米国の仮想通貨市場構造を定める「CLARITY法案」を巡り、上院本会議での採決を目前に、詰めの攻防が激しさを増している。現地時間9月14日に上院共和党が公表した最終修正案に対し、銀行業界や民主党議員、州司法長官、さらには開発者支援団体からも反発が相次いでいるのだ。可決には60票が必要となるため、与党・野党の垣根を越えた賛同を取り付けられるかが焦点となるが、現時点でその見通しは極めて流動的だ。
この還元率の高さが、業界関係者から驚きをもって受け止められている。民主党政権下で暗号資産(仮想通貨)規制の強化を主導してきたエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)のスタッフが、最新の倫理規定を巡る合意内容を「幻想だ」と批判。司法省が執行の主導権を握る限り、州司法長官に認められた権限は有名無実化するとの見方を示しているからだ。
「州の権限」を巡る対立——司法省との綱引きという根本問題
CLARITY法案の最終修正案は、仮想通貨関連で相当な金銭的利害を持つ連邦高官に対し、保有資産の売却か、あるいは適格なブラインド・トラストへの移管を義務付けた。さらに、その執行の一部に州司法長官が関与できる道筋も盛り込まれた。一見すると、州側の権限強化にも映るこの規定だが、実際には異なる。
ウォーレン議員のスタッフがSNS上で指摘したのは、法案が司法省の権限を侵すものではないという点だ。州司法長官が違反を疑っても、最終的な訴追判断は司法省に委ねられており、さらにホワイトハウス内の倫理担当官がその活動を「承認」した場合、州は一切の法的アクションを起こせなくなる。つまり、執行のトリガーを引くのも、ストップをかけるのも、全て連邦政府の判断次第という構図が出来上がっている。
この点こそが、超党派で結束する州司法長官らの反発を買う最大の理由だ。ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は、他の17人の州司法長官と連合を組み、法案への反対を鮮明にしている。彼らの主張の核心は、この法案が州の登録制度や詐欺対策に関する固有の権限を著しく弱め、証券取引委員会(SEC)に州規制を広範に優先させる広い裁量権を与えかねないという懸念にある。ニューヨーク州司法長官事務所は州が2017年以降に実施してきただけでも330件を超える執行措置の実績を挙げ、その積み重ねが水泡に帰す可能性を強く憂慮しているのだ。
仮想通貨と政治資金——倫理規定の実効性を巡る根本的な疑義
では、こうした執行プロセスを巡る対立は、単なる手続き上の問題に過ぎないのだろうか。必ずしもそうとは言い切れない。政治とカネの問題として、規制の実効性そのものを問う声もある。
民主党議員や政府監視団体の一部は、仮に司法省が誠実に職務を遂行したとしても、政治的压力が働く環境が残されている限り、高官の資産売却義務が形骸化するリスクは拭えないと指摘する。ブラインド・トラストへの移管が命じられたとしても、その管財人の選定プロセスや、トラスト運用における投資判断の自由度を監視する第三者機関の設置といった具体的な歯止めが無ければ、真の意味での利益相反の解消には至らない。この問題は、アフガニスタン撤退や一連の不祥事で低下した連邦政府機関への信頼回復という文脈とも無関係ではない。
ステーブルコイン報酬と予測市場——3つの主要論点の攻防
最終修正案は、これまで対立の火種となっていた論点を複数含んでいる。まず、ステーブルコインの収益をユーザーに還元する「ステーブルコイン報酬」の扱いだ。この分野では、銀行関係者が証券規制の適用範囲を巡って強い懸念を示してきた。銀行は、ステーブルコインの発行主体となる場合、準備資産の管理を巡る既存の厳格な規制との整合性を取ることを求めており、法案が暗黙のうちに新しい規制の枠組みを許容することになるのではと警戒している。
