ニューヨーク州知事、AIは「悪を少なく」と表明

ホークル知事がAIの光と影を語り、データセンター規制と雇用保護の必要性を強調。

投稿者 central
ホークル知事、AIの可能性と社会的責任のバランスを訴える。
ハイライト
  • ホークル知事はAIの可能性を評価しつつ、データセンターの地域負担を批判。
  • 州政府はAIで規制棚卸しを1カ月で完了し、50件の改革を実行。
  • 知事はベツレヘム・スチールの事例を挙げ、技術変化の犠牲を地域に押し付けるなと警告。

ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が、AIとデータセンターをめぐる州政府の方針について、重要なメッセージを発信した。「AIは必要だが、その負の側面を社会が受け入れる必要はない。悪を少なくすることが政治の役目だ」——。テック政策を専門に扱うポッドキャスト『Decoder』(The Verge)に出演し、SNS規制、3Dプリンター銃、監視カメラ、データセンター建設の一時停止など、選挙戦の真っただ中で先鋭化するテクノロジー政策の現在地を、自身の言葉で詳しく語っている。

注目すべきは、ホークル知事が単なる「規制強化派」ではないという点だ。AIの可能性そのものは高く評価し、州政府の業務効率化にAIを活用した実績を強調する。その一方で、次世代を担う若者を守るためにSNS企業との厳しい交渉を続け、地域社会を守るためにデータセンター建設にブレーキをかける。テクノロジーの「光と影」を冷静に見極めながら、選挙対策ではなく現実的な政策として規制を実行している姿勢が浮き彫りになった。

ホークル知事が見せるAIへの複雑なスタンス

ホークル知事は、AIを否定的に捉えていない。むしろ、その可能性を積極的に評価する一人だ。州政府の膨大な規則や規制をAIで棚卸しした実績を紹介し、「人間なら5年から10年かかる作業を、1カ月で数千件の提言にまとめた」と説明。すでに最初の50件を実行に移し、ニューヨーク州の企業と個人にとって不要な書類手続きを大幅に削減したという。

しかし、その一方で、データセンターを「人々の不安の物理的な具現化」と表現し、テック企業に対してより責任ある行動を求めている。

「AIは必要な力だ。だが、データセンターが地域社会に与える負担は無視できない。電力を大量に消費し、騒音をまき散らし、農地を埋め尽くす。企業はもう少し賢く、次世代のデータセンターを設計すべきだ」

ホークル知事はさらに、AIが引き起こす雇用の喪失についても言及。「失業した人々が私のオフィスを訪れた。彼らは『AIのせいで仕事を失った』と話す。これは株主向けのメッセージかもしれないが、それで人生を壊された人々がいる」と語り、テック企業のレイオフ姿勢を厳しく批判した。特に、AIによって仕事を失う可能性が高い職種の81%が女性によって占められているという指摘があり、女性の経済的自立に対する影響の大きさを懸念している。

Metaとの和解が示すSNS規制の新段階

今回の対談で最も大きなトピックのひとつが、青少年のSNS利用をめぐるニューヨーク州の規制と、Metaとの和解だ。Metaは、ニューヨーク州を含む47州との間で、ティーンエイジャーのプラットフォーム利用を制限する内容の和解に合意している。

具体的には、18歳未満のユーザーに対する深夜0時から午前6時までの通知の禁止、若年層に対する「やみつきになるアルゴリズム」の提供停止、AIチャットボットへのアクセス制限などが含まれる。ホークル知事は「私たちはすでに、Metaが合意した内容よりもさらに厳しい州法を持っている」と主張し、第一修正(表現の自由)との関係についても自信を示した。

「夜中に13歳の子どもを起こし続ける通知が、表現の自由を侵害するのか? 違う。私たちは若者のメンタルヘルスを壊す企業から彼らを守る責任がある。それは、かつてタバコ会社が若者を依存症にしようとした構図と何ら変わらない」

ホークル知事は、ニューヨーク州が全米で初めて実施した学校でのスマートフォン全面禁止の成果にも触れた。今年5月の調査では、対象校の75%から80%が肯定的な評価をしており、「生徒たちは休み時間にカードゲームやチェスを楽しみ、友達と直接会話するようになった。子どもたちは再び子どもらしさを取り戻している」と述べた。

