWN AI Fundへの参画を通じて、世界のスタートアップやパートナー企業と共に、オールフォトニクスネットワークの社会実装および本技術の標準化を加速する」とコメントした。
関心表明企業——日本を代表する顔ぶれ
現時点で出資参加に関心を示している企業は、KDDIのほかに以下の通り。NTT、SK Telecom、SK hynix、Samsung Electronics、中華電信、Accton Technology、富士通、古河電気工業、伊藤忠商事、JA三井リース、NEC、東芝、ソニーグループ、SBIグループ、東京センチュリー、GlobalFoundries、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行、日本政策投資銀行。日本の通信キャリア、半導体・電子部品メーカー、商社、メガバンクが一堂に会する異例の布陣だ。なお、各社の参加・出資主体は暫定であり、最終契約により変更の可能性があるとしている。
光電融合技術が拓く、AIインフラの未来
光電融合技術は、電気信号と光信号を高効率で変換・伝送する技術で、従来の電子配線に伴う発熱や電力ロスを大幅に低減できる。KDDIが5月に成功した実証では、単一拠点から複数拠点への光信号伝送を商用環境で実現した点が画期的だ。これにより、大規模なデータセンター間の通信や、エッジコンピューティングとクラウドの連携において、劇的な省電力化と低遅延化が期待される。
NTTの島田社長が指摘するように、AIネイティブなインフラを実現するには、自社技術だけでは不十分だ。世界中のスタートアップが持つ先端技術や、パートナー企業のリソースを結集する必要がある。IOWN AI Fundは、そうしたオープンイノベーションのハブとして機能することを目指している。KDDIの参画は、国内通信キャリアとして初めての動きであり、今後の出資表明ラッシュの呼び水となる可能性が高い。
今後の展望——標準化と社会実装への加速
IOWN構想の実現には、技術開発だけでなく、国際標準化と社会実装が不可欠だ。KDDIは自社のデータセンター網で光電融合技術を実証済みであり、ファンドを通じて得られるスタートアップの知見を組み合わせることで、実用化のスピードを一気に加速させる戦略とみられる。800億円という規模は、AI関連のコーポレートベンチャーファンドとしては国内最大級であり、その投資判断は日本全体のAIインフラ戦略にも影響を与える。
日本発の技術であるIOWNが、世界標準となるかどうかは、このファンドの成否にかかっていると言っても過言ではない。KDDIという強力なパートナーを得たことで、NTTの構想は一段と現実味を帯びてきた。今後の投資先や、各社の具体的な協業体制に注目が集まる。