ステーブルコイン、超長期国債には届かず。短期資産の壁

GENIUS法が定める93日ルールにより、ステーブルコインの準備資産は短期国債に限定され、超長期国債への直接的な影響は生じない。

投稿者 central
USDCの準備資産はすべて短期国債で、超長期国債は対象外。
ハイライト
  • GENIUS法は準備資産を残存期間93日以下の米国債等に限定している。
  • USDCの準備資産は102%以上の担保率を維持し、全額が短期資産に集中。
  • ステーブルコインの成長が国債市場全体に与える正味の影響は限定的。

米国で2025年7月に成立したステーブルコイン法「GENIUS法」は、発行体に対し発行残高1ドルにつき1ドル以上の準備資産を義務付けている。しかし、その適格資産の範囲は米ドル現金や連邦準備制度への預け金、残存期間93日以下の米国債など短期資産に限定されており、新規発行の10年債や30年債は対象外だ。この構造的な制約が、ステーブルコインの需要が国債市場、とりわけ超長期ゾーンに直接波及する経路を最初から遮断していることが、最新のデータと規制の詳細から浮き彫りになった。

93日ルールが生む「満期の壁」

GENIUS法が定める準備資産の要件は、発行体がリスクを抑え、常に引き換えに応じられる流動性を確保するためのものだ。適格と認められるのは、米ドル現金、連邦準備制度への預け金、引き出し可能な銀行預金、残存期間93日以下の米国債、適格なレポおよびリバースレポ、そしてこれらの短期資産に投資する政府系マネー・マーケット・ファンドである。

10年債や30年債といった超長期国債は、この枠組みの外側にある。つまり、ステーブルコインの発行残高がどれだけ増えても、その裏付け資産として直接購入されることはない。これが「満期の壁」と呼ばれる構造だ。短期金利には影響を及ぼすが、長期金利や超長期ゾーンの需給には直接的な効力を持たない。

USDCの準備資産、すべて短期に集中

この現実を最も明確に示しているのが、大手ステーブルコイン発行体サークル(Circle)の事例だ。2026年7月31日時点の報告によれば、USDCの流通量は718億2,600万ドルで、準備資産は719億400万ドルと、102%以上の担保率を維持している。

準備資産の内訳を見ると、Circle Reserve Fundが607億1,700万ドルを占め、そのうち翌日物の米国債レポが527億2,300万ドル、直接保有する米国債が71億7,900万ドルとなっている。さらにファンド外の111億8,700万ドルは、規制対象金融機関に預けられた現金(106億700万ドル)が中心だ。注目すべきは、直接保有している米国債のすべてが9月22日までに満期を迎える短期物である点だ。超長期国債は一枚も含まれていない。

BIS論文が示す短期金利への限定的な影響

国際決済銀行(BIS)のワーキングペーパーは、ステーブルコインの流入が実際に金利にどのような影響を与えるかを定量的に分析している。2026年3月までのデータを用いた推計によれば、35億ドルのステーブルコイン流入は、3か月物財務省短期証券の利回りを即時に0.71ベーシスポイント押し下げ、10日以内には約4ベーシスポイント、推計上のボトムでは約5ベーシスポイント低下させた。

しかし、より長期の年限への波及効果は限定的、あるいはほとんど確認されなかった。2026年8月28日時点の米国債利回りは、10年物が4.73%、20年物が5.21%、30年物が5.22%。いずれもGENIUS法が定める93日という上限をはるかに超えた年限であり、このデータはステーブルコインが超長期ゾーンに直接的な影響を及ぼしていないことを裏付けている。

日本のJPYCも同じ構造、1兆円目標でも超長期には非効

日本国内でも、状況は変わらない。2025年10月に発行が開始された円建てステーブルコイン「JPYC」は、資金移動業型として送金や決済に特化した設計だ。発行体は、発行額に見合う預貯金と国債を裏付け資産として保有すると説明しており、累計発行額は2026年4月15日時点で21億円を超えた。

発行体は3年で1兆円という目標を掲げているが、仮にその規模に達したとしても、裏付けとして積まれるのは流動性の高い短期資産であり、日本国債の超長期ゾーンの需給に直接影響を及ぼす性質のものではない。JPYCの準備資産も、年限が短い国債や現金が中心になるとみられ、日本の国債市場全体への波及効果は限定的と言わざるを得ない。

「デジタルドルが国債を支える」という議論の限界

ステーブルコインが米国債の重要な買い手になるとの期待は、市場でしばしば語られてきた。しかし、米財務省の借入諮問委員会(TBAC)も、この点について冷静な整理を示している。ステーブルコインの発行は短期国債の需要を増やしうるが、その資金の一部は銀行預金やマネー・マーケット・ファンドといった、もともと短期国債を支えていた資金からの移動である可能性がある。

新規の海外ドル需要を吸収できれば純粋な上積みになるが、その割合を特定できる公的な推計は存在しない。つまり、トークンの残高が増えたとしても、短期国債を保有する主体が入れ替わっただけというシナリオも十分に考えられる。この「資金の付け替え」効果が大きい場合、ステーブルコインの成長が国債市場全体に及ぼす正味の影響は限定的になる。

規制の進展と今後の論点

制度面の整備はまだ途上にある。GENIUS法は2025年7月に成立したが、一般的な施行日は2027年1月18日か、最終規則の公表から120日後のいずれか早い方とされている。通貨監督庁(OCC)は2月に規則案を示し、8月19日には最終規則を11月までに公表する見通しを明らかにした。

今後、規制の細部が固まるにつれて、ステーブルコインが政府債務の資金調達にどこまで関与しうるのかという議論は、より具体的な数字で語られるようになるだろう。現時点では、短期資産に閉じた影響力しか持たないというのが、データと規制が示す確かな結論である。超長期国債市場の需給を動かす力としてステーブルコインを捉えるのは、現実的ではない。

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