ソフトバンクは7月23日、成層圏に滞空する「空飛ぶ基地局」HAPS(High Altitude Platform Station)のプレ商用サービスを、8月中旬以降に日本上空で開始すると発表した。全長65mの飛行船型機体を米国から太平洋越しに日本へ運び、高度約20kmの成層圏から地上のスマートフォンと直接通信する実証試験を実施する。商用サービスは2027年以降を予定している。
8月中旬から日本上空でプレ商用開始へ
今回のプレ商用サービスでは、米Sceye社製の飛行船型機体を使用する。同機体は3月25日、米ニューメキシコ州からブラジルのナタール沖まで約12日間、1万km超を飛行する最終テストフライトを完了。誤差1km以内の範囲に88時間以上とどまる定点滞空に成功し、日中はソーラーパネルで充電、夜間はバッテリーで飛行する電力サイクルの動作も確認している。機体に搭載する無線機と日本のコアネットワークを結ぶ通信試験も既に完了しており、先週には高知県の高台にHAPSを自動追尾する地上ゲートウェイを設置した。
日本上空での滞空期間は1週間から10日程度を想定。実証候補地は南海トラフや海溝型地震を想定し、高知県、近畿、九州、東北から気象条件が最も適した場所を選ぶ。通信試験と併せて周辺の地上通信網への干渉も確認し、結果は8月末ごろに公表する見通しだ。米国から機体を飛ばす理由について、ソフトバンクは「巨大な機体を収容できる格納庫の準備が間に合わなかったため」と説明。国内への格納庫設置に向けた交渉も進めているという。
HAPSとは何か——成層圏からの直接通信
HAPSとは、気流が安定した高度約20kmの成層圏に機体を滞空させ、地上のスマートフォンと直接通信する新たな通信インフラである。衛星と違い高度が低いため、地上の携帯電話と同等の品質で音声通話やSMS、データ通信を利用できる。特に上り通信(スマートフォンから基地局への送信)で速度を確保しやすいのが特徴だ。ソフトバンクは当初、電動プロペラ駆動の固定翼機を想定していたが、今回の実証では飛行船型を採用した。
Starlinkとの使い分け方針
気になるのが、4月10日に商用化された「SoftBank Starlink Direct」との役割分担だ。ソフトバンクの上村征幸氏(ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長)は、Starlink Directが山間部や離島、海上などに中〜低容量の通信を提供するのに対し、HAPSは地上の携帯サービスと同等の高品質・大容量通信を限られたエリアに提供するものと説明。衛星は上空約340kmにあるためスマートフォンからの上り通信で速度を出すのが難しいが、HAPSはその課題を解決できるという。
災害時には両者を組み合わせる。発災当初はStarlink Directでテキスト系の通信を中心に対応し、HAPSが駆けつけながら音声を含めた高品質通信を復旧していく方針だ。法人利用でも、ドローンの操縦だけなら衛星通信で足りるが、撮影映像のリモート監視にはHAPSの上り速度が必要になるとしている。
当面はソフトバンクユーザー限定、災害時利用の実像
プレ商用サービスで利用できるのは、当面はソフトバンクのユーザーに限られる。従来の移動基地局が上空20kmに上がったという考え方で、まずは自社回線でのサービスを開始する。1機で直径200km規模のエリアをカバーする想定で、日本全国をカバーするには30〜40機程度が必要だが、全国規模の展開は当面考えていないという。今回の実証は1機で行い、2027年以降も1〜2機での運用を予定する。
運用上の大きな課題の一つが台風だ。HAPSが滞空する成層圏は台風より高い位置にあるが、上村氏は「HAPSに対して下から上への風が吹き、かなりの高度まで持っていかれる可能性がある」と説明。台風を避けて運用する必要性を強調した。
今後の展望——3次元ネットワーク構想へ
ソフトバンクは将来、複数のHAPSと低軌道衛星を光無線通信で結び、地上網に重ねる「3次元ネットワーク」を目指す。年内には光無線通信装置を搭載した小型衛星を打ち上げ、まずは地上との通信試験を実施する計画だ。成層圏と宇宙、地上をシームレスにつなぐ次世代通信インフラの実現に向け、今回のプレ商用サービスはその第一歩となる。HAPSが本当に実用的な高品質通信を提供できるのか、8月の試験結果が注目される。