生成AI(ジェネレーティブAI)が生み出す低品質で誤解を招くコンテンツ、いわゆる「AIスロップ」への批判が世界的な広がりを見せている。これに対し、大手テクノロジー企業が矢継ぎ早に公開したAI機能を、わずか数日で撤回するケースが相次いでいる。巨額の投資と開発競争の只中にあっても、ユーザーや社会からの反発は、もはや無視できない力となっていることを示す動きだ。
タフツ大学の人類学准教授であり、テクノロジーと社会の関係を専門とするニック・シーヴァー氏は、この現状を「企業は、何も考えずに機能を次々と公開し、その後何が定着するのかを見ている」と分析する。その背景には、「この機能が何のためにあるのか、誰も本当のところは理解していないまま展開している」という実態があるという。
AIスロップの象徴的事例:Google EarthとMetaの機能撤回
その象徴的な事例が、Googleが提供していた「Google Eartha」の衛星画像を生成AIで加工できる機能だ。この機能は、公開直後から、404 Mediaなどのメディアにより「完全に偽の衛星画像を誰でも作成できる」と批判され、直ちに撤回に追い込まれた。
また、Meta(旧Facebook)は、Instagramユーザーの写真を許可なくディープフェイク生成に利用できるツールを公開したが、批判的な動画が拡散され、わずか3日で機能を停止した。これは、プライバシーと同意の欠如に対するユーザーの怒りが、即座に具体的な行動に結びついた好例と言える。
広告業界への波及:マクドナルドやコカ・コーラも標的に
AIスロップ批判の波は、テクノロジー企業の新機能にとどまらない。広告やマーケティングの分野にも及んでいる。世界的なファストフードチェーンであるマクドナルドや飲料大手のコカ・コーラが、生成AIを活用した広告キャンペーンを展開した際、オンライン上では多くの批判が殺到。地元の小さなイベント告知でさえ、AI生成のポスターを使用しただけで反発を招く事態となっている。
これらの事例は、AIスロップが「単なる粗悪品」としての評価を超え、ブランドイメージや信頼を損なうリスクとして認識され始めていることを示している。
データセンター反対運動へと拡大する市民の抵抗
批判の矛先は、AI技術そのものから、それを支えるインフラへと向かっている。AIブームの欺瞞を暴く著書『The AI Con』の共著者であるエミリー・ベンダー氏は、AIスロップを生み出すシステムの根幹である「データセンター」への反発が、政治的な立場を超えて米国人を団結させていると指摘する。
「データセンターは、環境や経済への被害が集中する場所です」。その建設に反対する抗議活動は、単なるSNS上の怒りを超え、現実の社会運動へと発展している。
強制されるAI活用と、組織内で高まる不満
このような社会全体の潮流とは対照的に、サンフランシスコのIT業界、特にソフトウェア開発者の間では、生成AIツールの利用が半ば強制的に進められている実態がある。ジャック・ドーシー氏率いるフィンテック企業Blockの従業員は、こう語る。「大規模言語モデルを使えという上層部からの命令は狂っています。もしそのツールが本当に優れているのなら、指示されなくてもみんな使うはずです」。エラーが多く、道徳的にも疑問のあるツールの使用を強制されることへの不満は、現場レベルで確実に蓄積されている。
「AIスロップ」とは何か?:定義と問題点
AIスロップとは、生成AIによって作られた、品質が低く、誤解を招きやすく、価値の乏しいコンテンツの総称です。問題点は、誤情報の拡散、ブランド価値の毀損、環境負荷の増大、そしてクリエイティブ産業の質の低下など、多岐にわたります。
集団的な行動がもたらす変化:無力感からの脱却
巨額の資金を持つ巨大テック企業の動きに対して、個人が無力感を覚えるのは無理もない。しかし、一連のAI機能撤回は、集団で声を上げることの力を改めて示している。デジタルな手法だけでなく、従来の方法も含め、人々が声を上げ行動することの重要性は増している。世論の圧力が実際に力を持つことを、この時代だからこそ思い出す必要がある。