高山真緒とGinger Root、Sparks of Tomorrowの世界を語る

美術監督高山真緒と音楽アーティストGinger Rootが、京都アニメーション新作『Sparks of Tomorrow』の世界観と制作秘話を語る。

投稿者 central
ハイライト
  • 高山真緒氏は、背景美術に油絵のような質感を追求し、京都の街並みを描いたシーンが作品を特徴づけると語る。
  • Ginger Root氏は、エンディングテーマ「Soarin'」を書き下ろし、京都アニメーションとのコラボレーションに感激している。
  • 『Sparks of Tomorrow』はNetflixで独占配信中で、蒸気の時代に電気という希望を描く物語である。

京都アニメーションが手がける新作テレビアニメ『Sparks of Tomorrow』が、今シーズンもっとも注目すべき作品のひとつとして国内外で話題を集めている。原作はヒロ・ユキによるライトノベル『20世紀電気目録』。蒸気機関が社会の基盤を支え、電気がまだ「魔法」と見紛うほど未知の存在として描かれる、もうひとつの明治日本を舞台にした本作。Anime NYCの会場で、美術監督の高山真緒氏と、エンディングテーマ「Soarin’」を書き下ろした音楽アーティストGinger Root氏に、作品の世界観と制作の裏側を聞いた。

『Sparks of Tomorrow』とは——蒸気の時代に差し込む「電気」という希望

『Sparks of Tomorrow』は、現実の歴史とは異なるタイムラインの20世紀初頭・日本を舞台にしたテレビアニメだ。蒸気機関が主要な動力源として街の隅々まで行き渡る一方、電気はまだ誰も理解できない「魔法」のような存在として扱われる。主人公たちは、そんな未知のエネルギーがもたらす「電気の時代」の可能性を探求していく。

物語が内包するテーマは実に多層的だ。信仰心、大切な人の夢や想いへの忠誠、ニヒリズム、そして新しいテクノロジーの時代に伴う創意工夫。そうした重層的なテーマを、京都アニメーションが持ち前の繊細な映像表現で紡いでいくのが本作の魅力である。原作イラストはカズミ・イケダ氏が、アート&背景はモモカ・ナガタニ氏が担当している。

高山真緒が語る「油絵のような背景美術」の追求

「個人的に最も作品を特徴づけているのは、京都の街並みを描いたシーンです」。高山氏はそう切り出した。古い建物、街に張り巡らされたパイプ、スカイライン、そして少し湿り気を帯びた地面。そうした要素が見事に調和したそのシーンは、本作の根底を流れる、トーンを抑えた霧がかったような雰囲気を体現しているという。

本作の背景美術で特に異彩を放つのが、その「油絵のような質感」だ。

高山氏:背景美術を制作する際、私たちは常に油絵に可能な限り近づけることを意識しています。筆致に注目したり、質感を工夫したり。もちろん一人で仕上げるのではなく、チームで作り上げるものなので、メンバー間のコミュニケーションが非常に重要です。1枚の背景が仕上がるたびに、出来栄えや改善点を話し合いながら、油絵のようなスタイルを追求していきました。

そのスタイルの根底には、印象派からの強い影響があるという。線をぼかし、輪郭を曖昧にすることで、蒸気に覆われた街の空気感を描き出す。一方で、京都の街並みそのものは、視聴者にとって馴染みの薄い世界だからこそ、線を明確に描くことが意識された。キャラクターを引き立てるための背景でありながら、伝統的な建物の構造はきちんと見せる——その絶妙なバランスが、カットごとに慎重に調整されているのだ。

歴史考証とスチームパンクの融合——京都の街並みはこうして作られた

――1906年の京都を描くにあたり、歴史的な考証はどの程度行われたのか。高山氏は「不必要な変更を加えないこと」という監督の指示が徹底されていたと明かす。

高山氏:京都という土地の構造や建物の様式については、実際の歴史的な正確さに忠実であることを心がけました。変更を加えたのはスチームパンク的な要素です。街中に張り巡らせたパイプや、蒸気の雰囲気を演出する曇天などは、歴史的事実から意図的に逸脱させたポイントになります。

興味深いのは、パイプに掛けられた布にも歴史的な根拠があるという点だ。かつて京都の街並みには物干し竿が設置され、洗濯物が掛けられていた。それをパイプに置き換え、さらに曇天の世界観に合わせてより多くの布を掛けることで、スカイラインを霞ませている。歴史的事実を巧妙に再文脈化した、細部へのこだわりが感じられる。

また、エンディング映像の背景美術についても興味深い証言があった。映像の大部分は3Dで制作され、実際に描かれた背景はわずか3カットのみ。背景チームは楽曲を先に聴いてから作業に臨んだといい、高山氏は「何の楽器かは分からないけれど、パイプオルガンのような音色が、作品の持つどこか不気味な雰囲気と見事にマッチしていた」と振り返る。

