『チ。 ―地球の運動について―』で知られる漫画家・魚豊氏が、新たに2つの連載作品を始動させることを、自身のX(旧Twitter)アカウントを通じて発表した。一つは小学館の『週刊ビッグコミックスピリッツa』で年内にスタートする『Hallucination Meat』、もう一つは講談社の『月刊アフタヌーン』にて2027年初頭に連載開始予定の『Test Taker/Cheaters』。特に後者は、魚豊氏が原作を務め、米代恭氏が作画を担当するという異色のタッグが実現。既に大きな話題を集めている。
2本の新連載、その全貌
『チ。』の完結から約3年。沈黙を破って発表された新たなプロジェクトは、同時に2つの異なるプラットフォームで展開されるという、異例の規模感だ。それぞれの詳細を整理する。
『Hallucination Meat』:魚豊氏が描く新たな世界
一本目となる『Hallucination Meat』は、魚豊氏が単独で描く完全新作。連載先は『チ。』と同じく小学館の『週刊ビッグコミックスピリッツ』だ。現在のところ掲載号や具体的な内容については明かされていないが、年内の連載開始が予告されている。タイトルからは幻覚(Hallucination)と肉(Meat)を組み合わせた、既存の枠に収まらない斬新なテーマが想起される。『チ。』で見せた圧倒的な世界観構築と、知的刺激に満ちた物語が、再びどのような形で読者を魅了するのか、期待が高まる。
『Test Taker/Cheaters』:豪華タッグが生む化学反応
二本目となる『Test Taker/Cheaters』は、魚豊氏が原作、米代恭氏が作画を務める共同作品だ。米代恭氏は『うみべの女の子』や『正しい恋愛のすすめ』などの繊細な心理描写と、人間の奥底に潜む感情を描き出す作風で知られ、独自のファン層を持つ実力派漫画家。両者の組み合わせは、多くの読者にとってサプライズとなった。本作は講談社の『月刊アフタヌーン』にて、2027年初頭に連載開始が予定されている。タイトルが示唆する「受験生/カンニングする者」というテーマが、魚豊氏の原作と米代恭氏の作画によってどのように昇華されるのか。ジャンルや物語の方向性は未発表ながら、二人の作家の個性がぶつかり合うことで、予想もつかない作品が誕生する予感に溢れている。
『チ。』が果たした金字塔とその影響
魚豊氏の名を一躍、日本中に知らしめたのは、言うまでもなく『チ。 ―地球の運動について―』だ。地動説を巡る15世紀のヨーロッパを舞台に、真理への探究と迫害の歴史を描いた本作は、連載中から圧倒的な支持を集め、2022年には第26回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。同年の「このマンガがすごい!」オトコ編では第2位にランクインし、第15回マンガ大賞や第46回講談社漫画賞一般部門にもノミネートされるなど、数多くの賞レースを席巻した。
その影響力は紙媒体だけに留まらない。2024年秋から2025年春にかけて放送された、Madhouse制作によるテレビアニメは、Netflixを通じて全世界に配信され、社会現象と呼べるほどの大きな反響を呼んだ。原作の持つ哲学的で重厚なテーマを、映像表現の力でさらに昇華したアニメは、新たなファン層を取り込むことに成功。これらの功績は、魚豊氏という一人のクリエイターの才能が、いかに多くの人々を動かす力を持つかを如実に示している。
初期作『百エム。』とその映像化
魚豊氏のキャリアを語る上で、『チ。』以前に連載されていた『百エム。』も見逃せない作品だ。2018年から2019年にかけて講談社のマンガアプリ「マガジンポケット」で連載された本作は、全5巻のコンパクトなボリュームながら、独特の世界観と疾走感のあるストーリーで根強いファンを獲得した。そして2025年9月には、Rock’n Roll Mountainの手により長編アニメ映画化。北米ではGKIDSから配給され、2025年12月にはNetflixでの配信もスタートするなど、こちらも国際的な展開を見せている。
このように、魚豊氏は『チ。』の大ヒットによって得た知名度と信頼を背景に、活動の幅をますます広げている。今回の2本の新連載発表は、その勢いを更に加速させるものと言えるだろう。
新連載が示す今後の展望
異なる出版社(小学館と講談社)で、異なるスタイル(単独執筆と原作・作画の共作)の連載を同時に動かすという、まさに怒涛の展開。この戦略的な動きからは、魚豊氏自身の旺盛な創作意欲と、出版業界全体が彼に寄せる大きな期待が読み取れる。『Hallucination Meat』で再び『チ。』のような深遠なテーマに挑むのか、あるいは全く異なるジャンルに挑戦するのか。また、米代恭氏とのコラボレーション作品『Test Taker/Cheaters』が、どのような化学反応を引き起こすのか。目が離せない状況が続く。
連載開始は2027年初頭と、少し先の話となる『Test Taker/Cheaters』だが、『Hallucination Meat』は年内にもその姿を現す。ファンにとっては待ち遠しい日々が続くが、『チ。』と『百エム。』で証明されたその才能が、次にどんな物語を見せてくれるのか。我々は、ただその時を静かに、そして熱く待ちたい。