焼肉店の倒産件数が、2025年に過去最多を更新したことに続き、2026年もその記録をさらに塗り替え、2年連続で統計開始以来の最悪を更新したことが、東京商工リサーチの調査で明らかになりました。一見すると、低価格帯の「焼肉きんぐ」が一人勝ち状態のように見える外食業界ですが、実は業界全体を揺るがす”焼肉店キラー”の存在が浮き彫りになっています。その正体は、関東圏を中心に急拡大するディスカウントスーパー「ロピア」です。
焼肉店倒産、2年連続過去最多の衝撃
東京商工リサーチが発表したデータによると、2026年における焼肉店の倒産件数は前年比で約20%増加し、統計を開始した2000年以降で最多を記録。2025年に記録した過去最悪の数字を大幅に上回る結果となりました。業態別では、家族連れを主なターゲットとする郊外型の大型店舗や、個人経営の中小規模店舗での倒産が特に目立ちます。背景には、牛肉や豚肉、野菜など原材料費の高騰に加え、人手不足による人件費の上昇が経営を直撃している構造があります。
なぜ「焼肉きんぐ」だけが好調なのか
焼肉業界全体が苦戦する中で、注目を集めているのが「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションの好調ぶりです。同社は、食べ放題というビジネスモデルを軸に、2026年度も増収増益を継続。その強さの要因は、徹底したコスト管理とスケールメリットにあります。大量発注による仕入れ値の抑制、調理工程の標準化、そして回転率の高い立地戦略が、価格競争力と収益性を両立させています。しかし、この一人勝ちの構図こそが、業界の歪みを象徴していると言えるでしょう。
「ロピア」が炙り出した新たな競争軸
業界関係者が口を揃えて指摘するのが、ディスカウントスーパー「ロピア」の存在です。ロピアは精肉部門に極めて強く、自社で一貫した流通システムを持つことで、他社を圧倒する低価格を実現。特に、焼肉用の牛肉やホルモン、タレなどのセット商品を、焼肉店の半額以下とも言える価格で提供している点が、消費者の支持を集めています。これにより、消費者の間で「わざわざ焼肉店に行かなくても、家でロピアの肉を焼けば十分」という行動変容が急速に進んでいます。
焼肉店キラーとしての本質
ロピアが単なる小売業者ではなく「焼肉店キラー」と呼ばれる所以は、その価格破壊力だけではありません。ロピアの店舗では、焼肉店で提供されるような下味付きの肉や、特製のたれ、さらにはキムチやサンチュといったサイドメニューまでが一通り揃います。つまり、焼肉店が提供する「体験」のうち、炭火やコンロ、店員のサービスといった要素を除いた「食事」そのものの価値を、はるかに低いコストで代替してしまっているのです。特に、家族4人分の焼肉を自宅で楽しむ場合、ロピアで買い物をすれば焼肉店に出かけるよりも3分の1から4分の1の費用で済むケースが多く、この価格差は消費者の節約志向を強く捉えています。
倒産に追い込まれる中小・個人店の実情
今回の倒産ラッシュで特に深刻なのは、地域に根ざした個人経営の焼肉店です。大手チェーンとロピアという、価格競争の両極に挟まれた中小店舗は、差別化の手段を失いつつあります。ある倒産した店主は、「ロピアの価格帯には太刀打ちできない。かといって、焼肉きんぐのような回転率の高いビジネスモデルも真似できない」と語っています。品質と価格のバランスを取ろうとすればするほど、利益率が圧迫され、結局は体力勝負で脱落するという構図が全国で確認されています。
原材料高と人手不足が加速させる構造的不況
焼肉業界を取り巻く環境は、ロピアの出現以前から厳しいものでした。2025年以降も続く円安の影響で、輸入牛肉の価格は高止まり。国産牛に至っては、飼料価格の高騰から価格が上がり続けています。さらに、調理や接客を担う人材の確保は年々難しくなっており、時給を上げざるを得ない状況が人件費を押し上げています。これらの外部環境の悪化が、競争激化と相まって、倒産という形で表面化しているのです。
焼肉業界の未来:3極化とサバイバル戦略
このままの流れが続けば、日本の焼肉業界は今後さらに明確な3極化が進むと予想されます。一つは「焼肉きんぐ」に代表される低価格大量販売型。二つ目は、一人当たりの客単価が高く、高級肉や特別なサービスを提供する高級焼肉店。そして三つ目は、消滅する中間層の個人店に代わって、焼肉需要を大きく奪うロピアのような食品スーパーです。生き残るための条件として、業界関係者は「通販の強化」や「サブスクリプションモデルの導入」「休日限定のランチ営業への特化」など、従来の焼肉店の枠にとらわれないビジネスモデルの転換が急務であると指摘しています。消費者の財布の紐が固くなる中、焼肉業界はまさに歴史的な転換点を迎えていると言えるでしょう。