Ginger Root×「Soarin’」——監督の絵と言葉から生まれたエンディングテーマ

エンディングテーマ「Soarin’」は、どのようにして生まれたのか。Ginger Root氏は、楽曲制作当時、エンディング映像を一切見ていなかったと明かす。

Ginger Root氏:監督から渡されたのは、1枚の絵と、監督が書いた文章だけでした。オンラインでミーティングを重ね、彼が何を望んでいるのかを聞きましたが、実際の映像を見ないまま曲を書き上げました。

だからこそ、曲の中にはアニメーション側が「特別な動き」を見せられるよう、意図的な仕掛けが散りばめられた。ブレイク、ドラムの間奏、コーラスのタイミング。そうしたポイントを想定して構築された楽曲は、完成した映像と見事に呼応した。

Ginger Root氏:完成したエンディングは、曲と映像がとてもよくマッチしていました。曲全体にアニメーションが付いたらいいのにと思うほどです。彼らが僕の書いた曲に合わせてアニメーションを付けてくれた——それは本当に特別な体験でした。

楽曲の方向性を決めたのは、オープニングテーマとの明確な差別化だった。

Ginger Root氏:監督は「和風の楽器を一切使わないでほしい」と言いました。オープニングが「ここは明治時代、伝統的で、冒険の予感がする」という世界観なら、エンディングはむしろ電子的に、キャラクターたちが向かう未来——電気目録が示すアイデアの可能性——を表現してほしいと。それが大きなテーマでした。

また、こんなエピソードも飛び出した。初回のミーティングで、監督が「レディー・ガガが大好き」だと語ったというのだ。

Ginger Root氏:なぜだか分かりませんが、それが無意識のうちに曲へ影響を与えた気がします。「Soarin’」がレディー・ガガの楽曲に似ていると言っているわけではありませんが、あのやりとりが何かしら作用したのは確かだと思います。

「Get Wild」を手本に——エンディングが残す感情の余韻

エンディングテーマの理想形を、Ginger Root氏は『シティーハンター』の名曲に求めた。

Ginger Root氏:監督からは『シティーハンター』のエンディングを参考にするよう言われました。シーンが続いているうちにテーマソングが始まり、少しだけ台詞が残っていて、そこからビートが落ちる——あの「Get Wild」のような感覚です。「さあ、ここからエンディングだ」という空気感を作ってほしいと。

そこに込めたのは「冒険はまだ終わっていない」というメッセージだ。電気目録には数え切れないほどの謎が眠っている。町が蒸気と煙に覆われているように、物語自体にも不確かさが漂っている。

Ginger Root氏:歌詞に「but together we can go past the stars and we can get out of that steam together」という一節があります。一緒なら蒸気の外に出られる——そんな想いを込めました。アニメーション側にも、キャラクターたちが画面の外へ飛び出していくような、空へ舞い上がる感覚を与えられればと願っていました。

高山氏もまた、エンディングに込める想いをこう語る。

高山氏:Ginger Rootの意見に基本的には同意します。ただ、私はそれに加えて、視聴者に「考えさせる」余韻を残したいと思っています。今回のエピソードで何が起きたのか、これから何が起きるのか——そうした思いが視聴者の頭の中に残り続けるようなエンディングにしたいと考えていました。

高山真緒、初の美術監督としての挑戦

本作で美術監督を務める高山氏。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』(2020年)では、まだ業界2年目の背景スタッフとして参加していた。立場の変化について、こう語る。

高山氏:あの頃は、上司からもらった修正に必死で対応していました。今度は立場が逆転し、私がスタッフに修正を指示する側になりました。アーティストとして学んできたことを、今は美術監督として実践できていると感じます。

一方で、初の美術監督という役割には大きな苦労もあったという。

高山氏:何よりも難しかったのは、絵を描くこと以外の仕事でした。美術監督は、実際に背景を描きながら、チームとのコミュニケーションも担わなければなりません。言葉で伝えるのが難しいニュアンスも、その場で直接描いて示すことができる——それが京アニの内製チームの強みですが、監督としての責務はそれだけではありませんでした。

内製チームだからこそ実現できた表現がある。登場人物が現実的に動き回る未来的な都市景観のシーンでは、背景チームが動く人物を一枚一枚描き込み、背景との分離作業にも膨大な時間を費やしたという。

背景美術家としてのキャリアの原点には、日本アニメーション史に名を残す伝説の美術監督の存在があった。

高山氏:物心ついた頃から絵を描くのが好きで、5歳の頃にはもう描いていました。本気で背景美術家を志したのは14歳のときです。『天空の城ラピュタ』や『もののけ姫』で美術監督を務めた山本二三さんの展覧会に行ったのがきっかけでした。あの作品群を見て、「自分も背景美術の道に進みたい」と強く思いました。

