中国発のロボット企業Unitree Roboticsが手掛けるヒューマノイドロボット「Unitree G1」が、米国や欧州を中心に新たな市場を開拓している。その用途は従来の産業オートメーションではなく、ナイトクラブでのパフォーマンスや企業イベントへの出演、さらにはソーシャルメディア上で独自の人格を持った「ロボットインフルエンサー」としての活動だ。高度な汎用人工知能(AGI)を搭載したロボットが、経済活動の一端を担う未来像が、予想以上の速さで現実味を帯び始めている。
歩行から会話まで、Unitree G1が切り開く新たな需要
従来の産業用ロボットとは一線を画すUnitree G1は、二足歩行による機敏な移動と、大規模言語モデル(LLM)を活用した自然な対話能力を備える。この組み合わせにより、人々の注目を集めるエンターテインメント領域での需要が急拡大している。ポーランドに拠点を置くMERA Roboticsの共同創業者であるエドヴァルド・ヴァルチョツキ氏は、数多くのヒューマノイドロボットをテストした結果、「わたしたちの目的にはG1が最適でした」と明言する。同氏は、中国が他国の技術を模倣することに慣れているという従来の認識に対し、「ヒューマノイドに関して言えば、他国こそ中国を手本にすべきなのです」と強い確信を示す。
この発言は、単なる製品評価にとどまらず、世界的なロボット開発競争における勢力図の変化を示唆する。実際、MERA Roboticsは現在20台のヒューマノイドロボットを所有し、その大半がUnitree G1だ。ポーランド国内の機体はすべて同一の人格「エドヴァルド」を共有しつつ、中東や東南アジアでは全く別のインフルエンサーとして活動する機体も存在する。LLMの導入により、ロボットは対話の自由度を飛躍的に高めたが、物理的な動作や安全面には依然として課題が残る。屋外での運用は、ほとんどの場合、遠隔操作に頼らざるを得ないのが現状だ。
米国における“ロボットインフルエンサー”市場の勃興
マイアミ在住の24歳、ジェイク・クーパースタイン氏も、こうした新たな流れに乗る一人だ。既存のインフルエンサーアカウントに触発され、彼は自らヒューマノイドロボットを購入してインフルエンサーとして運用する決断を下した。2026年1月、ニューヨークのロボットショップでUnitree G1をテストしたクーパースタイン氏は、その操作のしやすさに即座に魅了され、翌日には注文を確定。頭金を支払った。
Unitreeの公式サイトでは、標準的なG1の価格は13,500ドル(約203万円)と表示されている。しかし、これは米国への関税や送料、税金を含まない価格であり、実際の米国内での販売価格は約19,000ドル(約285万円)だ。しかし、クーパースタイン氏はこのベーシックモデルでは満足しなかった。器用なハンドなどの高度なパーツが付属せず、改造も禁止されているためだ。彼は教育機関向けに設計されたカスタマイズ性の高いモデル「U5」を選択。価格は一気に66,000ドル(約990万円)に跳ね上がった。
クーパースタイン氏は、このG1ロボットをマイアミの中心街ブリッケルにちなんで「Brickell Clanker(ブリッケルのポンコツ)」と命名。街中に連れ出して人々と交流させる活動を開始した。Brickell Clankerは2026年のワールドカップ試合後のアフターパーティーに参加し、アルゼンチン、ブラジル、米国のユニフォームに着替えて人気を博したという。現在、クーパースタイン氏の主たる収入源は、インフルエンサーのパーティーやナイトクラブ、企業イベントへの派遣事業だ。料金は求められるパフォーマンスにもよるが、1時間あたり800ドルから1,200ドル(約12万円から18万円)に設定されている。
FCCの輸入規制と今後の展望 — 市場への影響は
ビジネスとしての成功を収めつつある一方で、Unitreeとそのロボットには強い疑いの目が向けられている。エンターテインメントの領域を超えて、組み立てラインでの作業や家の清掃といった、経済に直接貢献する「本業」にいつ就くのかは、まだ明確になっていない。加えて、地政学的なリスクも浮上している。2026年7月、米連邦通信委員会(FCC)は中国製の新たなヒューマノイドロボットの輸入を禁止すると発表した。すでに承認を得ているUnitree G1やR1は理論上、引き続き認められる見通しだが、確実性は低い。
クーパースタイン氏は最近、より手頃な価格帯を狙った別モデル「Unitree R1」を新たに入手した。G1の基本価格の約3分の1という価格設定は、ヒューマノイドロボットの普及を加速させる可能性を秘める。しかし、次世代機が投入された場合、米国市場への投入は困難になる可能性が高い。Unitree社はコメントの要請に応じていない。
“ポンコツ”が映し出す、ロボット社会のリアル
「Brickell Clanker」や「Lil Clanker」といった愛称で親しまれる個々のロボットは、単なる機械以上の存在として受け入れられつつある。しかし、その背後には、高度なLLMによる対話能力と、依然として不完全な物理的動作能力というギャップが存在する。現在、屋外での運用は安全上の懸念から遠隔操作が主流であり、完全な自律運用には至っていない。にもかかわらず、人々はその不完全さも含めてロボットを受け入れ、新たな経済圏を形成している。
クーパースタイン氏は今後の調達に不透明感を漂わせる一方で、すでに存在する機体を活用したビジネスモデルを拡大している。G1が“本業”に就く日が来るかどうかは、技術の進化と規制環境の変化の両軸にかかっている。日本市場においても、エンターテインメントと実用性の境界線を曖昧にするヒューマノイドの登場は、無視できないトレンドとなるだろう。