トークン化証券(セキュリティトークン)の発行・管理基盤を提供する米Securitize(セキュリタイズ)が、2026年第2四半期(2026年3月1日~5月31日)の決算を発表した。プラットフォーム上の取引高は前年同期比で147%増加したものの、急激な費用増加により黒字から赤字へと転落した。同事業の成長と収益性の間にある構造的な課題が浮き彫りとなった。
取引高は147%増も、営業赤字に転落
Securitizeの2026年第2四半期決算の詳細が明らかになった。最も注目すべきは、取引高が前年同期比で147%増という急成長を遂げた点だ。しかしながら、同期の営業損益は赤字を計上。前年同期は黒字を確保していたことから、業績は大きく様変わりした。
収益面を見ると、プラットフォーム上の平均トークン化運用資産(AUM)は43億ドルに達し、前年同期比で16%の増加を記録した。取引高の伸びがAUMの増加率を大幅に上回っていることから、資産の入れ替わりや短期売買が活発化している可能性が指摘される。
一方で、収益自体は前年同期比で横ばいから微増にとどまった。取引高が倍以上に膨らんだにもかかわらず、トップラインの成長が限定的だったことが、利益率の悪化を招いた主要因のひとつである。
費用膨張の内訳──何が収益を圧迫したか
損益悪化の直接的な要因は、営業費用の急増にある。同期の費用総額は前年比で56%増加した。この増加率は収益の伸びを大きく上回っており、結果として営業利益が押し下げられた。
費用増加の背景には、以下の要因が考えられる。
- 事業拡大に伴う人件費の増加(エンジニアリング、コンプライアンス、カスタマーサポートなど)
- 規制対応コストの上昇(各国の証券法・金融規制への適合)
- マーケティングおよび営業活動への投資強化
- システムインフラの拡張に伴うテクノロジー投資
特にトークン化証券という新興分野では、規制環境が国ごとに大きく異なる。Securitizeは米国を中心に事業を展開するが、グローバル展開を見据えた先行投資がコスト増に拍車をかけているとみられる。
取引急増と収益鈍化のパラドックス──なぜ利益に結びつかないのか
一見すると矛盾する「取引急増」と「収益鈍化」の組み合わせには、Securitizeのビジネスモデル上の要因が潜んでいる。
同社の収益構造は、大きく分けて発行・管理手数料と取引手数料から構成される。取引高が増加すれば取引手数料は連動して増えるが、同社の場合、発行・管理手数料に依存する割合が相対的に高いとされる。その結果、取引量の増加が収益全体を大きく押し上げるには至らなかった可能性がある。
さらに、トークン化証券市場自体がまだ発展途上にあることも見逃せない。機関投資家や大口投資家による長期保有型の取引が中心で、証券会社や取引所のような高頻度取引による手数料収入の積み上げが起こりにくい。取引高の増加は確認できても、それが高マージンの収益に直結するとは限らない。
トークン化証券市場全体の現状とSecuritizeの位置づけ
Securitizeは、BlackRockやKKRといった大手資産運用会社のトークン化ファンドの取り扱いで知られ、業界内でも主導的な地位を占める。同社の決算は、トークン化証券というアセットクラスの実態を測るバロメーターとしても注目される。
世界のトークン化証券市場は、不動産、プライベートエクイティ、債券などを中心に拡大傾向にある。しかし、市場規模はまだ数十億ドル規模にとどまり、従来の有価証券市場と比較すると極めて小さい。規制の明確化と二次市場の流動性向上が、業界全体の成長を左右する鍵となる。
Securitizeは2023年以降、積極的に資金調達と事業拡大を進めてきた。2025年には大手暗号資産取引所との提携や、新たなトークン化商品の投入を発表するなど、先行投資フェーズにあることは明らかだ。今回の赤字転落は、短期的な収益よりも長期的な市場獲得を優先した結果とも解釈できる。
市場関係者の反応と今後の焦点
決算発表後、一部の市場関係者からは「成長が収益性を上回っている」「コスト管理の見直しが必要」との声が聞かれる。一方で、取引高の急増を評価し「事業の勢いは維持されている」と前向きに捉える向きもある。
Securitizeにとって当面の経営課題は、拡大した費用構造を収益成長で吸収できるかどうかである。具体的には、取引高の増加をより収益に結びつけるための価格戦略の見直し、管理手数料収入の拡大、そして規制コストの効率化などが焦点となりそうだ。
また、2026年後半には米国SEC(証券取引委員会)によるトークン化証券に関する新たな規制ガイダンスの発表が予想されており、これが業界全体の追い風となるか、新たなコスト負担を生むかも注目される。Securitizeがこの赤字フェーズを一時的な投資期間と位置づけ、次の成長局面にどうつなげるかが、同社の行方を占うポイントとなる。