イスラエル軍によるヨルダン川西岸地区でのパレスチナ人の子どもに対する殺害が急増している。昨年10月、イスラエル軍兵士の銃弾により9歳の息子モハメッドさんを失った母親アリア・アル=ハラークさんは、今もなお「5人の母」ではなく「4人の母」と自分に言い聞かせることができない日々を過ごしている。
「まだ、その事実を受け入れられずにいます。家の中庭に座って、下にあるモハメッドの墓を眺めながら、子どもたちに気づかれないように泣くことがよくあります」――。アル=ハラークさんはそう語る。彼女の息子モハメッドさんが命を落としたのは、ヨルダン川西岸地区南部の村アル=リヒヤで、イスラエル軍のパトロールに遭遇し、逃げ出した際のことだったという。
ヨルダン川西岸で子ども被害が相次ぐ背景
今回浮き彫りになったのは、ヨルダン川西岸地区において、パレスチナ人の子どもの死亡事例が近年急増しているという厳しい現実だ。従来、この地域での衝突は主に夜間の逮捕作戦やデモ隊との衝突が中心とされてきたが、最近では通常のパトロール中に子どもが巻き込まれるケースが目立つようになっている。
アル=ハラークさんの自宅は、イスラエル軍の検問所からも近い場所にあり、村の周辺では軍の活動が日常的に行われてきた。住民によれば、モハメッドさんは物怖じせず、パトロールの様子を遠くから眺めることもあったという。しかしその日は、兵士たちの接近に恐怖を感じ、走って逃げた際に銃撃を受けたとみられている。
日常化する武力行使とパレスチナ社会の深い傷
この事件は、単なる偶発的な悲劇ではない。ヨルダン川西岸地区ではここ数年、イスラエル軍の即応態勢が強化され、パトロール活動もより広範囲に及んでいる。これに伴い、民間人との偶発的な接触や緊張状態が増加。特に、投石などを行った若者に対する実弾での対応が常態化しているとの指摘もある。
国際法上、子どもを含む民間人は戦闘行為に直接参加しない限り、攻撃の対象としてはならない。しかし、現地では「危険を感じた」という兵士側の主張が優先され、発砲の是非が厳格に検証されないまま事例が積み重なっているのが実情だ。
「4人の母」として――喪失と日常の狭間で
アル=ハラークさんは、息子の死後も生活を続けるために、心の整理の仕方を模索している。彼女は「自分を“4人の母”と呼んでしまうことがある。でも、それは間違いだと気づく。モハメッドは確かに存在して、私の子どもだったのだから」と語る。
彼女が庭から眺める墓は、日常と非日常が隣り合わせにあるヨルダン川西岸地区の現実を象徴している。子どもたちは学校に通い、家族と食事をし、遊びながらも、いつどこで軍と遭遇するかわからない環境に置かれているのだ。
国際社会の対応と今後の行方
こうした事態を受け、国際人権団体はイスラエル軍に対し、実弾使用の基準を明確にすることや、子どもを標的とした暴力を全面的に停止するよう求めている。しかし、同地域の安全保障を最優先とするイスラエル政府の姿勢に変化の兆しは見えておらず、パレスチナ側の不満は一層強まっている。
ユニセフ(国際連合児童基金)などの国際機関も、ヨルダン川西岸地区で子どもたちが巻き込まれる暴力が増加傾向にあると警鐘を鳴らしており、和平プロセスの停滞が、最も脆弱な立場にある子どもたちにしわ寄せされている構図が浮き彫りになっている。
アル=ハラークさんの悲痛な証言は、統計的な数字では決して伝わらない、紛争下における家族の喪失感の深さを私たちに突きつける。和平への展望が立たない中、子どもたちの生命を守るための具体的な国際的圧力が、これまで以上に強く求められている。