SBIグループ、シンガポールの決済企業に戦略的出資

SBIグループがシンガポールのフィンテック企業dtcpayに戦略的パートナーシップを開始、デジタル資産決済の国際展開を狙う。

投稿者 central
SBIグループ、シンガポ
ハイライト
  • dtcpayはステーブルコイン決済インフラを手がけ、SBIグループが戦略的投資家としてシリーズAに参画した。
  • SBIグループは法人顧客向けステーブルコイン送金・決済サービスを新たな柱として獲得する狙いがある。
  • 今後の連携スキームが注目され、日本企業初のステーブルコイン決済国際展開となる可能性がある。

暗号資産(仮想通貨)とステーブルコインを活用した決済インフラを手がけるシンガポールのフィンテック企業dtcpay(ディーティーシーペイ)は2026年3月17日、日本最大級の総合金融グループであるSBIグループを戦略的投資家として迎え、シリーズAの資金調達を総額2500万ドル(約38億円、1ドル=約150円換算)に拡大したと発表した。SBIグループは、シンガポールを拠点にベンチャー投資を展開するSBI Ven Capitalの関連会社であるSBI Ventures Asset Pte Ltdと、SBI-NTU-Kyobo Digital Innovation Fundを通じて出資。この動きは、日本企業として初めてステーブルコイン決済の国際展開に本格参入する布石となる可能性を秘めており、今後の連携スキームに注目が集まる。

SBIグループ、なぜ今シンガポールの決済企業か——デジタル資産戦略の深層

SBIグループが今回、投資先として選んだdtcpayは、ステーブルコインの受け取りや保管、そして決済を一気通貫で可能にする独自のインフラを強みとする企業です。同社のサービスを利用すれば、企業は法定通貨と価値が連動するステーブルコインを介して、銀行口座を介さずに国際送金や決済を24時間365日、即時に行えます。

SBIグループがこの領域で存在感を高める背景には、暗号資産と伝統的な金融機関の橋渡し役としての布陣拡大があります。個人投資家向けの暗号資産交換業者であるSBI VCトレードに加え、今回のdtcpayとの資本関係強化により、法人顧客向けのステーブルコイン送金・決済サービスという新たな柱を得ることになるのです。

特に注目すべきは、今回の出資が単なる財務投資ではない点です。SBI Ven Capitalの最高経営責任者(CEO)を務めるEiichiro So氏は、今回の出資を「戦略的パートナーシップの始まり」という表現で評価しています。同氏は、日本と東南アジア(ASEAN)地域の間で、デジタル資産の組成・流通・決済に至るまでの包括的なエコシステムを構想しているとみられます。具体的にどのようなサービスが展開されるのか、日本国内での提供開始時期は未定としながらも、日系企業と東南アジアのフィンテック企業の連携が加速する可能性を感じさせる発表です。

dtcpayとは?——ステーブルコイン決済の仕組みと提供サービスを解説

dtcpayの本質は、暗号資産の「決済」というユースケースを、現実の小売・法人シーンまで拡張する点にあります。同社が提供するのは、ステーブルコインの受領・保管・送金という3つの機能を企業向けにパッケージした決済プラットフォームです。このシステムを利用することで、導入企業は暗号資産の価格変動リスクを負うことなく、実際の商品代金やサービス料金の受け渡しをステーブルコインにて行うことが可能になります。

決済手段としては、同社が発行するVisaカードが中心です。このカードを通じて、全世界約1億5000万以上の加盟店でステーブルコインによる支払いが可能になるとされており、暗号資産を保有しながらも通常のクレジットカードと同様の利便性を享受できるのが特徴です。また、シンガポール金融管理局(MAS)の主要決済機関(MPI)ライセンスと、ヨーロッパのルクセンブルクにおける電子マネー機関ライセンスを取得済みで、国際的な規制対応力を強みとしています。

今回の資金調達は、初回をベンチャーキャピタルのVertex Ventures Southeast Asia & Indiaが主導し、3月17日に1000万ドル(約15億円)を調達した後に決定されました。新たに、Genedant Capitalや既存投資家である不動産開発会社Kwee Groupの創業者、Kwee Liong Tek氏が参加しています。調達された総額2500万ドルは主に、法人向けポータルサイトの刷新、消費者向けモバイルアプリの機能追加、そして販売網・加盟店ネットワークの拡大という3つの分野に充当される予定です。

