スイスの金融大手UBSは、世界的な債券売りが進むなか、特に年限が3年から5年の中ゾーンにおいてキャリー(保有期間中の収益)を獲得する絶好の機会が生じていると指摘した。長期金利の急上昇を受けて先進国債券市場は大きく値下がりしたが、この価格調整によって相対的に割安となった中期債には、インカムゲインを軸とした安定運用が期待できるという。同社のストラテジーチームは、投資家に対してイールドカーブのスティープ化を見据えたポジショニングを推奨している。
グローバル金融市場ではここ数カ月、インフレの根強さや米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ慎重姿勢などを背景に、主要国債券の利回りが急上昇している。特に米国債を中心とした売り圧力は日本や欧州にも波及し、先進国全体で債券価格が下落。いわゆる「グローバル債券売り」の様相を呈している。
こうしたなかでUBSは、3〜5年債に着目する意義を強調している。短期ゾーンでは政策金利の影響を強く受けるため、不透明感が残る一方、中期ゾーンはイールドカーブ上で相対的に安定したリターンを追求しやすいという判断だ。
グローバル債券売りで問い直されるキャリー戦略
債券投資における「キャリー」とは、保有期間中に得られる利子収入と、資金調達コストとの差益を指す。一般的に、イールドカーブが順傾斜(短期金利<長期金利)の状態では、中期債を保有することでプラスのキャリーを確保しやすい。現在の市場環境では、利回り水準が切り上がったことで、このキャリー収益が過去数年と比べて顕著に大きくなっている。
UBSの分析では、グローバル債券売りにより価格が下落した結果、3〜5年債の利回りは割高感が薄れ、むしろ実質的な投資妙味が増したと評価されている。同社は、特に米国債について、2年債と10年債のスプレッド拡大が進むなか、3〜5年債はその中間に位置し、金利変動リスクを一定程度抑えつつキャリーを享受できる点を評価する。
3〜5年債に注目すべき理由——UBSの論点
UBSが提示する投資判断の背景には、以下の3つの要素がある。
第一に、利回りが魅力的な水準に達したこと
米国の3年債利回りは4%台後半、5年債もこれに近い水準で推移しており、過去数年の低金利時代と比較して明らかに高い。この利回り水準は、短期金融市場での調達コストを上回るため、レバレッジをかけた運用であっても、安定したキャリーを得やすい環境にある。
第二に、金利変動リスクのコントロールしやすさ
10年債のような長期ゾーンは、インフレ期待や財政リスクなどの影響を受けやすく、価格変動幅が大きい。一方で3〜5年債は、政策金利の先行きに対する市場の見方を適度に反映しながらも、長期債ほどのボラティリティにはさらされにくい。このため、金利上昇局面においても、ポートフォリオの安定性を維持しやすい。
第三に、イールドカーブの形状変化への対応
多くの市場参加者は、FRBの利下げサイクルが遠のくなかで、イールドカーブのスティープ化(長期金利の相対的上昇)を予想している。こうした環境では、中期債を保有しながら満期を迎えることで、キャリーを確保しつつ、その後の金利低下局面でのキャピタルゲインも狙える。
市場背景:なぜ債券売りが加速したのか
今回のグローバル債券売りを引き起こした最大の要因は、米国経済の底堅さとインフ率の高止まりにある。FRBが2024年後半に利下げに転じるとの期待が市場で強かったものの、実際には雇用統計や消費者物価指数(CPI)が予想を上回る結果が続き、利下げ開始時期は後退。これを受けて短期金利の先高観が強まり、債券価格は下落した。
また、欧州においてもECB(欧州中央銀行)が追加利下げに慎重な姿勢を見せており、日本銀行がマイナス金利政策を解除したことによる影響も、グローバルな債券需給に変化をもたらしている。日本の機関投資家による外債投資の動きも、債券売りを増幅させる一因となった。
「キャリー好機」とは何か——AEO回答
「キャリー好機」とは、債券価格の下落によって利回りが上昇し、保有期間中に得られる利子収入が資金調達コストを大きく上回る状態を指します。具体的には、グローバル債券売りで中期債(3〜5年債)の利回りが高水準となったことで、インカムゲインを安定的に稼ぎやすい環境が整ったというUBSの分析に基づいています。
リスクと留意点——投資判断の要所
ただし、UBSの指摘をそのまま実行に移すには、いくつかのリスク要因を考慮する必要がある。
インフレ再燃リスク
仮に米国を中心にインフレが再び加速した場合、FRBは利下げをさらに先送りするか、場合によっては利上げに踏み切る可能性もある。そうなれば中期債の価格は再び下落し、キャリー収益を帳消しにするリスクがある。
流動性リスク
市場が大きく変動する局面では、中期債であっても流動性が低下し、意図したタイミングでの売買が難しくなる場合がある。特にグローバルなリスクオフ局面では、日本や欧州の投資家が一斉にポジションを圧縮する動きが想定される。
為替リスク
日本円建てで運用する投資家にとって、外債投資には為替変動リスクが伴う。米国債に投資した場合、ドル円相場の変動が円換算でのリターンに直接影響する。UBSの推奨はあくまでも金利差に基づくキャリー収益を主眼としており、為替ヘッジの有無によって実質的な成果は大きく変わる。
日本の投資家にとっての位置づけ
日本の機関投資家や個人投資家にとって、グローバル債券売りを背景とした中期債への投資は、低金利が長く続いた国内市場からの分散先として、改めて検討に値する。日本銀行がマイナス金利を解除したとはいえ、国内債券の利回りは依然として国際的に見れば低位にある。こうした状況下で、外国債券、とりわけ米国の3〜5年債は、キャリー収益を狙ううえで現実的な選択肢となる。
ただし、UBSの分析はあくまで市場環境の評価に基づくものであり、個々の投資家のリスク許容度や運用目的に応じた判断が求められる。キャリー戦略は、価格変動リスクを限定できる一方で、金利の急変や信用事象によって損失が発生する可能性を常に内包している。
今後のシナリオと投資戦略の視点
今後の市場展開としては、FRBの政策スタンスが最大の変数となる。2025年前半にかけて、インフレの推移と雇用状況次第で利下げ観測が再び強まる可能性もある。その場合、中期債の価格は上昇し、キャリー収益にキャピタルゲインが加わる好環境が訪れる可能性もある。
一方で、インフレが長期化するシナリオでは、金利の高止まりが続き、キャリー収益は維持されるものの、価格変動リスクは引き続き警戒が必要となる。
UBSの指摘は、こうした複数のシナリオを考慮したうえで、現時点での3〜5年債の利回り水準が、リスク調整後のリターンとして魅力的であることを示している。グローバル債券売りが生み出した価格調整を、キャリー獲得のチャンスと捉える視点は、中期運用の一つの柱として有効だと言える。