米Smarter EcommerceのEコマース責任者Mike Ryan氏の分析により、Googleの検索結果に統合されたAI Overviewsがショッピング広告のパフォーマンスに予想外の影響を及ぼしている実態が明らかになった。同氏の調査によれば、ショッピング広告のクリック率(CTR)は上昇傾向にある一方で、インプレッション数は減少している。この現象は、GoogleがAI Overviewsをどのようなクエリに対して表示するかという判断基準の変化と密接に関連している可能性が指摘されている。
SEOの「ワニ効果」とは逆の現象がショッピング広告で発生
Ryan氏はこの状況を「クロコダイル効果(crocodile effect)」という独自の用語で説明する。SEOにおけるクロコダイル効果とは、AI Overviewsによってパブリッシャー側のインプレッションは増加するものの、実際のクリック数は減少する現象を指す。検索ユーザーがAI Overviews内で必要な情報を得てしまい、下層のウェブサイトまで遷移しなくなるという構図だ。
ところが、ショッピング広告の世界ではこれとは正反対の動きが見られている。インプレッションが減少しているにもかかわらず、CTRが上昇しているのだ。表面的には広告の効率が改善したように映るが、実態はより複雑である。
CTR上昇の裏側で進行するインプレッション減少
Ryan氏がSmarter Ecommerceのベンチマークツール「Market Observer」で収集したデータによると、数千のショッピングキャンペーンおよびPerformance Maxキャンペーンを対象にした分析において、クリック数は横ばいか微減にとどまる一方で、インプレッション数は顕著に減少していることが確認された。別の広告運用ツールOptmyzrのデータでも、ショッピング広告のCTRが前年同期比で約17%上昇しており、Ryan氏が観測していた約20%の上昇とおおむね一致する結果となっている。
つまり、ショッピング広告がより多くのクリックを獲得しているわけではない。単に表示される機会が減ったことで、分母であるインプレッションが縮小し、結果としてCTRが押し上げられているにすぎない。
AI Overviewsが広告表示の「取捨選択」を促している可能性
Ryan氏はこの変化の背後に、GoogleのAI Overviewsの配信ロジックが関与しているとの仮説を立てている。Googleは、ユーザーが広告をクリックする可能性が低いと予測されるクエリに対してはAI Overviewsを優先的に表示し、逆にクリックの確率が高いクエリに対しては従来どおりショッピング広告の掲載枠を残しているのではないか。この「経験の切り替え(experience switching)」こそが、インプレッション減少とCTR上昇という一見矛盾した指標を同時に生み出しているというのが同氏の見立てである。
ショッピング広告とAI Overviewsは同一SERP上で共存しにくい
Ryan氏は実体験として、同一の検索結果ページ(SERP)にショッピング広告とAI Overviewsが同時に表示されるケースをほとんど見かけないとも述べている。どちらか一方が表示され、もう一方は表示されないのが典型的なパターンだという。この観察結果は、Googleがクエリの性質に応じて表示する情報の種類をより厳選する方向へとシフトしている可能性を示唆する。
もしこの仮説が正しければ、Googleはショッピング広告の総インプレッション数を削減しつつも、広告が実際に表示されるクエリにおいては高いクリック率を維持することで、収益の低下を抑えていることになる。インプレッション数だけを見れば広告のリーチは縮小しているが、残った広告枠のマネタイズ効率は保たれているという構図だ。
因果関係の証明にはまだ至らず
ただし、Ryan氏自身も認めるとおり、現時点のデータはAI Overviewsがインプレッション減少の原因であると決定的に証明するものではない。時期が偶然重なった可能性もあれば、AI Overviewsが別のメカニズムを通じて間接的に影響している可能性もある。あるいは、AI Overviewsとはまったく無関係の要因がインプレッション減少を引き起こしている可能性も否定できない。
現段階ではあくまで仮説であり、さらなる検証が必要な状況である。
広告主が注目すべきは「なぜCTRが上がっているのか」
本分析が示唆する実務上の最重要ポイントは、ショッピング広告のCTRが上昇しているという事実そのものではなく、その背後にある理由を理解することの重要性である。もしCTRの上昇が、Googleがショッピング広告を表示するクエリをより商業価値の高いものに限定した結果であるならば、従来のCTRベンチマークはキャンペーンの実態を正しく反映しなくなる。
広告主はCTRの数値だけを鵜呑みにせず、インプレッション数の変動、クリック数の絶対値、そしてトラフィックの質を含めた総合的な評価指標へと判断軸を移す必要がある。
今後の展望:AI Overviews内部への広告統合が次の転換点に
Ryan氏は、現状の「二者択一(either/or)」的な検索体験は中長期的には解消され、「両立(both/and)」型の体験へと移行していくと予測する。具体的には、GoogleがAIネイティブな広告フォーマットを開発し、ショッピング広告をAI Overviewsの内部に直接配置する流れが強まると見ている。これにより、AI Overviewsが表示されるクエリにおいても広告収益を確保できる仕組みが整うことになる。
AI Overviewsの日本国内への本格展開が進むにつれ、本格的なデータ分析と戦略の見直しが求められる局面は目前に迫っている。現状の変化を一時的なノイズと捉えるか、構造的なシフトの前触れと捉えるか。その判断が、今後の広告運用の成否を分けることになるだろう。