散逸する企業研修や自治体製作のシリアスゲームを収集保存、評価の物差し作りへ

企業研修や自治体製作のシリアスゲームを収集・保存し、評価の物差しを確立する「シリアスゲームミュージアム」の設立がクラウドファンディング目標達成で正式決定。

投稿者 central
ハイライト
  • シリアスゲームミュージアムは2026年11月にプレ開館、2027年2月に正式開館する予定だ。
  • 石神康秀氏は、制作者の肩書きで評価が決まる現状を問題視し、評価の物差し作りを目指している。
  • クラウドファンディングは目標金額を達成し、2026年11月のプレオープンに向けて準備が進む。

「シリアスゲーム」を評価する物差しを作る——。企業研修や自治体制作のゲームを収集・保存する「シリアスゲームミュージアム」の設立が、クラウドファンディングの目標達成により正式に決定した。2026年10月24日に大阪電気通信大学寝屋川キャンパスで開催された「大阪シリアスゲームデイ」で、ボードゲーム編集者の石神康秀氏が設立構想と今後のスケジュールを明かした。

石神氏はIT業界でシステム開発や保守、コンサルティングに従事したのち、ボードゲーム編集者へ転向して約10年。教育や研修、社会課題をテーマにしたボードゲームを集めた体験イベント「Play and Learn」を2024年から半年ごとに横浜で開催してきた(現在は主催をNPOへ移管)。これまでに150作品以上のゲーム制作に携わった経験から、シリアスゲームを取り巻く構造的な問題を強く意識するようになったという。

「シリアスゲームミュージアム」とは——散逸を防ぎ「評価の物差し」を作る施設

シリアスゲームミュージアムとは、企業研修や自治体制作など一般流通しないシリアスゲームを収集・保存し、比較研究できる環境を整えることで「評価の物差し」を確立することを目指す施設だ。2026年11月にプレ開館し、2027年2月に正式開館を予定している。

石神氏がこの構想を打ち出した背景には、シリアスゲームを評価するための基準が存在しないという強い危機感がある。とりわけ問題視するのが、作品の良し悪しではなく「制作者の肩書き」で評価が決まってしまう現状だ。

「デブリーフィングが重要」で全てが片付く風潮への問題提起

社会課題をモチーフにしたシリアスボードゲームには、よく見られる構造がある。ゲーム自体はエンタメとして盛り上がり、関連用語やクイズで知識に触れられるものの、ゲームの都合上端折られた現実とのギャップを、プレイ後の「ブリーフィング(振り返り・解説)」で専門家が補完するというパターンだ。

この手法そのものを否定するわけではないとしつつ、石神氏はこう問題提起する。「『デブリーフィングが重要』と言っておけばすべてが片付き、あとから説明さえすればどんなゲームでも許されるような風潮になっていないか。本当に良いシリアスゲームであれば、ゲームを遊んだだけで学べたほうがいいのではないか」

評価の物差しが育たない背景には、作品同士を「並べて比較する機会」が決定的に欠けている現状がある。大学の研究者が教育用ゲームを開発して論文を執筆する際も、ゲーム単体の効果測定にとどまり、類似テーマの他作品と比較して優位性を論じる研究はほとんど見られない。

SDGsや防災をテーマにしたボードゲームは世の中に数十種類存在するが、新たに制作する側ですら過去の類似作品をほとんど遊ばないまま作っているのが実情だ。さらに、近年は大学や中学・高校、学習塾でもボードゲーム制作を授業に取り入れる例が増えているが、指導にあたるのはゲームの専門家ではなく、建築など別分野の専門家が自身の領域のゲームを作って好評だったことから教えているケースが大半。客観的な比較や評価がますます難しくなっている。

消えゆく作品たち——「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」が示す日本の現状

なぜ比較ができないのか。根本原因は「集まらない」「残らない」「見られない」の3点にあると石神氏は整理する。

自治体やNPO、企業、学校などで作られるシリアスゲームは一般販売されないものが多く、外部からの入手は極めて困難だ。企業研修用のゲームは単年度予算で制作されることが多く、翌年度に担当者が変わると使われなくなり、倉庫に眠るか廃棄されてしまう。自治体のイベント用ゲームも、イベント終了とともに役目を終えるケースが少なくない。

象徴的な事例として挙げられたのが、石神氏自身も制作に関わった「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」だ。新入社員(店長候補)の研修用として時間と予算をかけて開発され、文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選ばれるなど高い評価を受け、話題を集めた。しかし、社長の交代や担当者の不在によって現在は使われなくなり、問い合わせ窓口すら存在しない。誰も研究できない状態に陥っているという。

博物館法の4機能が「集める・残す・比べる・知らせる」を解決する

こうした課題を解決するために石神氏が選んだのは、法律上の教育機関である「博物館」という形式だった。

博物館法に定められた「収集」「保管・保存」「調査研究」「展示・教育普及」の4機能は、シリアスゲームが直面する「集まらない」「残らない」「比較検討されない」「知られていない」という課題にそのまま対応する。個人のコレクションや一企業のプロジェクトを超えた継続性が、法制度によって担保される点も大きい。将来的な登録博物館の取得を見据え、石神氏は2025年に1年間の通信教育を経て学芸員の資格を取得している。

第1号館は埼玉県西所沢にある工房複合施設の一室を間借りする形で、完全予約制のミュージアムとしてスタートする。「皆で研究し学び合う場所」として設計されているのが特徴だ。

年会費1万円の「リサーチアソシエイツ」が研究の担い手に

ミュージアムの中核となるのは、年会費1万円のメンバーシップ制度「リサーチアソシエイツプログラム」だ。会員がミュージアムを訪れてゲームをプレイし、記録を残していくこと自体が研究活動になる。蓄積されたデータベースや研究成果は会員間で共有され、アカデミアでの論文執筆や新たなゲーム開発に役立てられる仕組みである。

初年度の目標として掲げられているのは、収蔵ゲーム100点、現役の企業研修ゲームなど営業上の機密に関わるものについて調整を行ったうえでの展示・研究許諾の取得30点、プログラム会員150人の参加だ。すでに30〜60点ほどの寄贈申し出が寄せられているという。

なお、設立に向けて実施中のクラウドファンディング(10月31日まで)は、セッション前日の10月23日に目標金額を達成。「ここが終わりではなく、これからがスタート」と石神氏は力を込めた。

デジタルとアナログの垣根を越える研究・交流拠点へ

セッション終盤の質疑応答で、石神氏は「最終的には『シリアスゲーム』という言葉のもと、デジタルとアナログの壁を乗り越えていきたい」と展望を語った。

デジタルゲームは展示環境や稼働機の維持・調整にハードルがあるため、まずは自身の専門であるボードゲームから着手する。ただし、ゲームの作り方の本質は同じだとし、メーカーなどと相談しながらデジタル作品や謎解き、地方創生の街歩きイベント、代替現実ゲーム(ARG)など、あらゆるシリアスゲームを包括する拠点へ育てていく考えだ。

また、Webを通じたデータベースの利用や出張イベントの実施に加え、将来的には関西などへの第2号館・第3号館の展開も構想されている。散逸の危機にある作品を次世代に残すための最初の一歩が、2026年11月のプレオープンで踏み出される。

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