東京ゲームショウ2026(TGS2026)のインディーゲームコーナー「SELECTED INDIE 80」で、ひときわ異彩を放っていたのが、物理演算ベースのクライミングゲーム『TETE』だ。ブースでは短いデモ版がプレイアブル出展されており、その独特な操作感と、文字通りどこへでも登れる自由度の高さが来場者の注目を集めていた。本稿では、実際に触れて感じた本作の核心部分を詳しくレポートする。
物理演算が生む、直感的で予測不能な登攀体験
『TETE』は、従来のアクションゲームのように決められた足場や壁を順に登っていくタイトルではない。プレイヤーキャラクターの両腕と両脚は独立した物理挙動を持ち、それぞれをマウスやコントローラーの操作で個別に動かす必要がある。具体的には、手を伸ばす、掴む、引き寄せる、体を振り子のように揺らすといった動作を、リアルタイムで組み合わせながら進んでいく。
特筆すべきは、掴んだオブジェクトの材質や形状によって反応が変化する点だ。金属製のパイプは滑りやすく、岩肌は粗くてしっかり引っかかるが、保持できる時間に限りがある。これにより、単なる「登る」という行為が、常に微調整と判断を要求されるパズル的な要素へと昇華されている。デモ版で体験できたのは比較的短いコースだったが、それでも体を思うように動かせないもどかしさと、うまく次の足場に飛び移れたときの快感が交互に訪れる、非常に没入感の高いゲームプレイだった。
SELECTED INDIE 80でのデモ内容
TGS2026の会場で公開されていたデモは、チュートリアルに近いセクションと、いくつかの挑戦的な崖や障害物が配置されたステージで構成されていた。プレイヤーはまず、基本的な掴みや引き寄せの操作を学び、その後、不安定な足場を渡り、風に揺れるロープを伝って目標地点を目指す。このデモの大きな魅力は、プレイヤーごとに全く異なるルートを取れる点にある。ある人は真っ直ぐ壁をよじ登ろうとし、別の人は迂回して木の枝を伝う。物理演算であるがゆえに、同じルートでも速度やタイミングで結果が変わるため、繰り返し挑戦したくなる仕掛けが随所に施されていた。
「TETE」の核心:自由移動がもたらす無限の可能性
本作の最大のセールスポイントは、その「自由な移動」にある。一般的なクライミングゲームでは、掴めるポイントが明示的にマーキングされていることが多い。しかし『TETE』では、背景のオブジェクトであればほぼ全てが掴みの対象となる。看板の端、電線、岩の突起、木の幹――。開発者によれば、ステージ内の「掴めるオブジェクト」は数千単位で設定されており、プレイヤーの思いつく限りのルートが理論上成立するという。
この設計思想は、明確な「正解ルート」を用意しないというアプローチに直結している。プレイヤーは自分なりの戦略を組み立て、物理エンジンの挙動を考慮しながら手足を動かす。成功したときの達成感は格別で、まるで自分が実際に崖を登っているかのような緊張感と解放感が味わえる。
なぜ今、物理演算クライミングなのか
近年のインディーゲームシーンでは、『Getting Over It with Bennett Foddy』や『A Short Hike』など、移動そのものを楽しむ作品が一定の人気を博している。『TETE』はその流れをさらに推し進め、物理演算を操作の中核に据えることで、操作性そのものをコンテンツにしている。従来のアクションゲームが「移動は手段」であるのに対し、本作では「移動が目的」であり、かつそのプロセス自体が遊びになっている点がユニークだ。特に、コントローラーの振動機能と連動した掴みの感触や、手を離したときの重力加速度の表現など、細部へのこだわりがプレイ体験を豊かにしている。
開発チームのビジョンと今後の展開
ブースで話を聞いた開発チームによると、『TETE』は現在PC向けに開発中で、2027年内の早期アクセスリリースを目指しているという。当初は短いコースからスタートし、プレイヤーのフィードバックを元にステージを追加していくスタイルを想定しているとのこと。また、マルチプレイヤーモードの検討も行われており、複数人で協力して巨大な建造物を登攀する、あるいは競争するといったアイデアも浮上している。
「SELECTED INDIE 80」というプラットフォームでこうした意欲作が紹介された意義は大きい。大手パブリッシャーのタイトルが並ぶ中、プレイヤーが自ら試して発見する楽しみを提供する本作は、TGS2026のインディーコーナーの中でも特に印象的な存在だった。
「TETE」とは? 誰でも簡単に楽しめるのか
「TETE」は、物理演算を用いて手足を独立操作するクライミングゲームである。操作はシンプルだが、習得には慣れが必要。一方で、操作ミスがコミカルな失敗シーンを生むことも多く、プレイ動画としても映える要素を持つ。初心者はまずチュートリアルで基礎を覚え、慣れてきたら自由にルートを開拓する楽しみ方へ移行するのがおすすめだ。
TGS2026が示すインディーの新たな方向性
物理演算を軸に据えたゲームは、かつては「バグゲー」「クソゲー」のレッテルを貼られることも少なくなかった。しかし近年の技術進歩と、プレイヤー側の新奇性への需要の高まりを受け、こうした作品が正当に評価される土壌が整いつつある。『TETE』はその象徴的な作品の一つと言えるだろう。登攀の自由度が極限まで追求された世界で、自分の腕前だけを頼りに頂を目指す――そのシンプルな体験が、ゲーム本来の楽しさを再認識させてくれる。今後の正式リリースが待ち遠しい。