うつ病治療ヘッドセット、米国で処方箋による提供開始

Flow Neuroscienceが開発したうつ病治療用ヘッドセット、米国で処方箋提供を開始。自宅で1日30分の使用で効果、45%が症状寛解。

投稿者 central
うつ病治療ヘッドセット、
ハイライト
  • 臨床試験では、デバイスを使用した患者の45%が10週間後に症状寛解を達成した。
  • 本ヘッドセットは1日30分おでこに装着し、左前頭葉を電気刺激する。
  • 欧州では2019年から承認され、すでに6万5000人以上が使用し、英国NHSも試験運用を開始している。

うつ症状の軽減を目的とした新しい電気刺激ヘッドセットが、米国で医師の処方箋にもとづいて提供されるようになった。スウェーデンの医療機器企業Flow Neuroscienceが開発したこのデバイスは、従来の抗うつ薬に代わる新たな選択肢として注目を集めている。米国では成人の約6人に1人が抗うつ薬を服用しているとされるなか、本製品は自宅で手軽に脳刺激療法を受けられる点が最大の特徴だ。ただし、その費用は決して安くはなく、普及への道のりは容易ではない。

左前頭葉を刺激する仕組み——1日30分の装着で効果

Flowのヘッドセットは、1日30分間、おでこに装着して使用する。専用のアプリケーションで操作しながら、気分や感情の調節に深く関わる脳の左前頭葉に対し、低強度の電気刺激を与える仕組みだ。うつ病の患者では、この左前頭葉の活動が低下し、神経結合が弱まっている傾向があるとされている。同デバイスは、こうした脳の機能異常を直接的に改善することを目的としている。

FDA承認取得と臨床試験の結果——45%が症状寛解

Flowは2024年12月に米食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。大うつ病性障害の患者174人を対象とした臨床試験では、Flowのデバイスを使用した参加者の45%が10週間後に症状の寛解を経験した。一方、偽の刺激を与えられた対照群では22%にとどまった。この治験には抗うつ薬を服用している患者と服用していない患者の両方が含まれており、医師の監督下であれば、デバイスと抗うつ薬の併用も可能であることを示唆する結果となった。

報告された副作用は、皮膚の刺激や頭痛、集中力の低下など、いずれも軽度なものに限られた。抗うつ薬にありがちな吐き気や体重増加、性機能障害といった深刻な副作用が生じにくい点は、患者にとって大きなメリットと言える。

TMSとの比較——クリニック通院の負担を軽減

Flowのデバイスは、磁気を利用して神経細胞を刺激する既存のうつ病治療法「経頭蓋磁気刺激法(TMS)」と同じ脳の部位を標的にしている。しかしTMSでは通常、クリニックに通い、数週間にわたって週5日のセッションを受ける必要がある。米国では保険が適用されない場合、TMSの治療全体で最大1万5,000ドル(約225万円)もの費用がかかることもある。

Flowの共同設立者でCEOを務めるダニエル・モンソン氏は、もともと臨床心理学者として活動していた。同氏は「本当の意味で影響を与えるには、脳に必要な効果をもたらしながらも、家庭環境で安全かつ効果的に使用できるものをつくる必要がある」と語る。クリニックに通う時間的・経済的負担を軽減し、患者が自宅で継続的に治療を行えるようにすることが、開発の根底にある考え方だ。

米国での入手方法と費用の壁——保険適用への取り組み

米国では、患者は対面診療またはオンライン診療を通じて臨床医からFlowのデバイスの処方箋を受け取ることができる。ただし、現時点では費用は全額自己負担となる。10週間の治療で2,200ドル(約33万円)、その後は月額325ドル(約4万9,000円)がかかる計算だ。これは、通常保険が適用される標準的な抗うつ薬と比較すると、かなり高額である。

モンソンCEOによれば、同社は保険による費用の償還を受けられるよう現在交渉を進めているという。保険適用が実現すれば、より多くの患者がこの新しい治療法にアクセスできるようになる。

欧州での実績と今後の展望

Flowのデバイスは、2019年から欧州で承認されており、すでに6万5,000人以上が使用している。英国の国民保健サービス(NHS)もこのヘッドセットの試験運用を開始しており、公的医療保険の枠組みでの導入も視野に入っている。

ウェアラブル端末による脳刺激技術は、現在急速に発展している分野だ。カリフォルニア州のスタートアップCognixionが「Apple Vision Pro」を改造して麻痺のある患者向けのコミュニケーションシステムを構築したり、Museのヘッドバンドが瞑想の質を高める製品として販売されたりするなど、さまざまな企業が参入している。Flowのデバイスは、こうした流れのなかでも、具体的な治療効果とFDA承認という裏付けを持つ点で一歩先を行く存在と言える。

うつ病治療の選択肢が増えることは患者にとって歓迎すべきことだが、高額な自己負担額が普及の障壁となる可能性は大きい。今後の保険適用の動向や、より低コストな製品の登場が、この分野のさらなる発展を左右することになるだろう。

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