トランプ政権は2025年6月、連邦裁判所によって一度は退けられた高度外国人材向けH-1Bビザへの課税措置を、新たな規制プロセスを通じて再提案した。今回の計画では、企業が外国人専門職のビザを申請する際に、1候補者あたり約10万3000ドル(約1500万円)を支払うことが義務付けられる。前回の試みが国外からの新規申請者に限定されていたのに対し、今回はほぼすべての新規ビザ取得者が課税対象となる点が、その適用範囲を大幅に拡大している。
H-1Bビザを巡る政権と司法の攻防
トランプ政権はかねてより、移民規制の強化を看板政策の一つに掲げてきた。H-1Bプログラムは、高度な技術や専門知識を持つ外国出身者に米国での就労を認める制度だが、国内の雇用機会を奪っているという批判が根強い。これを受けて政権は、国外からの新規申請者に10万ドルの追加課税を課す大統領令を発令したが、連邦裁判所はこれを無効とする判断を下した。
裁判所の判断は、行政権の越権や手続きの不備を指摘したものだった。しかし、政権は司法の壁を乗り越えるべく、今度は規制制定プロセスという合法的なルートを選択。発表された新たな規則案は、課税対象を国外からの新規申請者に加え、国内でのステータス変更や延長申請を行う者にも広げている。
課税がもたらす実質的な障壁
今回提案された課税額は、1候補者あたり約10万3000ドル。この金額は、通常の申請料や弁護士費用などを含めると、企業が外国人材を一人雇い入れるコストを大幅に押し上げる。特に、採用コストに敏感なスタートアップ企業や中小企業にとっては、H-1Bビザの利用そのものが現実的ではなくなる可能性が高い。
この課税による年収約1000億円規模の財源は、政権が推進する移民取り締まりの強化策に充てられる見通しだ。つまり、高度人材の受け入れに高い壁を設け、その資金で他の移民対策を強化するという、二重の締め付け構造となっている。
H-1Bビザとは?—制度の基本と課税の影響
H-1Bビザとは、米国企業が高度な専門知識を持つ外国人労働者を採用するための非移民就労ビザです。特に、科学、技術、工学、数学(STEM)分野の人材に広く利用されており、シリコンバレーを中心としたテクノロジー業界にとって、優秀な人材を確保するための重要な手段となっている。今回の課税提案は、この人材の流動性を根本から損なうものとして、業界の強い懸念を招いている。
テクノロジー産業への深刻な打撃
米国のテクノロジー企業、とりわけGAFA(Googlea、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるプラットフォーマー各社は、世界中から優秀なエンジニアや研究者を集めている。彼らの多くはH-1Bビザで米国に渡り、同国のデジタル産業の競争力を支えてきた。
新たな課税は、こうした人材採用のコストを一気に跳ね上げる。仮に課税が施行されれば、企業は人材獲得戦略を根本から見直さざるを得ない。
企業が取りうる代替戦略
企業は、海外に新たな研究開発拠点を設立したり、カナダや欧州諸国などの競合国に人材の受け入れ先をシフトしたりする動きを加速させる可能性がある。実際、カナダは独自の高度人材向けビザプログラムを積極的に展開しており、米国の移民政策の不透明さが追い風となっている。
今後の展望:規制制定プロセスの行方
今回の提案は、あくまで規則案の公表段階であり、成立までにはパブリックコメントの募集や審査期間を経る必要がある。しかし、前回の裁判所敗訴という逆風を乗り越えて、より広範な課税を再提案したという事実は、政権の移民規制に対する強い意志を示している。
一方、テクノロジー業界や移民権利団体は、この提案に対して強く反発するとみられる。彼らは再び法廷闘争に持ち込む可能性も含め、あらゆる手段を模索するだろう。H-1Bビザを巡る攻防は、司法と行政、そして産業界を巻き込みながら、さらに複雑化の様相を呈している。
米国の競争力維持にとって、高度外国人材の受け入れはもはや不可欠な要素となっている。今回の課税提案が、結果としてどのような影響を米国のテクノロジー産業に及ぼすのか。今後の規制制定プロセスの行方と、それに対する業界の対応から、目が離せない。