米ミシシッピ州の連邦裁判所で、太陽光発電プロジェクトの報酬をめぐって争っていた訴訟の双方弁護士が、AIツールを使って作成した書類に架空の判例を引用していたとして、計4人の弁護士が懲戒処分を受けたことが明らかになった。この事案は、法律業務におけるAI利用のリスクを如実に示すものとして、全米の法曹界に波紋を広げている。
問題となったのは、弁護士のTom Withers III氏がミシシッピ州アバディーン市を相手に提起した訴訟「Withers v. City of Aberdeen」だ。Withers氏は太陽光発電開発プロジェクトに関する報酬の支払いを求めていたが、同氏の弁護団と市側の弁護士の双方が、提出書面の作成にAIソフトウェアを利用。その結果、いずれの書面にも実在しない判例が引用されていることが発覚した。
この事態を最初に指摘したのは、マーケティングおよび商取引を専門とする弁護士のRob Freund氏だ。Freund氏は自身のX(旧Twitter)アカウントに、この一件を「AIによるエラーの喜劇」と表現し、両陣営の弁護士がAIのハルシネーション(幻覚)によって生成された架空の判例をそのまま引用した経緯を詳しく投稿した。この投稿が、テクノロジー専門メディア404 Mediaによって報じられたことで、本訴訟は全米の注目を集めることになった。
審理を担当した米連邦地裁のSharion Aycock判事は、双方2人ずつ、計4人の弁護士全員について、AIが生成した情報を適切に確認せずに提出書面に使用したと認定。連邦民事訴訟規則第11条に違反するとして、罰金を科すとともに本訴訟を却下した。同条は、弁護士が提出する文書に署名する際、その内容が真実であることを裁判所に対して約束することを義務づけている。
AIハルシネーションが招いた法的リスク
Aycock判事は、「すべての弁護士は有資格者であり、十分な法律教育を受けているはずだ」と指摘した上で、「テクノロジーをうのみにした結果、それぞれの提出書類にハルシネーションに基づく引用が含まれる事態を招いた」と述べた。AIのハルシネーションとは、大規模言語モデル(LLM)がもっともらしい文章を生成する過程で、事実とは異なる誤情報や虚偽の情報を出力する現象を指す。
弁護士らは審問の場で、それぞれが困惑と謝罪の意を表明したという。しかし、裁判所の判断は厳格だった。AIツールの出力結果をそのまま信用し、人間の弁護士による検証を怠った点が、規則違反とみなされたのである。
全米に広がるAIと弁護士業務の新たな規制
このミシシッピ州の事例は決して孤立したものではない。全米各地で、AIの誤った使用によって弁護士が窮地に立たされるケースが相次いでいる。こうした法的混乱を受けて、ニューヨーク州は生成AIに関する新たな規則を導入。2026年6月1日以降、ChatGPTなどのツールを使って生成されたコンテンツは、弁護士・依頼者間の秘匿特権の対象外となることが決定された。これは、AIを介した情報が法的な保護を受けられなくなることを意味し、実務に大きな影響を与える。
米国最大の弁護士団体である米国法曹協会(ABA)も、この問題に積極的に対応している。ABA会長のMichelle A Behnke氏は、生成AIの出力には「精査と監視」が不可欠であると強調。ABAはすでにAIに関するタスクフォースを設置し、2025年12月には弁護士のAI導入状況やベストプラクティスをまとめた報告書を公表している。さらに、2024年7月にはAIを使用する弁護士向けの倫理的ガイドラインを発行し、具体的な助言を示している。
その中で特に重要なのが、「弁護士は、クライアントに法的サービスを提供するために使うテクノロジーに伴う『利点とリスク』を理解すべきだ」という指針だ。AIを活用することで業務効率が向上する一方、その出力を無検証で使用することの危険性を、改めて認識する必要がある。
今回のミシシッピ州の事例は、AIがもたらす効率性の恩恵と、それに伴う法的責任の重さを、同時に浮き彫りにしたと言える。弁護士にとってAIは強力なツールではあるが、その出力の正確性を最終的に担保するのは、あくまで人間の専門家であるという原点に立ち返ることが、今後ますます重要になるだろう。