台湾の林佳龍外交部長(外相)が、アリゾナ州を訪問し台湾積体電路製造(TSMC)の工場を視察する。トランプ米大統領が中国との関係安定化を模索するなか、台湾が米国との経済関係を一段と深化させる狙いがあるとみられる。
複数の関係者によると、林外交部長はベリーズとグアテマラを訪問した後、現地時間の今週末にフェニックスに到着する予定。訪問中には、台湾の新たな駐フェニックス事務所の開所式に出席するほか、州政府や市の関係者との会談、そしてTSMCがアリゾナ州に建設中の半導体工場の視察が予定されている。台湾外交部aの説明として伝えられているところでは、今回の訪問は米国に投資する台湾企業への支援を強化し、米国政府や学術機関との連携による産業クラスターの構築を促進するのが目的。半導体サプライチェーンに携わる台湾企業に対し、より多くの米国進出を促す契機としたい考えだ。
この訪問が注目される背景には、トランプ大統領が中国の習近平国家主席をワシントンに招いて国賓として迎えた首脳会談の存在がある。両首脳は2027年初頭までの貿易休戦の継続で合意した一方、会談の場で習主席は米国に対し「台湾独立に反対する」よう求めた。これは、台湾をめぐる米国の従来の立場に変更を迫るものとして波紋を広げている。
半導体を武器にした台湾の外交戦略
台湾にとって、半導体サプライチェーンにおける圧倒的な存在感は、外交上の重要なレバレッジ(梃子)となっている。トランプ政権が進める米国の再工業化と半導体製造能力の再構築には、台湾の協力が不可欠だと台湾政府は主張する。TSMCのアリゾナ工場は、そうした台湾の戦略を象徴するプロジェクトだ。
台湾は民主的に統治される島であるが、中国は自国の領土の一部だと主張し、必要であれば武力も辞さずに支配下に置く姿勢を崩していない。台湾側は中国の主権主張を拒否し、実質的な独立国家としての立場を維持している。米国は北京を正式に承認する一方、台湾とは非公式な関係を維持し、主要な安全保障パートナーとしての役割を担っている。
中米外交承認シフトと台湾の孤立
中国は世界各地の国々に対し、台湾の承認を取り下げるよう働きかけを続けてきた。中米地域ではこの10年ほどの間にパナマ、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラスが次々に台湾との関係を断ち、中国側へと鞍替えした。その結果、現在中米で台湾と外交関係を維持しているのは、グアテマラとベリーズのみとなっている。
そうした国際的な孤立圧力の高まりを背景に、台湾は半導体を軸とした経済外交をより積極的に展開せざるを得ない状況にある。今回の林外交部長によるアリゾナ訪問は、技術力を外交の最前線に据える台湾の現状を如実に示していると言える。
台湾企業の米国進出と産業クラスターの形成
林外交部長の訪問の具体的な目標の一つが、TSMCのアリゾナ工場を起点とした産業クラスターの形成だ。TSMCの進出に追随する形で、半導体サプライチェーンに属する多くの台湾企業が米国での事業展開を検討している。今回の訪問では、それらの企業に対する支援の枠組みを米国政府や州政府と協議する機会が設けられる見通し。
台湾と米国の間では、単なる製造拠点の建設にとどまらず、研究開発や人材育成の分野でも連携を拡大する方向性が模索されている。半導体を軸とした日米台の協力関係が、今後の国際政治の行方にどのような影響を与えるのか、引き続き注目が集まる。