Xiaomi(シャオミ)が発表した最新のオープンソースAIモデル「MiMo-V2.6-Pro」が、公開モデルとして世界最高水準の性能を達成したことが明らかになった。同モデルは、米分析企業Artificial Analysisの知能指数(Intelligence Index)で46ポイントを記録し、Kimi K3やQwen(千問)といった競合を抑えて首位に立った。さらに注目すべきはその圧倒的なコストパフォーマンスで、入力トークン100万あたり0.435ドル、出力トークン100万あたり0.87ドルという低価格を実現している。
Artificial Analysisの試算によれば、1回のテストタスクあたりのコストはわずか約0.13ドル。これは同等の性能を持つ他社モデルの数分の一から10分の1以下であり、知能指数とコストの両面で最適とされる「パレートフロンティア」に位置するモデルとして評価されている。
MiMo-V2.6-ProとFlash、2モデルの詳細スペック
今回リリースされたのは2つのモデルだ。ハイエンド版の「MiMo-V2.6-Pro」は、Mixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用し、総パラメーター数は1.02兆、1リクエストあたりのアクティブパラメーター数は420億に抑えられている。これにより、巨大な知識容量を持ちながらも推論時の計算効率を高めている。同時にリリースされた小型版「MiMo-V2.6-Flash」は、より軽量で効率的な運用が可能だ。
性能向上の原動力は大規模強化学習にある
Xiaomiは、この飛躍的な性能向上の要因を大規模な強化学習(RL)の拡張に求めている。同社は学習フェーズを「1ステップあたりのデータ量」「多様なタスク環境」「解答評価のための計算リソース」の3軸で拡大。訓練期間はわずか6日未満で、Pro版の学習費用は約262万ドル、Flash版は約85万ドルと報告されている。特にコーディングベンチマーク「DeepSWE」では、Proのスコアが58.4から72.6へ、Flashも48.8から65.7へと大幅に上昇した。
大規模RLを安定して運用するための工夫も施された。モデル内部の分配メカニズムを凍結し、報酬ハッキング(報酬を不正に獲得するためのトリック)に対する複数の防御層を追加。これにより、モデルがタスクを解かずに報酬を搾取することを防止している。
約7,000の訓練タスクと自動採点システムを公開
Xiaomiはモデル本体に加え、出力速度を最大20倍に高速化した「Pro-UltraSpeed」バリアントも提供。何より重要なのは、同社が学習フレームワークや技術報告書に加え、約7,000の既製訓練タスクと自動採点システムをオープンソースとして公開した点だ。このタスク群はソフトウェア開発、サイバーセキュリティ、オフィス業務、Webデザイン、さらに音楽作曲向けに約1,000タスクが用意されている。
タスクのソースも多岐にわたる。コードタスクの一部は従業員やユーザーの実際のGitHubプルリクエストに基づき、別のタスクは言語モデルによって生成された。サイバーセキュリティ関連のタスクは、数万件の実在するソフトウェア脆弱性を集めたOSS-Fuzzをベースにしており、オフィス環境は合成的に再構築された。
オープン戦略の裏で浮上したClaude蒸留疑惑
この徹底したオープン性は、わずか2週間前にAnthropicが公表した脅威インテリジェンス報告書の内容と鮮明なコントラストを成している。報告書は2025年12月から2026年8月にかけて発見されたClaudeの悪用事例を調査。アリババ、Moonshot AI、DeepSeek、Zhipu、Xiaomi、MiniMax、SenseTimeの7社の中国ラボが、Claudeに対する組織的な攻撃キャンペーンに関与したと非難している。
これらのラボが、自社モデルの訓練データを強化する目的でClaudeの能力を吸い上げるために生成したとされる交換データは、合計で約1億9000万件。Anthropicはこの手法を「違法な蒸留(illegal distillation)」と呼んでいる。
Xiaomiは具体的に名指しされ、事例番号「GTG-16008」として2026年3月から4月にかけて20日間で40万件以上の交換を実施。同社のMiMoモデルとユーザーとの会話やコーディングセッションをOpenClawやOpenCodeというツールを通じてClaudeに送信し、その応答を将来のモデル訓練用のデータとして収集していたとされる。報告書は、MiMo-V2.6-Proの教師データや初期訓練データがどこから来たのかについての明確な記録をほとんど示していないと指摘。言い換えれば、同社は自社モデルとのユーザー会話を記録し、それをClaudeに投入して抽出した訓練データが、今やオープンモデルランキング首位という成果を押し上げた可能性がある。
日本市場とAI業界への波紋
今回のXiaomiの発表は、オープンソースAIコミュニティにとって朗報である一方、AIモデルの開発倫理と知的財産権をめぐる新たな火種となることは間違いない。訓練データの透明性がますます問われる中、特に日本の企業や研究機関がこうしたモデルを商用利用する際には、その出自に細心の注意を払う必要がある。Xiaomiが公開した訓練フレームワークやタスク群は、今後のAI開発手法そのものを変える可能性を秘めているが、同時に、業界全体でのルール形成が急務であることを改めて浮き彫りにしている。Anthropicによる告発の真偽とその後の影響は、AI業界の勢力図を大きく塗り替える可能性があり、今後の動向から目が離せない。