ナスダック上場のマイニング機器メーカーIntchains Groupが、イーサリアム(ETH)の新規購入を停止し、次世代マイニングチップと初期段階のAI(人工知能)事業への資本振り向けを発表した。背景には、2025年上期の売上高が前年同期比で94%減少するという極めて厳しい業績悪化がある。この戦略転換は、暗号資産(仮想通貨)市場の構造変化と、AI半導体需要の高まりという二つの大きな流れを象徴する動きとして注目される。
Intchains Group、ETH購入停止の背景
Intchains Groupは8月20日に2025年度上期の決算を公表し、同時に今後の資本配分に関する方針を示した。同社はこれまで、イーサリアムのマイニングに特化したASIC(特定用途向け集積回路)チップの設計・販売を主力事業としてきた。しかし、2022年のThe Merge(プルーフ・オブ・ステークへの移行)以降、イーサリアムのマイニングは事実上不可能となり、同社のビジネスモデルは根幹から揺らいでいた。
決算資料によれば、2025年上半期の売上高は前年同期比で94%減の約320万ドル、純損失は約450万ドルに拡大。この数字は、ETHマイニングチップ市場の急激な縮小を如実に示している。Intchainsはこの危機的な状況を受け、財務基盤を守るためにイーサリアムの新規購入を停止。限られた資金を次世代のマイニングチップ開発と、AIアクセラレーター事業に集中投下する決断を下した。
ETHからAIへ——戦略転換の現実味
IntchainsがAI事業に軸足を移す方針を打ち出したのは、単なるトレンド追随ではない。同社はASICチップの設計・製造で培った半導体技術を、AI推論処理用のアクセラレーターに応用できると判断している。特に、エッジAI(端末側でAI処理を行う技術)向けの省電力チップは、データセンター向けGPUとは異なるニッチ市場として成長が見込まれている。
ただし、AI半導体市場にはNVIDIAやAMDといった強力な競合がひしめいている。Intchainsがこの分野で差別化を図るには、従来のマイニング用ASICで蓄積した「低消費電力かつ高効率」な設計思想を、いかにAIワークロードに適合させるかが鍵となる。現時点ではAI事業は「初期段階」とされており、具体的な製品リリース時期や技術スペックは明らかにされていない。
暗号資産市場への影響と業界構造の変化
この動きは、暗号資産市場全体の構造変化を如実に反映している。イーサリアムがプルーフ・オブ・ステークへ移行してから約3年、マイニング中心のエコシステムはほぼ清算されたと言ってよい。結果として、ビットコイン以外のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)通貨を支えるマイニング企業は、事業の根本的な転換を迫られている。
8月22日時点の暗号資産市場では、ビットコイン(BTC)が約1,248万円、イーサリアム(ETH)が約39.9万円、ソラナ(SOL)が約1.54万円で取引されており、時価総額は約440兆円。ビットコインのドミナンス(市場占有率)は約59.7%と、依然として高い水準にある。この「ビットコイン一極集中」とも言える環境が、アルトコイン関連ビジネスにさらなるプレッシャーを与えている。
Intchainsの決断は、暗号資産企業が「単一通貨・単一技術」への依存から脱却し、より広範な半導体市場へ活路を見いだすという、業界全体の流れの一環として位置づけられる。同様の動きは他のマイニング企業でも散見されており、例えばビットコインマイナーの大手は、余剰電力をAIデータセンターに転用する試みを進めている。
イーサリアムの安全性をめぐる「未解決の幅」公開測定
一方、イーサリアムの技術面では興味深い進展がある。イーサリアム財団が進める「better.codes」コンテストでは、暗号学的証明の安全性をめぐる「未解決の幅(unsolved gap)」が公開されている。これは、ゼロ知識証明(zk-SNARKsやzk-STARKs)などの暗号学的な証明システムにおける安全性の理論的な下限と上限を、コミュニティ全体で測定する取り組みだ。
8月21日時点のリーダーボードでは、固定パラメータ「koalaIRS12」に対して下限証明書が63.99ビット、上限証明書が116.13ビットと表示されている。研究者はこの両側から差を詰めることで、証明システムの安全性に関する理論的な理解を深めることができる。この取り組みは、イーサリアムのレイヤー2スケーリング技術やzkEVM(イーサリアム仮想マシンのゼロ知識証明対応版)の安全性を直接的に強化する可能性がある。
Maya Protocol、資産凍結されたまま復旧計画示されず
クロスチェーン流動性プロトコルMaya Protocolでは、8月18日に発生した攻撃の影響が長期化している。攻撃の中心とみられるビットコインアドレスは、21日時点で約20.8273 BTC(約2,600万円相当)を保有したまま、一度も送金が行われていない。
これにより、プロトコル全体のプールに及ぶとされるより大きな影響が懸念されている。Mayaは復旧計画を公表しておらず、ユーザーの資金が事実上凍結された状態が続いている。この事例は、クロスチェーン技術におけるセキュリティリスクの高さと、インシデント発生時のガバナンスの不透明さを浮き彫りにしている。
Intchainsの転換は成功するか——今後の焦点
Intchains Groupの戦略転換が成功するかどうかは、いくつかの不確実要素に左右される。第一に、AI半導体市場における競争の激しさだ。すでにNVIDIAやAMD、Intelといった大手が圧倒的なシェアを握る中、新規参入企業が足場を築くのは容易ではない。第二に、マイニング用ASICとAIアクセラレーターの設計思想の違いを、いかに技術的にブリッジするかという課題がある。
とはいえ、半導体メーカーとしての実績と、売上激減という切迫した状況が、同社に「守り」ではなく「攻め」の姿勢を強いていることは間違いない。今後の焦点は、2025年度下半期に同社が公表する具体的なロードマップと、AI向け製品の技術仕様になる。
暗号資産市場が成熟し、関連ビジネスが多様化する中で、Intchainsの選択は単なる一社の生き残り戦略に留まらない。それは、暗号資産という「金融テクノロジー」と、半導体という「ハードウェア基盤」の交点で、企業がどのような適応を迫られているかを示す事例でもある。業界関係者はもちろん、テクノロジー投資家にとっても、同社の今後の動向から目が離せない。