人工知能(AI)が日常生活に急速に浸透するなか、世界最大の市場である米国で、テクノロジーに対する根深い懸念が浮き彫りになった。大手世論調査会社ギャラップがマイクロソフトの委託で実施した国際調査によると、米国人の実に68%がAIに対して「不安を感じている」と回答。特筆すべきは、AIを毎日利用する層ほどその懸念が強いという逆説的な結果が示されたことだ。
米国人の74%が「AIに不安」、先進国で顕著な危機感
調査は2026年4月から7月にかけて、37カ国で各国約1000人を対象に実施された。最終的には140カ国に拡大される予定だ。米国は国際比較において最も「AI不安」が強い国の一つとして浮上。74%が何らかの懸念を抱き、AIが国にとって「主に有益である」と期待する割合はわずか36%にとどまった。
この傾向は米国だけのものではない。カナダではAI利用者の29%が毎日使用しているが、そのうち過半数が影響を危惧。AIを認知している層全体では64%が不安を感じている。調査結果は、西欧の先進国ほどAIに対する警戒感が強いことを明確に示している。
なぜ「日常使い」のヘビーユーザーほど不安なのか
一見矛盾するこの現象の背景には、AIがもたらす具体的な社会変容へのリアルな実感がある。AI関連の人員削減は2026年だけで数十万人規模に達し、新卒採用の減少や、AIとの対話が原因とされる精神疾患事例の報告も相次いでいる。アンソロピックのCEOダリオ・アモデイ氏が「AIが大規模な雇用の喪失をもたらす」と警鐘を鳴らすなど、業界内部からの警告も日常利用者の危機感を強めている。
まさにAIを使えば使うほど、その影響を実生活で実感せざるを得ないという構造が、不安の増幅に拍車をかけているとみられる。
シンガポールと中国では「楽観」が優勢、明暗分ける世界地図
一方で、世界の見方は一枚岩ではない。シンガポールは調査対象国で最もAI利用率が高く(46%)、AIを認知する層の80%以上が「生活が改善する」と期待し、77%が国のためになると回答。中国でも35%が毎日利用し、大多数が国にとって有益だと見ている。イスラエルでも同様の傾向が確認された。
しかし、楽観的な見方が即座に「信頼」に直結するわけではない。AIの精度に対する信頼度を見ると、シンガポールや中国、イスラエルなど利用率の高い国では日常ユーザーの信頼も高い傾向にあるが、米国では毎日利用する人のうち「結果を大いに信頼する」と答えた割合はわずか45%だった。全調査対象国の中央値では、AIの結果を「強く信頼する」と答えた人は36%にとどまっている。
「好奇心」と「懸念」が同居する複雑な感情
ギャラップの主任研究員パブロ・ディエゴ=ロッセル氏はこの調査結果について「AIに対する態度は多次元的だ。人々は好奇心を持ち、恩恵を期待し頻繁に利用しながらも、同時に不安を感じることができる。また、AIに大きな可能性を見出しながら、その情報の正確性には懐疑的であり得る」と分析する。
実際、37カ国中34カ国で、AIに対して最も多く感じる感情は「好奇心」だった。「幸福」や「興奮」が続く一方で、「心配」を感じるとした人は全体の約32%だった。楽観的な感情が最も強かったのは中国(90%)、シンガポール(89%)、ケニア(87%)となっている。
国際政治の舞台へ—AI安全保障が主要議題に
調査が終了した7月以降、AIをめぐる状況はさらに緊迫している。米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平首相の首脳会談では、AIの安全性が主要議題の一つに浮上。中国国家安全部の陳一新部長は、AIが「政治的安全、制度的安全、思想的安全」を脅かす可能性に言及する文章を発表している。
このように、AIをめぐる不安と期待は、もはや個人の感情論や企業の技術開発の範囲を超え、国家間の安全保障や国際政治の重要なファクターとして位置づけられつつある。
規制強化と普及拡大のジレンマ
AIへの不安が高まるなかで、採用、医療、教育、行政といった分野での利用を制限する規制強化を求める声が強まる可能性は十分にある。また、AIモデルの学習と運用による環境負荷、サイバーセキュリティのリスク、コンテンツの所有権やデータプライバシーの問題など、課題は山積している。
だが、巨額の投資が続く限り、AIの普及は不可避だ。本調査が示唆するのは、単にAIに触れる機会を増やすだけでは人々の不安は解消されないという厳しい現実である。利用と懸念が同時に進行する複雑な社会において、私たちは「どのようなAI社会を構築するのか」という根本的な問いと向き合わざるを得ない。テクノロジーの進化と人間の受容のギャップは、今後しばらく続く大きなテーマとなるだろう。