また、背景美術家として常に心がけていることについて、こう語る。

高山氏:背景美術は、キャラクターを引き立て、視聴者の視線の置き場所をコントロールするものです。常に考えながら描くこと。それを大切にしています。

さらに、本作のシリアスな場面と日常の場面の描き分けについても興味深い証言があった。基本となる色調は全編で統一しつつ、ドラマチックな場面では力強い筆致を、落ち着いた場面では柔らかなタッチを用いる。色ではなく「筆致」で感情を描き分けるという手法は、油絵のような背景美術を追求してきたチームならではのアプローチと言えるだろう。

Ginger Root、創作論とバーンアウト——「散歩が一番効く」

「Soarin’」の制作は、Ginger Root氏にとってこれまでの活動とは異なる挑戦の連続だった。自宅の寝室だけで録音し、スタジオは一切使わなかったという。

Ginger Root氏:この曲は完全に寝室で作りました。僕の他の曲と同じローファイな質感を持っています。以前話した回転式電話も少し使って、ボーカルの一部を録音しましたね。

テレビやアニメのための楽曲制作ならではの難しさもあった。

Ginger Root氏:常に「変更が発生するかもしれない」という不安と向き合うことになります。今年初めにNHKの仕事をしたときも学びましたが、実際の音を録音しすぎないようにしています。ソフトシンセやVSTを使えば、後で編集しやすいからです。今回は短いバージョンを作ってOKをもらい、そこから長いバージョン用に音を再現していく流れでした。ギターの歪みの量を耳で合わせ直す必要があって、かなり大変でしたね。幸い初稿で変更がなく、杞憂に終わりましたが。

楽曲の方向性は、「70%はGinger Root、30%はアニメソング」という明確な意識で作られた。

Ginger Root氏:チームに「アニメソングらしい曲がいいですか、それともGinger Rootの曲がいいですか」と聞いたら、「できれば110%Ginger Rootの曲がいい」と言われました。ただ、それも難しいだろうということで、自分の中で「70%は自分らしく、30%はアニメソングとして」という割合で作ることにしました。新しい帽子を被るような、新鮮な挑戦でしたね。

曲の構造には、作品のテーマが深く反映されている。

Ginger Root氏:『Sparks of Tomorrow』は「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語であり、「一人では成し遂げられない」というメッセージが根底にあります。だから曲も、最初は単一の楽器だけで始まります。そこから徐々に音が重なり、コーラスではコーラス隊が全体を支える——一人で始まった旅が、仲間を得て大きくなっていくイメージです。

――創作に行き詰まった経験と、モチベーションの保ち方は?

Ginger Root氏:正直に言うと、去年は完全に燃え尽きていました(笑)。そういうときは、自分がなぜ音楽を始めたのかを思い出すようにしています。それは楽しむためで、好きだから続けてきたはずです。まさか自分がアニメのイベントで自分の曲について話すことになるとは思っていませんでしたから。ここまで来れたことに感謝して、一歩引いて物事を見ることを学んでいます。

創作の行き詰まりについては、意外なほどシンプルな答えが返ってきた。

Ginger Root氏:散歩が一番効きますね。昔は「一晩で曲を完成できないなら、それはダメな曲だ」と思っていました。でも今は、「一度離れて、2日間考えないで、新鮮な気持ちで戻ってくる」ことも必要だと学びました。夜に聴くと「ゴミみたい」に感じた曲でも、翌朝新鮮な耳で聴くと「悪くない」と思うことはよくあります。創作に詰まったら、自分に優しくするのが大事です。モチベーションはやってきたり去ったりするもの。でも、なぜ始めたのかを思い出せば、それは準備ができたときに戻ってきます。

京アニへの愛着と、次なる目標

Ginger Root氏は、京都アニメーションのファンであることを公言している。『けいおん!』、『日常』、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』——特に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は母と一緒に観て、母が涙したという思い出があるそうだ。

さらに、彼にとって京アニは文字通り「人生の一部」だ。新型コロナウイルスの流行中に日本語を学び始め、初めて完読した日本語の本が『響け!ユーフォニアム』だったという。

Ginger Root氏:その本を読んで、京都アニメーションがアニメ化していることを知り、観てみたら本当に素晴らしくて。そのスタジオと今、仕事ができている。本当に特別な巡り合わせです。また何かやりたいですね。いつかオープニングテーマを担当できたら最高だと思います。もし絵の練習をして、高山さんに教えてもらえれば、いつか自分でアニメを作れるようになるかもしれません。いや、それは15年後くらいの話でしょうけど(笑)。

物語はまだ始まったばかり——配信情報と今後の展開

『Sparks of Tomorrow』は現在Netflixにて独占配信中。最終話に向けて、第二弾となるストーリービジュアルも公開されている。蒸気と煙に覆われた街で、電気という未知の力が何をもたらすのか。高山真緒氏とGinger Root氏が紡ぎ出す、その世界の行方から目が離せない。なお、本作のディレクターを務めるミノル・オオタ氏とプロデューサーのサトリ・セナミ氏へのインタビューもあわせて公開されている。

©Hiro Yuki, Kyoto Animation/Sparks of Tomorrow Production Committee

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