米国のトランプ大統領は、現地時間7月2日に放送されたCNBCのインタビューで、人工知能(AIa)規制に関するスタンスを明確にした。「ある程度のガードレールは必要だが、介入はできるだけ少なくしたい」と述べ、規制を最小限に抑えながら、中国との競争を最優先とする姿勢を改めて強調した。トランプ氏は「AI市場はインターネットよりも大きい。ナンバーワンになった者がこのレースに勝つ」と述べ、市場の主導権を握ることへの強いこだわりを示した。
この発言は、中国企業によるAIの性能面での追い上げと、米国が追加規制に踏み切る可能性について司会者から質問を受けた際のもの。トランプ氏は「悪質なプレイヤーがいれば迅速かつ効果的に止める。最近実際にそうしたケースがあった」と述べつつ、「現時点でわれわれは大幅にリードしている」と米国の優位性を強調した。
ここで言及された「そうしたケース」とは、2026年6月に米Anthropicが開発したAIモデル「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」に対する輸出規制を指しているとみられる。トランプ政権はこれまで、一貫して規制緩和路線を推し進めてきたが、この措置は一転して厳しい規制に踏み切ったものとして注目された。
トランプ政権のAI戦略:規制緩和から輸出規制への転換点
トランプ政権のAI政策は、2025年1月にバイデン前政権のAI大統領令を撤回したことに始まる。同年7月には規制緩和とインフラ増強を柱とする「AI行動計画」を公表し、同年12月には州レベルのAI規制を無効化する大統領令に署名するなど、「介入最小限」の路線を鮮明にしてきた。
しかし2026年6月、政権は突如としてAnthropicの最先端AIモデル「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」の輸出規制に踏み切った。この背景には、国家安全保障上の懸念があったとされる。
発端は、Fable 5の安全機構を迂回(ジェイルブレーク)する手法が発見されたことにある。この手法により、ソフトウェア脆弱性の発見に関わる出力を引き出すことが可能となり、Anthropicに出資する米Amazonの研究者らが確認。Amazonのアンディ・ジャシーCEOが直接、ホワイトハウスに懸念を伝えたと報じられている。
輸出規制解除の経緯と「迅速かつ効果的」な対応の実態
輸出規制を受けて、AnthropicはAmazonらと協力し、問題となったジェイルブレーク手法の検証を実施。その結果、この手法はFable 5に特有のものではなく、従来モデルでも同様に有効であることが判明した。加えて、AnthropicがFable 5の安全対策を強化したことを受け、6月30日には両モデルの輸出規制が解除された。
この一連の流れは、トランプ氏がインタビューで語った「悪質なプレイヤーがいれば迅速かつ効果的に止める」という言葉を裏付ける事例となった。規制緩和を基本方針としながらも、国家安全保障に直結するリスクに対しては迅速な措置を取るという、同政権の姿勢が明確に示された形だ。
経済・産業への影響:巨大市場を巡る米中競争の行方
今回の発言は、AI規制の枠組みそのものよりも、国際競争の文脈で理解する必要がある。トランプ氏が「AI市場はインターネットより大きい」と表現した通り、AIは次世代の基幹技術として、経済成長と国家安全保障の両面で極めて重要な位置を占めている。
規制強化は一時的に米国企業の競争力を損なう可能性があるが、一方で技術流出や敵対的な勢力による悪用を防ぐための措置も不可欠だ。今回のFable 5とMythos 5の輸出規制は、そのバランスを模索する試みの一つと評価できる。
中国企業は生成AI分野で急速にキャッチアップしており、米国市場向けのクラウドサービスや半導体輸出規制をすり抜ける形で、独自のAIエコシステムを構築しつつある。トランプ政権が「介入最小限」と「迅速な規制」の間で、どのようにバランスを取りながら競争優位を維持していくのか、今後の動向が注目される。