出入国在留管理庁aは2025年6月14日、在留カードとマイナンバーカードの機能を一体化した「特定在留カード」の運用を正式に開始した。これまで外国人住民は在留カードとマイナンバーカードを別々に携帯・管理する必要があったが、今回の制度改正により両方の役割を1枚のICチップ付きプラスチックカードに統合。在留資格の確認から各種行政手続きに至るまで、カード情報の一元的な処理が可能となる。この施策は、外国人住民の利便性向上と同時に、行政機関における業務効率化やコスト削減にも大きく寄与するものとみられる。
特定在留カードとは——在留管理と社会保障を統合した新たな身分証明
特定在留カードとは、在留カード(在留資格を証明する公的身分証)とマイナンバーカード(個人番号を証明するカード)の機能を物理的・電子的に1枚にまとめたカードである。従来、外国人が日本で生活する際には、在留カードを常時携帯する義務がある一方、行政サービスや税務手続き、健康保険証としての利用にはマイナンバーカードが求められていた。両カードを別々に発行・管理する現状は、申請者にとっても行政側にとっても非効率であり、二重のコストと手間が発生していた。
この課題を解決するため、政府はデジタル庁と出入国在留管理庁が連携し、「特定在留カード」という新たなカード種別を創設。在留カードとしての機能(氏名、生年月日、国籍、在留資格、在留期間、就労制限の有無など)に加え、マイナンバーカードとしての機能(個人番号の提示、電子証明書、各種行政手続きのオンライン認証)が1枚のカードに統合された。ICチップ内には両方の情報が安全に格納されており、対応するリーダーで必要な情報だけを読み取る仕組みとなっている。
運用開始日と対象者——誰が対象となり、どう取得するのか
運用開始日は2025年6月14日。対象となるのは、新たに在留資格を取得して中長期在留者となる外国人、および既に在留カードを保有している外国人で、有効期限内にマイナンバーカードを新規取得または更新する場合である。具体的には、以下のフローで発行が進められる。
- 新規中長期在留者:出入国在留管理庁での在留資格認定手続きと同時に、特定在留カードの申請が可能。原則として、入国時の空港などで即時発行を目指すとされている。
- 既存の在留カード保有者:市区町村窓口でマイナンバーカードの新規申請または更新を行う際に、在留カード情報の統合を希望する場合、特定在留カードとして再発行を受ける。
- マイナンバーカードを既に保有している外国人:現行のマイナンバーカードを特定在留カードに切り替えるための申請手続きが市区町村で順次開始される。切り替えは任意だが、将来的には在留カードとマイナンバーカードの完全統合が予定されている。
なお、特別永住者については、従来の特別永住者証明書とマイナンバーカードの一体化については別途検討中であり、現時点では今回のスキームの対象外となっている。
なぜ今、一体化が必要だったのか——制度的背景と行政課題
日本に居住する外国人は、2024年末時点で約340万人を超え、過去最高を更新し続けている。技能実習制度から育成就労制度への転換、特定技能签证の拡大、さらにはデジタルノマドや高度外国人材の受け入れ拡大など、入国管理政策の多様化が進む中で、在留管理と住民サービス提供の効率化は喫緊の課題となっていた。
従来の二枚体制には、以下のような問題点があった。
第一に、携帯義務の負担。在留カードには常時携帯義務があるが、マイナンバーカードにも同様の携帯義務はないとはいえ、窓口手続きのたびに両方の提示を求められるケースがあった。特に、病院での健康保険証利用や市区町村での転出入届、税務申告など、日常生活のさまざまな場面で二重のカード管理を強いられることは、言語面でも制度面でも不慣れな外国人にとって大きなストレスだった。
第二に、行政間のデータ連携の非効率性。出入国在留管理庁が管理する在留情報(在留資格、在留期間、就労制限など)と、市区町村が管理する住民基本台帳情報(住所、世帯構成、マイナンバーなど)は、システムが分断されていた。在留資格の変更や更新があった場合、在留カードの情報は更新されても、マイナンバーカード側のデータは自動連携されておらず、外国人自身が市区町村窓口に足を運んで変更手続きを行う必要があった。この二重の手続きは、行政側の処理負荷を増大させ、またデータ不整合のリスクも内包していた。
第三に、偽造・なりすまし防止の観点。在留カードとマイナンバーカードが別個に存在することで、どちらか一方のカードだけを不正に入手・偽造すれば、身分証明としての信用を一定程度得られてしまう脆弱性があった。一体化により、ICチップ内で両方の情報が紐づけられ、照合が容易になることで、セキュリティの向上が期待される。
具体的なメリット——外国人にとって何が変わるのか
特定在留カードの導入により、外国人住民の生活は以下のように変化する。