次に、仮想通貨を扱うソフトウェア開発者に対する保護の範囲が問題となった。最終案は、ソフトウェアを書いただけで送金業者や金融機関として扱わないという規制上の保護を維持する一方、州法との関係で刑法の適用を明確に除外する条文は削除された。ワシントンD.C.に拠点を置く仮想通貨のシンクタンク、Coin Centerのジェイソン・ソメンサット氏は、この削除に対して表立って失望感を表明した。コードを書く行為が、無認可の送金業と見なされ刑事責任に問われる可能性が理論上残るからだ。
最後に、予測市場の位置づけだ。新たな技術領域であるが故に、商品先物取引委員会(CFTC)の管轄なのか、SECの管轄なのかという線引きが、業界団体の間でも意見が分かれていたポイントである。今回の修正で一定の整理が図られたものの、各市場参加者は自社のビジネスモデルに与える影響を慎重に精査している最中だ。
イノベーション支援なのか、それとも規制強化なのか——開発者保護の分水嶺
話を開発者保護の議論に戻そう。この問題は単に一部の開発者だけの問題ではない。米国発のブロックチェーンビジネスがイノベーションを起こし続けるための環境整備という、より大きな文脈で捉える必要がある。
ある者はこう指摘する。ソフトウェアを書いただけで送金業者として登録を強制され、犯罪に悪用された場合の責任を問われるようになれば、米国は才能ある開発者を失いかねない、と。
その一方で、投資家保護の観点から、開発者への影響を懸念する声に強く反発する向きもある。詐欺的なスキームが横行し、一般投資家が深刻な被害を受けている現状を鑑みれば、開発者に一定の免責を認めるだけの法的・技術的な裏付けが不十分である。多くのプロジェクトが、ガバナンスの実態を不明確にしたまま、コミュニティ運営を名目にネイティブトークンや目的別トークンを配布している状況では、無許可送金業に関する刑法の適用除外を一律に拡大することは、司法の裁量を狭め、FATF(金融活動作業部会)が定める国際基準の整合性を崩すことになる、というのがその根拠だ。
この議論の難しさは、善悪の線引きが極めて難しい点にある。分権型取引所(DEX)のように、いわゆる「コードの公開」と「事業の運営」が表裏一体となっているプロトコルも少なくないからだ。
6月の派手な祭典の陰で——上院採決が示す政治的現実
こうした複雑な法律論の応酬は、時に現実の政治力学の前に単純化される。今回の採決を巡る駆け引きを、一部のベテラン議員は「仮想通貨の技術的な問題ではなく、単なる数の計算だ」と冷めた目で見る。
共和党は通商・金融・ITの各方面で重要政策を実現するため、今回は仮想通貨業界からの多額の政治献金を取り込む絶好の機会と捉えている。一方の民主党は、支持基盤である銀行団体や環境保護団体、そして一般消費者の保護を前面に掲げることで、中間層へのアピールを図りたいという思惑が交錯する。可決には60票が必要であり、そのハードルは高い。もしこのクローチャー(討論終結)の動議を成立させることが出来なければ、共和党は大幅に修正した自慢の法案を抱えたまま、支持拡大の実績を示せないという厳しい局面を迎えることになる。
日本時間16日未明が決戦——世界中が見つめる理由
この動きを日本はどう見ているのか。日本の金融庁や業界団体は、米国の規制が事実上の世界的なスタンダード(事実上の標準)となる可能性が高いことから、その行方を固唾をのんで見守っている。日本の取引所やステーブルコイン発行者にとっては、米国の法的枠組みが自国のビジネス環境や、国際送金のコスト構造にも数年以内に直接的な影響を及ぼす可能性が高いからだ。
予定されているクローチャー(討論終結)の採決は、米東部時間9月15日午後2時15分。すなわち日本時間で16日(水)午前3時15分の点火だ。この採決で60票の賛成が集まらなければ、法案は砂上の楼閣と化し、今会期での成立はほぼ絶望的となる。逆に通過した場合でも、本会議での最終採決、そして上下両院の協議を経て、ホワイトハウスの署名を勝ち取るまでには、まだ多くの難関が待ち受けている。
イノベーションの中立性を保つか、それとも投資家の保護を徹するか。仮想通貨市場が成熟の段階を迎える中で、世界の金融の中心地が下す選択は、数年後の日本の市場にも、波紋となって押し寄せてくることは間違いない。今後の推移からは、まだ目が離せない。