JR西日本、停電不要のドローン点検を本格開始

JR西日本レールテックが山陽本線で夜間の無停電ドローン点検を実現。生産性向上と安全性確保に貢献。

投稿者 central

JR西日本グループのJR西日本レールテックは2026年6月5日、山陽本線・西明石駅構内において、線路上空を横断する道路橋(跨線道路橋)の点検をドローンで実施したと正式に発表した。列車が高頻度で運行する線区において、夜間に鉄道電車線の停電手続きを一切伴わずにドローン点検を実現した事例は、JR西日本管内で初めてとなる。労働人口の減少に伴う技術者不足が深刻化するなか、点検業務の安全性と生産性を同時に引き上げることを目的とした取り組みだ。

夜間の無停電ドローン点検、その実証内容と成果

点検は2026年5月27日午後11時から翌午前4時頃までと、5月30日午後11時から翌午前4時30分頃までの2回にわたって実施された。対象となったのは山陽本線・西明石駅構内で、自治体が管理する跨線道路橋である。中型と小型のドローン計2機を投入し、貨物列車が実際に走行する夜間時間帯において、停電手続きを行わないまま点検を遂行した。鉄道運行への影響が一切生じない条件下で実施された点が特筆される。

事前には、夜間環境で取得される画像の品質や、電車線設備への接触リスクなどについて、JR西日本本社と緊密に連携しながら各種性能確認と検証を重ねている。実際の運用に先立つ入念な準備段階を経て、本番での安全な運用が可能となった。

なぜ「停電不要」がこれほど重要なのか

従来の鉄道インフラ点検では、作業員の安全を確保するために該当区間の電車線を停電させる必要があった。この停電手続きには関係各所との調整や実際の遮断作業に多大な時間と労力がかかり、結果として点検作業はどうしても夜間の限られた時間帯に集中せざるを得なかった。さらに、点検そのものも軌陸両用車を使用した高所作業が基本であり、作業員の感電リスクや墜落リスクが常に伴う危険な業務だった。

今回のドローン活用により、これらの制約が一気に解消された。遠隔操作でドローンを飛行させるため、高所作業そのものが不要となり、感電や墜落といった物理的リスクが劇的に低減した。安全面での改善は極めて大きい。

生産性は約7倍、人員は7分の1に

生産性の向上も顕著だ。今回対象となった跨線道路橋の場合、従来の手法では延べ10日間・延べ140人を要する作業計画だった。ところが、ドローンを使うことで延べ2日間・延べ20人で完了できる計算になる。単純計算で作業期間は5分の1、必要人員は7分の1に圧縮されたことになる。

これは単なる効率化にとどまらず、慢性的な人手不足に直面する鉄道インフラ業界にとって、持続可能なメンテナンス体制を構築する上で極めて重要な意味を持つ。限られた人員でより多くの点検箇所をカバーできるようになれば、インフラ全体の健全性維持にも直結する。

ドローン点検の技術的仕組みと検証プロセス

今回使用されたのは中型と小型の2機のドローンで、それぞれの特性を活かした役割分担がなされたとみられる。夜間という光量が限られた環境での撮影には、高感度カメラや赤外線センサーなどの特殊な機材が搭載されていた可能性が高い。JR西日本レールテックは事前に、夜間環境における画像の解像度や鮮明度、さらには電車線設備への物理的接触や電磁的影響について、詳細な性能確認と検証を実施している。

鉄道の電車線は高電圧の電気が流れており、ドローンの飛行経路や制御システムに影響を及ぼす可能性がある。このため、実際の運用に先立って綿密なリスクアセスメントと試験飛行が繰り返されたことは想像に難くない。JR西日本との連携のもと、安全基準を満たしていることが確認された上で、本番運用に移行した。

SDGsへの貢献と今後の展開

JR西日本レールテックは今回の取り組みについて、SDGs17のゴールのうち特に3番「健康と福祉」、8番「働きがいと経済成長」、9番「産業と技術革新」、11番「住み続けられるまちづくり」に貢献するものと位置づけている。安全性の向上は労働者の健康と福祉に直結し、生産性の改善は働きがいと経済成長につながる。さらに新技術の活用そのものが産業と技術革新を促進し、インフラの持続可能な維持管理は住み続けられるまちづくりに寄与するという考え方だ。

同社は今後、鉄道や道路のインフラ構造物を対象としたドローン点検をさらに拡大する方針を明確にしている。橋梁だけでなく、トンネルや高架橋、信号設備など、点検対象の種類を広げていくことが予想される。また、JR西日本グループ全体として、設備メンテナンスにおける安全性と生産性の向上に向けて、AIによる画像解析や自動飛行制御など、さらなる新技術の活用も視野に入れている。

鉄道インフラの老朽化と労働力不足という二重の課題に対して、ドローン技術が一つの現実的な解を示した今回の事例は、他の鉄道事業者やインフラ管理組織にとっても大きな参考となるだろう。夜間の無停電点検という実績を足がかりに、ドローン活用の範囲が加速度的に広がっていくことが期待される。

この記事をシェア