9月2日、東京債券市場で日本の長期金利指標である新発10年物国債利回りが約30年ぶりに3%の大台を突破した。この歴史的な金利上昇は、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産市場にも換金売りの懸念をもたらしている。ビットコイン価格は本日1237万円前後で推移し、イーサリアム(ETH)は約38.5万円、ソラナ(SOL)は約1.59万円で取引。世界の暗号資産時価総額は432兆円、ビットコインのドミナンス(市場占有率)は約60.1%となっている。
長期金利3%突破、1996年以来の水準——暗号資産市場への影響は
9月1日の国内債券市場において、長期金利の指標である新発10年物国債の利回りが節目の3%を突破した。3%台を記録するのは1996年9月以来、実に約30年ぶりの出来事だ。日米双方の中央銀行が追加利上げに踏み切るとの見方が急速に強まったことに加え、日本の財政健全性に対する不安も重なり、国債を売却する動きが広がった。
この金利上昇は、暗号資産市場にとって二重の意味を持つ。第一に、リスク資産であるビットコインの相対的な魅力が低下する可能性がある。安全資産とされる国債の利回りが上昇すれば、投資家はリスクを取って暗号資産に資金を振り向けるよりも、確定利回りを得られる国債を選好するようになる。第二に、金利上昇に伴う円高圧力が、日本円建ての暗号資産価格に下落圧力をかける可能性だ。
市場では「金利上昇によって、これまでレバレッジを効かせて暗号資産に投資していた資金が、円やドルに換金されるのではないか」との警戒感がくすぶる。実際、過去の利上げ局面では、投機的な資金が債券市場へと回帰し、暗号資産から資金が流出するパターンが見られた。
トラベルルールの死角——秘密鍵管理だけでは守れないプライバシー
暗号資産業界では、自己管理の徹底が安全の基本とされてきたが、スイスのPocket Bitcoinが8月31日に公表したインシデントは、その認識に一石を投じている。
同社は非カストディアル型のサービスを提供し、顧客の秘密鍵を一切預かっていない。それにもかかわらず、顧客291人分の記録が流出。流出した情報には氏名や住所と、取引に使用されたビットコインアドレスが結びついた形のデータが含まれていた。秘密鍵そのものは安全でも、取引履歴と個人情報が紐づけられることで、公開台帳(ブロックチェーン)上での行動が追跡可能になるというわけだ。
この問題の背景にあるのが、各国で導入が進む「トラベルルール」だ。暗号資産の送金元と送金先の情報を事業者間で共有することを義務付けるこの規制は、マネーロンダリング対策としては有効だが、同時にプライバシー保護の死角を生み出している。Pocket Bitcoinのケースでは、トラベルルールに準拠する過程で収集・保管された個人情報が、サイバー攻撃によって流出したとみられる。
ユーザーは今後、秘密鍵の自己管理だけに依存するのではなく、取引所やウォレット事業者における個人情報の管理体制、さらにはプライバシー強化技術(コインジョインやzk-SNARKsなど)の活用も視野に入れる必要がある。
マウントゴックス弁済、期限まで2カ月——なお34,690BTCが残る
ビットコイン史上最大の事件とも評されるマウントゴックス(Mt.Gox)の弁済プロセスが、最終局面を迎えている。弁済期限は2026年10月31日に設定されており、残り2カ月を切った。
2014年2月の東京地裁への申し立てから12年余り。再生計画が認可されたのは2021年10月であり、弁済期限は当初2023年10月31日とされていたが、3度にわたって延期されてきた。管財人は「必要な手続きを終え、問題が生じなかった債権者に対する基本弁済、早期一括弁済、中間弁済はほぼ完了した」と説明している。
しかし、なお34,690BTC(約4300億円相当)が未弁済のまま残っている。この大量のビットコインが市場に放出されれば、短期的な売り圧力が生じる可能性は否定できない。2024年以降も、返済が進むたびにビットコイン価格が一時的に軟化する場面が見られた経緯を踏まえると、市場参加者は10月末の期限を意識したポジション調整を迫られることになる。
市場の方向性を占う——金利と規制と償還のトリプルリスク
現在の暗号資産市場は、マクロ経済要因(金利上昇)、規制要因(トラベルルールの普及とプライバシー問題)、構造的要因(マウントゴックス償還)という三重のリスクに直面している。これらはいずれも短期的なボラティリティを高める材料であり、投資家は慎重なリスク管理が求められる局面にある。
一方で、金利上昇局面が長期化すれば、インフレヘッジ資産としてのビットコインの価値が見直される可能性も残る。歴史的に見て、実質金利の上昇はビットコインにとって逆風となる傾向があるが、日本の金利が正常化に向かうプロセスそのものが、円建て資産の魅力を高め、結果的に暗号資産市場への新たな資金流入を促すという見方もある。
30年ぶりの金利水準という節目を迎え、暗号資産市場は新たな政策環境への適応を迫られている。投資家は短期的な値動きに一喜一憂するのではなく、マクロ経済と規制の長期的なトレンドを踏まえた戦略的なポートフォリオ構築を検討すべき時期に来ていると言えるだろう。