円相場が止まらない下落基調を見せている。日本時間15時24分の時点でドル円は158円台を回復し、ユーロ円に至っては前日に176円台まで押し込まれていた水準から力強くショートカバーが進んだ。背景には、米長期金利の上昇一服がもたらしたリスク選好の高まりがある。市場は依然として円売りに傾いており、その流れは容易に変わりそうにない。
長期金利の小休止が呼び込んだリスクテークの波
米10年物国債利回りは5.28%台と依然として高水準にあるものの、5.30%の大台を下回ったことで、市場参加者の間には金利低下を好感する動きが広がった。これまで長期金利が5%を超えることを過度に嫌悪していた投資家たちが、5.2%台という水準でも積極的にリスクを取る姿勢を見せ始めたのである。その結果、ナスダック指数は史上最高値を更新するに至った。
この現象は、単なる金利低下への反応だけではない。市場が株の買い場を探し続けていたことの裏返しでもある。金利が高止まりするなかでも、目先の値動きに対する強気のスタンスは崩れておらず、その余波が為替市場にも及んでいる形だ。
全面安の円相場とユーロ円の強さがもたらした構図
リスクテークの流れが強まるなかで、円は主要通貨に対して全面安の展開となった。特に注目すべきはユーロ円の動きである。そもそもユーロドルの戻りが極めて強いことが、ユーロ円のショートカバーを誘発した。そして、そのユーロ円の強さがドル円を押し上げる形で連鎖が生まれた。ドル円は、ドル金利が低下する局面でも大きな下落(ディップ)を形成せず、きれいに158円台を回復している。
通常であれば、ドル金利の低下はドル安要因となる。しかし今回は、ユーロ円の上昇がドル円の下値を支え、結果的に円全体が売られる構図が定着した。市場参加者の間では、円を売って高金利通貨を買うキャリートレードの動きが再び活発化しているとみられる。
FOMCを前にした市場の思惑
月末に控える米連邦公開市場委員会(FOMCa)では、利上げの見込みが急速に低下している。そもそも今回のFOMCは、大統領選のわずか1週間前という異例のタイミングで開催される。通常であれば、よほどの緊急事態がない限り、金融政策の変更は見送られるのが当然のスケジュールである。
この状況を最も安堵しながら見守っているのは、日銀の植田総裁ではないだろうか。米国が利上げを見送ることで、日本も早期に追加利上げを迫られるリスクが後退するからだ。市場では、ドル円の金利差拡大見通しもやや弱まるとの観測が浮上している。しかし、それでもなお円売りの勢いは衰えていない。
円売りが止まらない理由——3つの構造的要因
第一に、米長期金利が小休止したとはいえ、その水準は依然として高い。5.2%台の利回りは、ドル建て資産の魅力を維持するのに十分だ。第二に、リスク選好の高まりが新興国通貨やユーロへの資金シフトを促し、その過程で円が売られている。第三に、大統領選を控えたFOMCの政策見送り観測が、短期的な市場の安定感を強めている。
つまり、金利差の拡大期待がやや後退しても、現実の金利差そのものが依然として大きく、円を売ってドルやユーロを買うインセンティブは健在なのである。
日本の金融政策への影響
日銀にとって、この状況は複雑な意味を持つ。米国の利上げ見送りは、日本が急いで追加利上げを実施する必要がないことを意味する。しかし一方で、円安の進行が続けば、輸入物価の上昇を通じて国内経済に悪影響が及ぶリスクがある。
植田総裁は、これまでの会見で「為替相場の動向が経済・物価見通しに大きな影響を与える場合には、追加利上げを検討する」と繰り返し述べてきた。しかし現状では、米国の動きを見極めながら、日本単独での利上げは難しいとの見方が大勢だ。市場参加者の間では、年内の追加利上げ可能性は後退しつつある。
今後の展望——円安トレンドは続くのか
ドル円の利上げ見通しが低下すれば、理論的には円買いの材料になる。しかし、市場が実際に動いている方向は真逆だ。リスク選好の高まりが続く限り、円売りの勢いは再び強まる可能性が高い。ナスダックの史上最高値更新という象徴的な出来事は、投資家のリスクテーク意欲が極めて旺盛であることを示している。
当面の焦点は、FOMCの結果とその後のパウエル議長の会見、そして大統領選の行方である。もしも米国の政策金利が現状維持となれば、円売りはさらに加速するかもしれない。一方で、想定外のタカ派的なメッセージが出た場合には、一転して円買い戻しが入る可能性も否定できない。
いずれにせよ、現在の為替市場は「円売り一色」の様相を強めており、その流れを変えるには、米国の金融政策か日本の政策対応に明確な変化が必要だ。市場は今、その引き金をじっと待っている。