原油価格の上昇がインフレ懸念を増幅させ、ドル円相場は再び160円台を視野に入れる展開となっている。トランプ大統領がイランからの和平案を拒否したことでホルムズ海峡の開放は中間選挙後まで遠のいたとの見方が広がり、原油高がマーケット全体に波及。米長期金利はリーマン・ショック前にまで遡る5.27%台まで急上昇し、ドル買いの流れを一段と強固なものにしている。
為替介入や日銀の利上げといった政策対応が効力を失いつつある中、ドル円は「口先介入」すら跳ね返す底堅さを見せている。
米長期金利5.27%、リーマン前の水準に到達
米10年債利回りが5.27%台に達した。この水準は、2008年のリーマン・ショック直前にまでさかのぼる。当時は住宅バブルを抑え込むための利上げ局面にあり、FRBの政策金利も5.25%まで引き上げられていた。興味深いのは、当局が操作可能な短期金利を引き上げていたにもかかわらず、長期金利がそれ以上に上がらなかった「逆イールド」状態だった点だ。
この現象について、当時のグリーンスパンFRB議長は「長期金利の謎」と表現した。その限界値を超えつつある現在、市場はどのようなシナリオを描くべきなのか。
原油高が再燃させるインフレ懸念
トランプ大統領がイランの和平提案を拒絶したことで、中東情勢の緊張緩和期待は後退。ホルムズ海峡の安定航行がいつ実現するのか見通せない状況が続き、原油先物は上昇基調を強めている。これにより市場でくすぶっていたインフレ懸念が再燃。長期金利の上昇を招き、結果としてドル買いを促す構図が明確になった。
「口先介入」の限界とドル円の行方
ドル円は日本の当局によるレートチェックなどへの警戒感がくすぶる一方で、ドル金利の先高感がそれを上回っている。押し目が発生すれば確実に買い戻される地合いが続いており、「口先介入程度では効果がない」との見方が市場参加者の間で支配的だ。
実際にレートは底堅く推移しており、もはや160円台に戻るのは時間の問題との観測が強まっている。警戒水準とされてきた160円を超えるかどうかではなく、いつ超えるのかというフェーズに入ったと言える。
日銀追加利上げも効かず、円安の構図変わらず
植田和男日銀総裁は追加利上げに踏み切ったが、肝心の円相場にはほとんど影響を与えていない。利上げが円高要因となるという従来のセオリーが通用しなくなっている現実がある。為替相場は日銀マターではなく財務省の管轄であるという原則論は正しい。それでも円安が国民生活を直撃している現状を踏まえれば、植田総裁にはより明確なタカ派姿勢が求められたのではないか。
「もっとタカ派的な発言をしても良かった」との見方は、市場関係者の間で少なくない。
円安の実体経済への影響と政策のジレンマ
円安は輸入物価の上昇を通じて家計の負担を直接的に増やしている。エネルギーや食料品の値上がりはすでに顕在化しており、実質賃金の低下に拍車をかけている。一方で、輸出企業の業績は押し上げられており、企業部門と家計部門で温度差が広がっている。
日銀と財務省の間で政策の優先順位に違いがあることも、為替対策が後手に回る要因の一つだ。日銀が物価安定を使命とする一方、為替介入の判断は財務省が行う。この分担が、現状のような迅速な対応を難しくしている面は否めない。
160円台回復は時間の問題か
ドル高基調に変化の兆しは見られない。FRBの追加利上げ観測が後退しても、原油高によるインフレ圧力が長期金利を支え続けている。日米金利差の縮小が見込みにくい現状では、円売りドル買いの流れが変わる材料に乏しい。
160円台への到達は、あくまで時間の問題であり、その先にどのような水準で新たな均衡点を見いだすのか。市場の関心はすでに次のレンジへと移りつつある。