全米に先駆け、イリノイ州がスマートグラスを装着したままの運転を禁止する初の州となる可能性が浮上している。同州議会は2025年5月、運転中のいわゆる「AIスマートグラス」の使用を明確に禁じる法案を可決。現在、JB Pritzker知事の署名待ちの状態にある。知事が署名すれば、イリノイ州はこうした規定を州法として持つ全米最初の事例となる。
全米初の試み:イリノイ州のスマートグラス運転禁止法案とは
この法案は、既存の運転関連法に新たな文言を追加する形で成立した。携帯電話の使用禁止と同列に扱い、特に「AIスマートグラス」を対象機器として明記している点が特徴だ。スマートグラスは写真や動画の撮影、AIによる情報表示など多機能化が進んでおり、運転中の注意散漫を引き起こす新たな要因として問題視されていた。
イリノイ州では、法案が知事のもとに送付されてから60日以内に署名または拒否権の行使が判断される。Pritzker知事の広報担当者は米CNETに対し、「知事はイリノイ州議会から受け取ったすべての法案について、署名前に慎重に精査する」と述べており、現時点で態度を明らかにしていない。
違反時の罰金と適用条件:最大約2万4000円、死亡事故では約16万円
法案に盛り込まれた罰則規定は段階的に設定されている。路肩に駐車している場合など、特定の条件下ではスマートグラスの使用が認められる一方、通常走行中の使用は禁止となる。初回違反の罰金は最大75ドル(約1万2000円)と比較的軽微だが、繰り返し違反した場合は1件あたり最大150ドル(約2万4000円)に増額される。
さらに深刻なケースとして、スマートグラス使用中に重傷事故または死亡事故を引き起こした場合、最低でも1000ドル(約16万円)の罰金が科される。この規定は、運転中の注意散漫が重大な結果を招く可能性があることを踏まえたものだ。
知事の判断が鍵:テクノロジー支援と規制強化の両立
Pritzker知事はこれまで、量子コンピューティングやAI関連雇用などの分野ではテクノロジー業界を積極的に支援する姿勢を示してきた。しかし同時に、データセンターへの優遇措置や生体データ収集などの技術をめぐるプライバシー侵害には強い懸念を表明している。知事はまた、子どもをオンラインで保護する目的でソーシャルネットワークへの規制を強化する別の法案については署名する見通しとされている。
このように、知事は「テクノロジー振興」と「市民保護」のバランスを重視する傾向があり、スマートグラス法案への対応にもそのスタンスが影響するとみられる。
スマートグラス業界に広がる波紋:Meta、Google、Appleの動向
今回のイリノイ州の動きは、急速に拡大するスマートグラス市場に新たな規制の波をもたらす可能性がある。現在、GoogleやAppleといったテクノロジー大手がスマートグラス市場向け製品を開発中であることに加え、同カテゴリーをけん引するMetaも自社製品「Ray-Ban Meta」シリーズを展開している。
Metaをめぐっては、スマートグラス向け顔認識ソフトウェアの開発を巡って厳しい目が向けられている。Wiredの調査報道によれば、同社はすでにモバイルデバイス向け「Meta AI」アプリに顔認識機能を実装していたが、有効化はしていなかったという。世論の反発を受け、同社はソフトウェアを取り下げた経緯がある。さらに、別の報道では、米軍や法執行機関向けソフトウェアを開発するRank One ComputingからMetaが顔認識ソフトウェアのライセンスを取得していることが明らかになっている。
こうした背景から、スマートグラスの社会的受容性は依然として流動的だ。技術の進化とプライバシー、公共の安全のバランスをどう取るかが、業界全体の課題として浮かび上がっている。
日本への示唆:運転中のウェアラブル端末規制の前例に
日本においても、運転中のスマートフォン使用は道路交通法で厳しく禁じられているが、スマートグラスを含むウェアラブル端末についての明確な規定は現時点で存在しない。技術の進展が法規制を上回るスピードで進む中、イリノイ州の動きは日本を含む他地域にとって重要な前例となる可能性がある。
スマートグラスは運転中にナビゲーション情報を表示するなど、利便性を提供する側面もある。しかし、その一方で視野の一部が情報表示で遮られることや、操作に伴う注意散漫が事故リスクを高めるという指摘は根強い。どのような使用形態であれば許容されるのか、技術の進化とともに議論を深める必要があるだろう。