トルコ政府は2025年9月、LGBTQ+関連団体や事業者、個人を対象とする大規模な一斉摘発に踏み切った。首都アンカラやイスタンブール、イズミルを含む15州にわたり、162人の個人、9つの団体、13の事業者が捜査対象となり、少なくとも26人が拘束された。ユスフ・テキン司法大臣がX(旧Twitter)への投稿で明らかにしたところによれば、この作戦は「私の家族は安全です(My Family Is Safe)」と名付けられ、売春やわいせつコンテンツの疑いに加え、薬物押収やデジタル資料の押収も行われたという。
当局は、一部のLGBTQ+団体が海外から多額の資金提供を受けていたとし、未成年者に対して性的指向や性自認に関する情報が提供されていた証拠も得られたと主張している。今回の摘発は、トルコ社会におけるLGBTQ+コミュニティーへの締め付けが強まる中で実施された。
「私の家族は安全です」作戦の全容
司法省が発表した内容によると、今回の作戦は15州で同時展開された。対象となったのはイスタンブール、アンカラ、イズミルといった大都市圏が中心だが、地方州にも捜査の手が及んでいる。アナドル通信の報道では、26人の拘束が確認されている。
検察側は、一部の団体が売春の斡旋(あっせん)やわいせつなコンテンツの配信に関与していたとみて捜査を進めている。さらに、団体の運営資金が海外から流入している実態が把握されたとし、その使途についても調査が行われている。テキン司法大臣は「若者や家族を標的とするいかなる犯罪組織、虐待ネットワーク、違法活動も決して容認しない」と声明で強調した。
LGBTQ+団体の資金源と海外からの支援をめぐる問題
今回の捜査で特に注目されたのが、国外からの資金提供だ。トルコ政府は以前から、LGBTQ+関連団体が海外の支援を受けて国内の社会的価値観を損なっているとの立場を示してきた。アナドル通信が報じたところによれば、検察は「未成年者が性的指向や性自認に関する指導を受けている」とする証拠を入手したとしている。
トルコでは近年、LGBTQ+コミュニティーへの圧力が顕著に高まっている。プライドパレードは2025年も含めて過去数年にわたり禁止され、アドボカシー団体の活動停止命令も相次いでいる。同年7月には、1,900人以上のLGBTQ+観光客を乗せたクルーズ船の入港をトルコとエジプトが拒否。トルコ当局はその理由として「トルコ社会への脅威の可能性」を挙げていた。
73のウェブサイトとSNSアカウントの遮断命令
同時期に、別の動きも進行していた。9月12日付の裁判所命令により、LGBTQ+関連73団体のウェブサイトとソーシャルメディアアカウントが遮断されることとなった。裁判所はその理由を「公序良俗の保護」および「犯罪の予防」としている。この命令はあらかじめ対象となる団体やアカウントを特定した上で発令されており、政府によるLGBTQ+包囲網が捜査と法的手続きの両面から強化されている実態が浮き彫りになった。
トルコのLGBTQ+政策と国際社会の反応
トルコはイスラム圏の国としては比較的世俗的な法体系を持つが、近年のエルドアン政権下では保守的な社会規範への回帰が顕著だ。LGBTQ+の権利に関しては、憲法上の明文の保護はなく、プライドイベントの開催は事実上不可能な状態が続いている。
今回の一連の摘発に対し、国際人権団体は強く非難している。欧州連合(EU)もトルコの司法制度と人権状況について繰り返し懸念を表明してきたが、トルコ政府は「国内の価値観と家族制度の保護」を理由にこうした批判を退けている。
LGBTQ+団体摘発の目的とは
トルコ政府が今回の大規模捜査で掲げた目的は、「若者と家族の保護」である。しかし、批判派はこうした政策の裏に、政権支持基盤である保守層へのアピールと、社会的対立のあおりがあると指摘する。来たる選挙を前に、政府が社会的結束を強調する材料としてLGBTQ+コミュニティーを標的にしている可能性も取り沙汰されている。
今後の展望:トルコ社会の分断と国際的な批判の高まり
今回の摘発は、トルコ国内のLGBTQ+コミュニティーに深刻な萎縮効果をもたらすことは避けられない。団体の活動停止やウェブサイトの遮断は、情報発信の手段を奪うだけでなく、コミュニティー内部のセーフティネットの崩壊につながる懸念がある。
海外からの観光客減少や国際的な批判の高まりは、トルコ経済にとっても看過できない要素だ。特に観光業はトルコの主要産業であり、LGBTQ+コミュニティーへの締め付けが市場に与える影響は無視できない。一方、トルコ政府は内政優先の姿勢を崩しておらず、国際社会との摩擦は今後も続く可能性が高い。
トルコにおけるLGBTQ+をめぐる状況は、国内の政治的ダイナミクスと国際的な人権基準の間で揺れ動いている。今回の大規模摘発が、単年度のキャンペーンで終わるのか、さらなる規制強化の序章となるのか。その行方は、トルコ社会の今後の方向性を占う上でも重要な指標となるだろう。