米国大統領ドナルド・トランプ氏が自身のソーシャルメディアで支持を呼びかけたミームコイン「$TRUMP」を購入した約100万人の個人投資家が、総額38億1000万ドル(約6200億円)という巨額の損失を被っていたことが明らかになった。米暗号資産分析会社Nansenの調査に基づく報道によれば、トランプ氏自身はこのコインの発行と取引に関連し、6億3600万ドル(約1000億円)もの利益を確定させていたという。まさに、大統領という公職にある人物が、支持者である個人投資家から富を移転させた構造が浮き彫りとなった。
「$TRUMP」急騰と暴落の経緯
「$TRUMP」は、トランプ氏が大統領就任を目前に控えた2025年1月に突如発行され、瞬く間に暗号資産市場で熱狂を巻き起こした。発行直後から価格は高騰を続け、最高値となる75.35ドルを記録。時価総額は一時数百億ドルに達したが、その後は急落の一途をたどり、現在の価格は最高値から97%も下落した1.76ドルに低迷している。この急落により、購入者の約3分の2に相当する約99万人が含み損もしくは確定損失を抱えていると推定される。
トランプ氏が得た約1000億円の利益の仕組み
トランプ氏の利益は、単なる価格上昇によるものではない。同氏の企業は「$TRUMP」の総供給量の80%を保有しており、市場での取引が発生するたびに取引手数料を得る仕組みを構築していた。さらに、トランプ氏は自身のSNSで「今夜は何か特別なものを用意している」「今が買い時だ」といった投稿を繰り返し、多くの支持者を購入に駆り立てた。
公開されたトランプ氏の財務情報開示書類によると、同氏はこの暗号資産関連の収入だけで6億3600万ドル(約1000億円)を計上していた。これは、彼が大統領在任中に得た他の収入をはるかに上回る規模であり、仮想通貨市場における「内部者取引」に近い構造的な利益獲得スキームとして批判を招いている。
$WLFIも大暴落、調査口座の85%が損失
トランプ氏の暗号資産への関与は「$TRUMP」だけではない。同氏とその息子たちが設立した暗号資産関連企業「World Liberty Financial(WLFI)」が発行するトークン「$WLFI」も、ピーク時から82%下落している。Nansenの調査では、$WLFIを保有する口座のうち85%が損失を記録しており、こちらも個人投資家の大多数が深刻なダメージを受けている実態が明らかになった。
「ミームコイン」とは何か? リスクと構造
そもそもミームコインとは、インターネット上の話題や有名人、ジョークをきっかけに発行される、投機性の極めて高い暗号資産を指す。代表格である「ドージコイン」のようにコミュニティ主導で長期的な価値を持つものもあるが、多くは短期間で価格が高騰した後に崩壊するパターンを繰り返している。「$TRUMP」もその例外ではなく、発行主体がトランプ氏という圧倒的な影響力を持つ個人である点が、通常のミームコインよりもはるかに多くの個人投資家を引き寄せたとされている。
集団訴訟の可能性と法的問題
今回の件について、The New York Times(NYT)は複数の法専門家の見解として、トランプ氏の行為が証券法違反や詐欺的勧誘に当たる可能性を指摘している。特に、
- 大統領という公的立場を利用した販売促進
- 自身が巨額の利益を得る仕組みを開示せずに購入を促した点
- 価格操作に近いSNSでの発言
これらの要素が重なった場合、将来的に集団訴訟(クラスアクション)へ発展するリスクがある。ホワイトハウスの広報担当者はNYTの取材に対し、「これは国民の利益のための行動である」と弁明したが、詳細な説明は避けており、批判は収まりそうにない。
仮想通貨市場全体への影響と教訓
「$TRUMP」の暴落は、単なる一つのミームコインの失敗にとどまらず、仮想通貨市場全体に対する信頼の毀損につながる可能性がある。特に、著名人や政治家が発行するトークンは、投資経験の浅い個人投資家を「参入しやすい」と錯覚させ、結果的に大きな損害を与えるケースが後を絶たない。
今回のケースで浮き彫りになったのは、SNSの影響力を背景にした「フィア・オブ・ミッシング・アウト(FOMO)」感情の悪用が、どれほど多くの人々を経済的に追い詰めるかという点だ。日本の仮想通貨市場においても、類似した手口のプロジェクトが登場する可能性は否定できず、投資家は「誰が発行したか」ではなく、「その仕組みに本当に価値があるのか」を厳格に見極める必要がある。
トランプ氏のミームコインは、デジタル資産の民主化という理想とは真逆の、権力と富が集中する新たな構造を象徴する事例として、業界関係者に長く記憶されることになるだろう。