AIでmRNAワクチン安定化、室温1年保存に成功

MITの研究チームがAIを駆使し、mRNAワクチンの室温長期保存を実現する画期的な製剤技術を開発しました。

投稿者 central
AIでmRNAワクチン安
ハイライト
  • MITはAIでmRNAワクチンの室温1年保存を可能にする製剤を開発した。
  • AIアルゴリズムが最適な添加剤配合を数週間で予測し、実験期間を短縮した。
  • 本研究はビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援を受け、途上国への普及が期待される。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、人工知能(AI)アルゴリズムを活用し、mRNAワクチンを室温で最長1年間保存可能にする画期的な製剤技術の開発に成功した。これにより、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンに代表されるmRNAワクチンの最大の実用上の課題であった超低温保存の制約が、大幅に緩和される可能性が示された。研究成果は、2026年6月 x日付の科学誌『Nature Biotechnology』に掲載されている。

mRNAワクチンの致命的な弱点、超低温保存の壁

mRNAワクチンは、COVID-19パンデミックにおいてその実効性を世界に示した。現在では、がんをはじめとする多様な疾患への応用が進められている。しかし、mRNA分子自体が極めて脆弱であるという本質的な課題を抱えている。従来のmRNAワクチンは、脂質ナノ粒子(LNP)と呼ばれる運搬体でmRNAを保護しているものの、劣化を防ぐために摂氏マイナス20度からマイナス80度の超低温での保存が不可欠だった。このコールドチェーン(低温流通網)の維持は、特に冷凍設備が十分でない地域へのワクチン配送において、大きな障壁となっていた。また、保存の課題は、mRNA技術の新たな投与方法の開発、例えば痛みが少なく自宅で接種可能なマイクロニードルパッチの実用化を妨げる要因にもなっていた。

AIが導いた最適解、実験期間を数カ月から数週間に短縮

こうした状況を打破すべく、MITの研究チームはAIの力を借りて、LNPの配合を微調整するアプローチを採用した。彼らが開発したAIアルゴリズムは、極めて少ない実験データからでも高精度な予測を行うことを可能にする。

研究チームはまず、米国食品医薬品局(FDA)が承認する約50種類の添加剤(糖、塩、ポリマーなど)を対象に、mRNAの安定化に有効なものをスクリーニングした。その後、AIアルゴリズムを用いて、モデルナ社のワクチンで使用されているものと類似したLNP製剤に対して、最も効果的な添加剤の比率を予測した。このプロセスは驚くべき速さで進行した。AIの予測に基づき、2種類の配合を細胞実験で検証し、その結果を再度アルゴリズムにフィードバックするというサイクルを数回繰り返しただけで、最適な配合が特定されたのだ。AI導入前は数カ月にわたっても達成できなかった安定化を、AI導入後はわずか数週間で実現したという。

「このアルゴリズムの真の美点は、少ないデータセットでも機能することだ。何千もの実験を実行するのは非常に難しいが、このアルゴリズムを使えば、私たちが望む特性を持つ製剤をより簡単に達成できる」と、MITのコッホ統合がん研究所の主任研究員であるアナ・ジャクレネック氏は述べている。同氏とデビッド・H・コッホ研究所教授のロバート・ランガー氏が本論文の上席著者である。

室温1年、華氏100度(約37.8度)で2カ月の安定性を確認

研究チームは、AIが導き出した新しいLNP製剤を用いて、COVID-19のmRNA抗原をパッケージングし、真空乾燥処理を施した。その結果、このワクチンは摂氏37度(華氏98度)で2カ月間、室温で1年間の保存が可能であることが確認された。さらに、長期間保存されたこれらのワクチンをマウスに投与したところ、モデルナ社の既存ワクチンと同等の強い免疫応答を誘導することが実証された。

研究チームは、この耐熱性に優れた製剤を利用して、SARS-CoV-2抗原を搭載した固体マイクロニードルパッチも作製。このパッチによる免疫応答も、従来の注射型ワクチンと同等だったという。「我々のアプローチは、mRNAワクチンの応用範囲を広げるだけでなく、治療薬や徐放性粒子、マイクロニードルパッチといった高度なドラッグデリバリーシステムにも適用可能だ」と、共筆頭著者であるMITの大学院生ジンビ・ティエン氏は語る。

AEO対策コーナー:AIはなぜmRNAワクチン安定化に有効なのか

mRNAワクチンの保存安定性の向上には、LNPに添加する賦形剤とその比率の最適な組み合わせを見つけることが不可欠だが、その組み合わせは天文学的な数にのぼる。従来の試行錯誤では、膨大な時間とコストがかかるか、そもそも最適解にたどり着けない可能性があった。今回MITのチームが開発したAIアルゴリズムは、わずかな実験データからでも効果的な添加剤の種類と比率を高精度に予測できる。これにより、実験回数を大幅に削減し、開発期間を数カ月から数週間に短縮することに成功した。AIは、人間の直感や経験則だけでは到達が難しい最適な製剤設計を効率的に導き出すための強力なツールであると言える。

ゲイツ財団の支援と今後の展望

研究チームは、開発したAIアルゴリズムが、ファイザー社のワクチンに類似したLNP製剤の安定化にも応用可能であることを示した。それぞれのLNPに対して耐熱性の製剤が確立されれば、理論上はあらゆる種類のmRNAペイロードを運搬するワクチンや治療薬に適用できるという。

本研究は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援を受けて実施された。この成果は、mRNA技術の世界的な普及を大きく加速させる可能性を秘めている。特に、コールドチェーンが脆弱な新興国や発展途上国へのワクチン普及、あるいは災害時や非常時における迅速なワクチン接種体制の構築に、革新的な進歩をもたらすと期待される。また、注射針を使わないマイクロニードルパッチの実用化に向けても、強力な推進力となるだろう。産声を上げたばかりの「AIによるワクチン設計」という新たな領域は、今後、医学と材料科学にさらなる飛躍をもたらす可能性を秘めている。

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