携帯カードが1枚で済む
これまで財布に在留カードとマイナンバーカードの2枚を常に入れておく必要があったが、特定在留カード1枚で両方の機能をカバーする。携帯性が向上し、紛失や盗難のリスクも半減する。特に、在留カードの常時携帯義務に違反した場合の罰則(罰金や退去強制の対象となり得る)を考慮すると、管理の手間が減ることは生活の質に直結する。
手続きがオンライン完結に近づく
マイナンバーカードの電子証明書機能と在留情報が統合されることで、在留資格の更新申請や住所変更届など、これまで窓口や郵送で行っていた手続きがオンラインで可能になる範囲が広がる。出入国在留管理庁は、今後、「特定在留カード」を活用したオンライン申請システムの拡充を計画しており、スマートフォンやパソコンから在留関連手続きの大部分を行えるようにする方針だ。
ワンストップ窓口の実現
市区町村の窓口では、特定在留カードをかざすだけで、在留情報と住民基本台帳情報を同時に確認できるようになる。これにより、在留資格の変更に伴う住所変更や、転出入の手続きがワンストップで完了する。従来のように「まず出入国在留管理局で在留カードを更新し、その後市区町村でマイナンバーカードの情報を変更する」という二度手間が解消される。
行政側の期待——業務効率化とコスト削減
出入国在留管理庁と市区町村にとって、特定在留カードの導入は大きな業務改革となる。在留カードとマイナンバーカードの発行・管理にかかる二重のコストを削減できるほか、窓口での確認作業の時間短縮や、システム連携による照合・突合作業の自動化が期待される。
さらに、これまで問題となっていた在留資格不正取得の防止にも効果を発揮する。特定在留カードのICチップには、生体認証情報(顔写真など)と電子証明書が格納されており、真正性の確認が容易になる。マイナンバー制度と在留管理制度を1枚のカードで一元管理することで、偽造カードの流通防止や、別人によるなりすまし被害の低減につながると見られている。
現時点での注意点と今後の課題
一方で、特定在留カードの運用開始にあたっては、いくつかの注意点や課題も指摘されている。
第一に、個人情報保護とプライバシーの懸念。在留情報とマイナンバーが1枚のICチップに統合されることで、情報漏洩時のリスクが増大する可能性がある。出入国在留管理庁は、ICチップ内のデータは読み取り専用で、不必要な情報の読み出しはできない設計であると説明しているが、実際の運用においては、第三者による不正な情報取得を防ぐための厳格なアクセス制御と監査体制が求められる。
第二に、カード発行までの手続きの煩雑さ。特に、既に在留カードとマイナンバーカードを別々に持っている外国人にとって、特定在留カードへの切り替え手続きは市区町村の窓口で新たに行わなければならない。窓口の混雑や手続きの複雑さ、言語対応の不十分さなど、現場レベルでの課題は少なくない。政府は、多言語対応のガイドブックやオンライン手続きの促進で対応を進めるとしているが、実際の運用がスムーズに機能するかは今後の運用状況を見極める必要がある。
第三に、全国的なシステムの移行期間。特定在留カードの本格的な普及には、市区町村の窓口システムや出入国在留管理庁の審査システム、さらには医療機関や金融機関など民間事業者のカードリーダー対応など、インフラ全体のアップデートが必要となる。完全移行には数年単位の時間がかかる可能性が高く、当面は新旧カードが混在する過渡期が続く。
今後の展望——デジタル身分証の未来と外国人在留制度の行方
特定在留カードの導入は、単なるカードの統合にとどまらず、日本の行政デジタル化の象徴的な一歩として位置づけられる。マイナンバーカードを基盤とした行政サービスのオンライン化が進む中で、外国人在留者のデジタル・インクルージョンを進める上でも、この一体化は重要な意味を持つ。
出入国在留管理庁は今後、特定在留カードの機能をさらに拡張し、在留資格のオンライン更新システムや、スマートフォンアプリとの連携、さらには出入国ゲートでの自動化手続きなどへの応用を検討している。将来的には、パスポート情報との連携や、トラベル・ドキュメントとしての利用可能性も模索されている。
また、政府は特定在留カードを足がかりに、在留管理の完全デジタル化を視野に入れている。ICチップ内の情報をスマートフォンでも読み取り可能にする「デジタル在留カード構想」や、ブロックチェーン技術を用いた改ざん防止機能の導入など、次世代型の身分証明システムとしての発展が期待される。
2025年6月14日という日付は、日本の外国人受け入れ政策が新たなフェーズに入ったことを示す象徴的な一日となった。特定在留カードが実際にどの程度の普及を見せ、運用上の課題がどのように解決されていくのか。外国人住民の生活実感としての利便性が本当に向上するのか——今後の運用実績と現場の声を注視する必要がある。