OpenAIとマイクロソフト(Microsoft)が、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)との著作権訴訟において、内部文書の公開によりWeb全体に「doom loop」を引き起こしていたことが明らかになった。同訴訟で2026年9月に公開された文書には、両社がAIモデルの訓練データとしてWebからコンテンツを収集する行為を「人類史上最大の労働の盗用」と自認し、その結果として「Webを傷つける破滅のループ(doom loop)」に自ら突入したとする衝撃的な内部認識が記録されている。
この文書の中で特に注目を集めたのは、マイクロソフトの応用科学ディレクターであるブレント・ヘクト(Brent Hecht)氏の発言だ。同氏は、OpenAIのChatGPTやマイクロソフトのCopilotがデータを収集する行為を「前例のない規模の驚くべき盗用」と評し、さらに「公正使用(fair use)の概念を完全に嘲笑うものだ」と断じた。また、その規模は「人類史上最大の労働の盗用」に匹敵するとまで述べている。
しかし、マイクロソフトはこれらの主張に対して距離を置いている。広報担当のアレックス・ハウレック(Alex Haurek)氏は、これらの発言は「一人の従業員の個人的見解であり、法的分析ではなく、会社の見解を代表するものではない」とコメント。さらに、マイクロソフトAIのデータ戦略・運用部門ゼネラルマネージャーであるジョーダン・ウスダン(Jordan Usdan)氏は、ヘクト氏の役割を「対立的」と位置づけ、「彼はAIのデータエコシステムに関する非対称的で未来的、学術的な視点を提供するために雇用されており、コンテンツクリエイターに対するAIの潜在的な影響に関する理論的見解について、マイクロソフトを代表して発言する立場ではない」と説明している。
マイクロソフトCEOも認めた「検索の代替」と「 doom loop 」の実態
文書には、マイクロソフトのサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOの証言も含まれている。ナデラ氏は、チャットボットとの対話が「従来のようにWebサイトに直接アクセスする必要をなくし、AIプラットフォーム上で情報を得る」という点で、検索を代替していることを認めた。
さらに強烈なのは、マイクロソフト内部の文書に記された認識だ。「当社のAIコンテンツ戦略は『doom loop』を引き起こし、自社モデルの性能とWeb全体を同時に損なうことになる。最終製品が、その必須サプライヤーの経済的基盤を脅かすという異常な状況を、我々はLLMビジネスにおいて、その『コンテンツサプライチェーン』に対して作り出してしまった」と率直に認めている。
「gazillions(途方もない金)」を動機に、サプライチェーンを破壊
この文書は、OpenAIとマイクロソフトが慈善目的を装いながら、実際は巨万の富を追求していた実態も明らかにした。OpenAIの共同創業者グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)氏は、自らのモチベーションについて「gazillions(とてつもない金額)」を得ることにあると記していた。同社は現在、時価総額1兆ドルを目指すIPOを計画していると報じられている。
OpenAIのポリシーディレクター、ジャック・クラーク(Jack Clark)氏も、自社の活動が「社会の文化を定義する人々の労働を代替するシステム」を生み出していると指摘。内部文書ではChatGPTを「現代の新聞売店」と表現し、OpenAIのチャットGPT責任者(ニック・ターリー氏と推定)は、チャットボットから回答を得た後は「元のソースへのリンクをクリックする理由はない」と発言していた。
ペイウォール無視と著作物の丸ごと出力
文書はさらに、両社が訓練データの収集において、ペイウォール(有料壁)の回避や利用規約違反を意図的に無視していた実態を暴露した。ナデラCEO自身は「ペイウォールで保護されたものはすべてライセンスされるべきだ」と証言した一方で、OpenAIの担当者は訓練データセットからペイウォールコンテンツを検出・除去する「いかなる取り組み」も認識していないと証言した。
また、OpenAIは内部で、GPT-4が「膨大な量のデータを記憶し、その結果、吐き出し(regurgitation)に非常に長けている」と認識していた。2022年6月には、従業員がこの問題を認めていた。実際に、ChatGPTはニューヨーク・タイムズ、マーキュリーニュース、デンバーポスト、ライフハッカー、ユーロゲーマーなどの記事をクエリに対してそのまま出力する例が複数確認されている。
「LLMは自らのサプライチェーンを破壊する製品」
文書の中で最も自己批判的で、かつ本質を突いた認識は、この一言に集約される。マイクロソフトは「LLMは自らのサプライチェーンを破壊する製品である」と認めた。LLMの価値は、その訓練データを提供するのと同じ情報労働の領域に主にあるため、自らのコンテンツサプライチェーンと自然に競合するという構造的欠陥を、両社は認識していたのだ。
AIによるリファラルトラフィックの壊滅的減少
OpenAI自身の専門家も、AIがパブリッシャーにもたらす致命的な影響を分析している。OpenAIの経済専門家であるゴールドファーブ博士は、ニューヨーク・タイムズへのリファラルトラフィック減少の要因として、GoogleのAI Overviewsを挙げた。同博士の分析によると、Google Discoverからの月間リファラルトラフィックは50億件から40億件未満に減少し、Google Searchからのそれは30億件超から20億件強に落ち込んだ。OpenAIのメディア専門家であるシンライク博士は、AI Overviewsの導入により、一部のパブリッシャーでは検索リファラルが20%から60%も減少したと推定している。
こうしたAIによるトラフィックの代替は、もはや理論上の問題ではない。Google Zeroの時代は現実のものとなり、AIがWebを食い潰しているという認識が業界内で広がっている。
「doom loop」は現実のものに
公開された92ページに及ぶ文書の内容を総合すると、OpenAIとマイクロソフトは、自社の行動が出版業界とその従業員、そして最終的には自社製品の基盤そのものを不可逆的に損なうことを知りながら、「gazillions」の追求を優先し、doom loopを認識しつつも邁進したという構図が浮かび上がる。
マイクロソフトのハウレック氏は「ナデラCEOの証言とマイクロソフトの立場は完全に一致している」と釈明するが、公開された内部文書は、両社がWebとパブリッシャーから価値を収奪するビジネスモデルを自覚的に選択していたことを明白に示している。この訴訟の行方は、AI時代における著作権の解釈だけでなく、インターネット全体のエコシステムの持続可能性に直結する重要な審判となるだろう。
このように、OpenAIとマイクロソフトは、Webの「doom loop」、すなわち「最終製品がその必須サプライヤーの経済的基盤を脅かすことで、結果的に自らのモデルの性能とWeb全体を損なう負のスパイラル」を引き起こしたと、自社の内部文書で認定していたことが判明したと言える。