2500万ドルの調達が示す市場の変化——法人向け暗号資産決済の現在地

今回の発表を業界全体の文脈で見ると、暗号資産市場が「投機」から「実用」のフェーズへと移行しつつあることを象徴しています。2022年以降、暗号資産取引所FTXの経営破綻や、その後の市場の冷え込みなどを背景に、暗号資産ネイティブなスタートアップへの投資環境は大きく変化しました。その中で、dtcpayのように明確な収益モデルとライセンスを有する企業や、実際の決済インフラとして活用実績を積む企業には、引き続き資金が集まりやすい傾向にあります。

ステーブルコイン市場の規模は、2025年時点で発行総額が2000億ドル(約30兆円)を突破したとされ、世界中の中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)とは別の形で、民間主導の決済インフラとして急速に成長しています。その中でも、dtcpayが軸足を置く決済処理領域は、国際送金のコスト削減や即時性の向上といった具体的な課題解決が見込まれることから、特に成長が見込まれています。世界の国境を越えた法人間送金(B2Bクロスボーダー決済)は、その規模が300兆円を超えるとも言われる巨大市場です。

一方で、日本国内に目を転じると、ステーブルコインを活用した決済インフラの構築という観点では、まだら模様の状況です。日本では2023年に改正資金決済法が施行され、ステーブルコインの法的な位置づけが明確化されましたが、実際に国内の小売店舗や法人間での利用拡大には、銀行コードやQUICKの独自コードなど、既存のEDI(電子データ交換)基盤との互換性を確保するという高いハードルが存在します。

日本と東南アジアを結ぶ「決済レール」構想——利用者への影響と今後の見通し

SBIグループの出資は、暗号資産市場と日本市場を接続するための「架け橋」となる可能性を秘めています。具体的には、日本の暗号資産交換業者を通じてステーブルコインを購入した顧客が、dtcpayのプラットフォームを通じて、シンガポールや東南アジアの加盟店で直接支払いを行う——そんな体験が、将来的には現実味を帯びてくるかもしれません。

日本でステーブルコイン決済が普及した場合の利用者への恩恵は大きく、主に以下の3点が挙げられます。

  • 為替コストと手数料負担の軽減:銀行を介した海外送金は、往々にして電信料や仲介銀行手数料、為替スプレッドが発生します。ステーブルコイン決済は、そのような中間コストを大幅に圧縮できる可能性があります。
  • 決済の即時性と可用性の向上:銀行の営業時間や休業日を問わず、365日24時間即時に決済が完了するため、資金繰りの改善が見込まれます。
  • 革新的なユーザー体験への応用:暗号資産を保有しているという事実自体が、新しいロイヤリティプログラムやマイクロ決済の創出に結びつく可能性があります。

ただし、現時点では日本国内でいつからサービスが開始されるのかは示されておらず、具体的なスケジュール感は未定と言えそうです。加えて、ステーブルコインの価格は法定通貨と連動するとはいえ、基軸通貨である米ドルに対して発行されているため、日本円建てでの決済を考える際には、いわゆる「二重為替レート」の問題が生じる点も注意が必要です。この解決策としては、日本円に連動したステーブルコインが発行されるというのが現実的な解であり、その動きをSBIグループが主導していくのかどうかが、今後の注目ポイントの一つです。

さらに、中央銀行デジタル通貨(CBDC)との役割分担も検討課題です。現状、政府や日銀はプライベートなデジタル通貨の導入に慎重な姿勢を示していますが、技術的・制度的な課題を乗り越えた方向性が模索されることが期待されます。SBIグループが持つ証券、銀行、保険といった幅広い金融ライセンスと、dtcpayの持つ国際的な決済ネットワークがどのように融合し、新たな金融サービスが生み出されるのか。その成否は、金融業界だけでなく、テクノロジー業界全体の今後を占う試金石と言っても過言ではないでしょう。

この記事をシェア