JAXA火星探査機MMX、フォボス着陸へ自律航法で難所突破目指す

JAXAが火星探査機MMXのミッション詳細を公表。フォボス着陸とサンプルリターンへの挑戦を解説。

投稿者 central
JAXAの火星探査機MMXがフォボス着陸へ。自律航法で難所突破を目指す。
ハイライト
  • MMXは地球からのリアルタイム制御なしに、自律航法でフォボスへの着陸と離陸を完遂する必要がある。
  • フォボスの重力は月の約300分の1だが、小惑星リュウグウの約50倍あり、着陸方式の選択肢を狭めている。
  • MMXは2段階の地形照合と危険検知機能を搭載し、高精度な自律制御で着陸を目指す。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、火星探査機「MMX(Martian Moons eXploration)」のミッション詳細を改めて公表した。最大のハードルとなるのが、火星の衛星フォボスへの着陸とサンプル採取、そして離陸という一連の動作を、地球からのリアルタイム制御なしに探査機自身の判断で完遂しなければならない点にある。

MMXは2026年の打ち上げを目指し、火星圏に到達後、フォボスに着陸して表面の砂(レゴリス)を採取。その後、地球へとサンプルを持ち帰るという、世界初の火星衛星サンプルリターンミッションである。本稿では、JAXAが明らかにした技術的挑戦の全容を詳報する。

最大の壁は“タイムラグ”と“中間的な重力”

地球とMMXとの間では、電波が届くまでに片道で4〜20分の遅延が生じる。このため、降下・着陸・離陸といった一連の動作は、探査機自身が航法誘導制御機能によって自律的に判断し、実行しなければならない。地上からのジョイスティック操作は不可能なのだ。

さらに難易度を押し上げるのが、フォボスの重力環境だ。その重力は月の約300分の1と極めて小さい。しかし、小惑星探査機「はやぶさ2」が着陸した小惑星リュウグウと比較すると、約50倍にもなる。この「中間的な重力」が、着陸方式の選択肢を狭めている。リュウグウのような極微小重力下では、長時間ホバリングしながら降下する方法が採れたが、フォボスの重力ではその方式は膨大な推薬を必要とし、成立しない。結果として、MMXはより高度な自律制御と迅速な着陸判断を強いられる。

2段階の地形照合と危険検知

この難所を乗り越えるため、MMXには高精度な自律航法システムが搭載されている。着陸時の誘導は、2段階の地形照合方式を採用。まず高度2kmから300mの範囲では、クレーターなどの地形をカメラ画像と照合して現在位置を特定する。そして高度300mから10mになると、着陸目標地点付近のより詳細なテクスチャー(表面の模様)情報と照合し、ピンポイントに誘導するという仕組みだ。

これに加えて、着陸の安全を確保するための危険検知機能も備わる。高度300mと100mの2地点で、30cm以上の段差を危険領域として検知。もし危険な地形が確認された場合には、探査機は自律的に着陸地点を変更するか、あるいは着陸そのものを中止していったん上昇する判断を下す。

ローバー「IDEFIX」が先遣隊に

本体の着陸に先立ち、フランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同開発したローバー「IDEFIX」が、フォボス表面に投下される計画だ。このローバーは重さ約23kgで、約100日間にわたって独立した探査を実施する。MMX本体の安全な着陸を支援するための事前調査が、その主たる任務となる。まさに先遣隊としての役割を担う存在だ。

サンプル採取方法は「はやぶさ」とどう違う?

サンプルの採取には、5軸の関節をもつロボットアームと、コアラー機構と呼ばれる装置が組み合わされる。コアラーは二重構造の筒状で、外筒を地表に貫入させたまま分離。引き抜く際に、内筒と外筒の間にある板バネ仕掛けのクロージャーが動作し、採取したサンプルを内部に封じ込める。

この手法は、弾丸を撃ち込んで舞い上がった粒子を捕捉した「はやぶさ」方式とは明確に異なる。地表に接した状態で筒を突き刺し、表面から深さ2cm以上にある物質を確実に採取する点が特徴だ。さらにMMXはこれと併せて、窒素ガスを吹き付けて最表層の微粒子をかき集める、NASA提供の「ニューマティック方式」も搭載している。

地球由来の汚染を徹底排除

サンプルの科学価値を最大限に高めるため、汚染対策も極めて厳格だ。採取した試料に地球由来の物質が混じらないよう、サンプル採取にかかわる機器には有機溶媒と超純水による精密洗浄が施される。探査機自体も、清浄度の高いクリーンルームで管理されてきた。

着陸時の土壌汚染を防ぐための設計も特筆すべき点だ。エンジンの噴射ガスで地表の砂を巻き上げないために、高度約10mでスラスタの噴射を停止し、その後は自由落下で接地するように設計されている。

競合不在の領域へ、国際共同で挑む

火星からのサンプルリターン計画としては、中国も「天問3号」を推進しており、2028年前後の打ち上げと2031年前後の地球帰還を予定している。ただし、天問3号の探査対象は火星本体であり、フォボスを目指すMMXとはミッションの内容が根本的に異なる。

また現時点では欧米においても、火星の衛星からサンプルを持ち帰る計画が実施段階まで進んだ例はない。MMXが目指す領域には、直接の競合相手は存在しないと言ってよいだろう。

MMXは、1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」以来、日本にとって28年ぶりの火星探査機打ち上げとなる。NASAやCNES、DLR、欧州宇宙機関(ESA)が機器の提供や運用で参加する国際共同ミッションを通じて、日本は初となる火星周回軌道への投入に挑む。その成否は、日本の宇宙開発の新たな時代を築く試金石となるはずだ。

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