ギリシャ、個人の仮想通貨売買益課税を15%から10%に引き下げ

ギリシャ政府が仮想通貨の売却益とステーキング収益に対して10%の税率を提案、年500ユーロまで非課税。

投稿者 central
ハイライト
  • ギリシャ政府は個人の仮想通貨売却益に10%の課税案を公表した。
  • 年間500ユーロまでの売買益は非課税とされる。
  • ステーキング収益にも同税率10%が適用される。

ギリシャ国民経済・財務省は、個人が仮想通貨の売却益に対して10%の税率を課す新たな税制案を公表し、意見公募(パブリックコメント)を開始した。これにより、これまで法的な明確さを欠いていた仮想通貨の税務上の取り扱いが大幅に整理される見通しだ。同法案は、債務者の保護強化と債権管理会社(サービサー)の監督強化を主な目的とする一連の改正案に盛り込まれており、仮想通貨取引に係る課税の確実性を高めることを狙いとしている。

当初、政府高官の話としてロイターが伝えたところによれば、同省は税率を15%とし、年間500ユーロまでの売買益を非課税とする案を検討していた。しかし、今回公表された法案では税率が10%に引き下げられ、より投資家に配慮した内容となっている。この変更は、仮想通貨市場の成長を促しつつ、課税ベースを拡大するという政府のバランスを取った判断とみられる。

新税制の3つの柱――税率、非課税枠、ステーキング課税

今回の法案で提示された新たな課税枠組みは、主に以下の3点で構成される。

①個人の仮想通貨売買益への10%課税
これまでグレーゾーンとされてきた個人の仮想通貨売買によるキャピタルゲインに対して、明確に10%の税率が適用される。これはギリシャの所得税率(最高45%)やキャピタルゲイン税率と比較しても低く設定されており、仮想通貨取引を奨励する姿勢がうかがえる。

②年間500ユーロまでの非課税枠
売買益のうち、年間500ユーロまでの部分は非課税となる。これは少額取引を行う個人投資家や、仮想通貨を日常的な支払いに利用するユーザーへの配慮と解釈できる。例えば、毎月数十ユーロ程度の利益しか出さないライトユーザーは、税務申告の負担から実質的に解放されることになる。

③ステーキング収益への10%課税
特筆すべきは、売買益だけでなく、仮想通貨を預けて報酬を得るステーキングによって生じた収益にも、同じく10%の税率が適用される点だ。ステーキングは、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)を採用するブロックチェーンにおいて、ネットワークの維持に貢献する対価として得られるものであり、その収益を「資産運用益」として明確に課税対象とするのは、国際的にも先進的な取り組みといえる。

法の空白を埋める――課税の確実性と投資家保護の両立

ギリシャは過去10年にわたり、金融危機の影響で厳しい財政再建を余儀なくされてきた。その過程で、税収確保は国家の最重要課題の一つとなっている。一方、仮想通貨市場の拡大は目覚ましく、税務当局としてもこの分野からの収入を無視できなくなっていた。

国民経済・財務省は、今回の法案について「新たな課税の枠組みで仮想通貨の税務上の扱いを巡る法の空白を埋め、課税の確実性を高める」と説明している。これまで、ギリシャでは仮想通貨取引に対する明確な税制が存在せず、投資家の間では「申告すべきか否か」「どのように計算すべきか」という混乱が生じていた。今回の改正により、その不確実性が解消され、コンプライアンス(法令遵守)の観点からも前進となる。

ただし、税率そのものは10%と比較的低く設定されていることから、投資家にとっては「課税されることが確定した」というデメリットよりも、「法的な安心感を得られた」というメリットの方が大きいとみられている。この点で、ギリシャ政府は税収確保と投資家保護の絶妙なバランスを取ったと言えるだろう。

EU諸国との比較――ギリシャのスタンスは「プロ・クリプト」か

ギリシャの新税制を、欧州連合(EU)加盟国の他国と比較してみよう。ドイツでは、1年超の保有後に売却した仮想通貨の売買益は非課税となるが、短期売買には個人の所得税率が適用される。フランスでは、年間売却額が一定額を超えると一律30%の課税(仏版PFU)が行われる。イタリアでは、2023年から売買益に26%のキャピタルゲイン税が導入された。

これらの国々と比べると、ギリシャの10%という税率は極めて低く、また非課税枠(500ユーロ)の設定も、小口投資家への優遇措置として評価できる。さらに、ステーキング収益を明示的に課税対象とした点は、他のEU諸国でも今後の基準となり得る先例だ。

このことから、ギリシャ政府は「仮想通貨を資産クラスとして正式に認め、課税することで市場の健全な発展を促す」という、いわばプロ・クリプトとも言えるスタンスを明確にしたと解釈できる。

日本への示唆――500ユーロ非課税枠とステーキング課税

このギリシャの動きは、日本における仮想通貨税制の議論にも少なからぬ影響を与える可能性がある。日本では現在、仮想通貨の売買益は「雑所得」として総合課税の対象となり、最高税率は55%(住民税を含む)に達する。また、年間20万円以下の利益であれば申告不要となるが、給与所得者などにはその適用が限定的だ。

ギリシャのような10%の分離課税や、500ユーロ(約8万円)の非課税枠は、日本の投資家にとっては非常に魅力的に映るだろう。特に、日本のスタートアップやブロックチェーン技術の開発企業にとって、自国の税制が国際的に見てどれだけ競争力を持つかは、人材や資金の流出に直結する問題である。

また、ステーキング収益への課税という論点は、日本でも今後ますます重要性を増す。イーサリアムがプルーフ・オブ・ステークへ移行したことで、ステーキングは主要な仮想通貨の収益源となりつつある。日本でも国税庁がステーキング報酬の取り扱いについて明確化を進めているが、ギリシャの事例はその際の一つの参考事例となるだろう。

法案成立への道筋と今後の注目点

今回公表された法案は、まだ閣議決定や議会承認を経ておらず、今後内容が修正される可能性もある。意見公募の結果や、与野党の議論次第では、税率や非課税枠が見直されることも考えられる。

しかし、一度これだけ具体的な数値と枠組みが示された以上、大きな後退はないとみるのが自然だ。ギリシャ政府は、仮想通貨市場の成長と税収確保を両立させるという明確なビジョンの下、この法案を推進するものと予想される。

注目すべきは、この法案が成立した場合の周辺国への波及効果である。税率の低いギリシャに、EU域内の仮想通貨投資家や関連企業が移転する可能性も指摘されており、他のEU諸国がこれにどう対抗するかが、今後の欧州全体の仮想通貨税制を占う上で重要なポイントとなる。

ギリシャが打ち出したこの「10%課税」は、単なる一国内の税制改正に留まらず、仮想通貨の税務上の地位を国際的にどのように位置づけるかという、大きな議論の火付け役となるかもしれない。

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