サムスン電子とSKハイニックスの半導体生産拡大、そして人工知能(AI)データセンターの建設ラッシュにより、韓国の電力需要が今後数年間で急増する見通しです。同国のエネルギー政策を統括するキム・ソンファン気候・エネルギー・環境部長官は今月のインタビューで、AI関連の電力需要だけで25〜30ギガワット(GW)の上乗せ需要が発生するとの試算を明らかにしました。
これに加えて、ガソリン車から電気自動車(EV)への移行や、ガス暖房から電気暖房への転換も、電力需要を押し上げます。成長を続ける半導体・AI分野が、電力インフラという新たな制約に直面しはじめた格好です。
韓国の電力需要はなぜ急増するのか
韓国の電力需要が急増する主因は、サムスン電子とSKハイニックスの半導体生産拡大と、AIデータセンターの新設です。同国政府はAI関連の需要だけで25〜30GWの増加を見込んでいます。
25〜30GWという規模は、原子力発電所1基分の出力(約1GW)に換算すると、原発25〜30基分に相当します。韓国が現在運転中の原子力発電設備は、出力の合計で25GW前後。AI関連の需要だけで、同国の原子力発電全基分に匹敵する追加電力が必要になる計算です。
韓国の夏場のピーク電力需要は90GWを超える水準まで拡大しています。そこへ25〜30GWの需要が上乗せされれば、電力供給体制にかかる負荷は極めて大きくなります。しかも半導体工場やデータセンターは24時間365日稼働し続けるため、景気に左右されにくい「確実に伸びる需要」である点が難しいところです。発電設備の新設・増設と送配電網の増強を、どのタイミングでどれだけ進めるか。政府には需要の立ち上がりを見据えた計画的な対応が求められています。
サムスン電子とSKハイニックスの投資計画が電力需要を牽引
電力需要急増の最大のけん引役は、韓国を代表する2大メモリー企業の大型投資です。
サムスン電子は、京畿道・平沢(ピョンテク)に世界最大級の半導体工場団地を構え、ファウンドリ(半導体受託生産)に加えてDRAMやNANDフラッシュメモリー、AI向けHBM(高帯域メモリー)の生産能力を段階的に拡大しています。最先端のクリーンルームでは、製造装置の増設に伴って消費電力が大幅に膨らみます。
一方、SKハイニックスはエヌビディア向けHBMで世界をリードしています。既存の清州(チョンジュ)工場での増産に加えて、京畿道・龍仁(ヨンイン)では約120兆ウォン(約13兆円)を投じる半導体クラスターを計画しており、第1工場の稼働に向けた準備が進められています。半導体の微細化が進むほど製造装置の消費電力は増える傾向にあり、工場1棟あたりの電力消費は大型データセンター並みに達します。
韓国内で相次ぐAIデータセンター新設計画
半導体工場に加え、生成AIの普及に伴うデータセンターの建設ラッシュも、電力需要を押し上げます。
ソウル近郊の京畿道をはじめ、韓国内の各地で大規模データセンターの新設計画が進行中です。AIモデルの学習や推論処理には多数のGPU(画像処理半導体)サーバーが必要で、従来のデータセンターよりも消費電力が桁違いに大きくなります。冷却用の空調設備などを含めると、1施設あたりの電力需要は数百メガワット(MW)規模に達するケースもあります。
地方自治体も税収や雇用創出を目的に大型施設の誘致を競っており、こうした動きは今後さらに加速するとみられます。その一方で、送電網への接続待ちが生じる懸念もあり、電力インフラの整備がAI投資の足かせにならないよう、政府による送配電網の増強が急務となっています。
EV移行と電気暖房も電力需要を押し上げる
産業用だけでなく、暮らしや交通の電化も需要増に拍車をかけています。
韓国政府は脱炭素政策の一環として、ガソリン車からEVへの移行を推進しており、充電インフラの整備が進んでいます。EVの普及が進めば、交通部門の電力消費は確実に増えるでしょう。さらに、ガスで賄われてきた暖房を電気式ヒートポンプなどに置き換える「暖房の電化」も、政策として後押しされています。キム長官は、こうした部門横断的な電化の進展も見据えながら、電力需給計画を立てる必要があるとしています。
日本にとっても対岸の火事ではない電力インフラ問題
この韓国の状況は、日本にとっても無関係ではありません。日本では北海道千歳市のラピダスや熊本県のTSMC(台湾積体電路製造)の工場など、先端半導体の生産拠点の建設や稼働が相次いでおり、電力需要の増加が見込まれています。AIデータセンターも首都圏を中心に新設ラッシュが続いており、各地で送電網の逼迫が懸念されています。
韓国政府が、半導体生産の拡大とAIを主因とする電力需要急増の見通しを公式に示したことは、電力インフラの整備が産業競争力を左右する時代が到来したことを如実に示しています。電源開発と送配電網の増強、そして需要側の省エネルギー化を同時に進められるか。韓国の取り組みは、エネルギー制約に直面する日本を含む主要国にとって、極めて示唆に富む先行事例となるでしょう。