年齢確認がもたらす「匿名性」の喪失問題

一方で、同席したNilay Patel氏(The Verge編集長)は、こうした規制の副作用として、成人も含めた年齢確認(ID提示)がインターネット上の匿名性を事実上奪う可能性を指摘。これに対しホークル知事ははっきりとした回答を避けたものの、Metaが和解を受け入れた事実を挙げ、「企業は利益のためにユーザーを繋ぎ止めたい。それでも規制を受け入れたのは、問題を認めたからだ」と反論した。このやり取りからは、規制の実効性と市民の自由のバランスをどう取るかという、SNS規制の核心的な難しさが改めて浮き彫りになっている。

「ホークル化」と3Dプリンター銃のいたちごっこ

もうひとつの主要論点は、3Dプリンターを使った銃器製造規制だ。ニューヨーク州は、3Dプリンターで銃の部品を製造することを禁止しているが、3Dプリント銃の先駆者であるコディ・ウィルソン氏は、ファイルのハッシュ値を操作して規制を回避するツールを公開。これを「ホークル化」と呼び、規制の実効性に挑戦状を叩きつけている。

ホークル知事はこの挑発に真っ向から応じ、「コディに伝えてください。次は私が先手を打つと。誰かが意図的に法律を妨害しようとするなら、私が追い越すだけだ」と語った。さらに「精神的な問題を抱えた人がキッチンテーブルで銃を作り、学校で子どもを撃つようなことが許されてはならない。これは規制ではなく、市民を守るための予防措置だ」と強調した。

弁護士でもあるホークル知事は、規制と技術のいたちごっこを認識しつつも、「これは個人の自由と安全のどちらを優先するかという政治的な判断だ。私は規制を繰り返し改善し、何度でも対応する」と述べ、長期的に対抗する構えだ。

「監視の全面化」は民主主義への脅威か

さらに、自動ナンバープレート読み取りカメラを製造する「Flock」などの監視技術についても議論が展開された。ホークル知事は、州政府がFlockと直接契約しているわけではないと説明しつつ、警察への助成金が監視機器に利用される可能性を認めた。

その上で、「AIや機械が自動的に情報を移民税関捜査局(ICE)など他の機関に送るような運用は、ニューヨーク州では望んでいない」と明言。Flock CEOが規制プロセスへの信頼が間違っていたと認めたことについても、「情報は必ず人の目で確認されるべきだ。大量監視による市民の不安は、自由社会の基盤を蝕む。私はビッグブラザーを望んでいない」と述べた。

超党派で広がる「データセンター」への反発

ホークル知事が2026年7月に署名した、大規模データセンター建設の1年間モラトリアム(停止)は、全米で議論を巻き起こしている。テキサス州も同様の措置を検討するなど、州を越えて超党派の支持が広がっている点が特徴的だ。

この潮流について、ホークル知事は「これは共和党でも民主党でもない問題だ。アメリカ人の共通の関心事になりつつある」と指摘。特に、地元コミュニティがデータセンターと交渉する際に、大企業との力関係に圧倒される実情を憂慮する。

「小さな町のパートタイム市長が、億万長者のテック企業と対等に交渉できるわけがない。私が知る限り、データセンターの税制優遇がなければ、農家や小規模事業者を苦しめる必要はない。企業はより小さく、静かで、効率的な設計をすべきだ。そのために私はコミュニティ投資の枠組みを研究している」

州の試算では、データセンター5件の電力消費量は、原子炉1基分に相当するという。電源確保の観点からも、無制限な建設を受け入れるわけにはいかない事情が見えてくる。

「AIは悪を少なくできる」——知事の政治信条

「AIは本当に良いものなのか?」という究極の問いに対し、ホークル知事は現実主義的な回答を示した。AIが「悪」であることを認めつつも、それを最小化し、社会の利益に変換することが政治の役割だと強調したのである。

「私はAIを否定したことはない。州政府の規則をAIで棚卸しし、コスト削減と効率化を実現してきた。重要なのは、AIを活用する技術者だけが利益を得る構造を変えることだ。人々の仕事を奪い、地域社会を破壊する形でのAI普及は、許されない。私は企業が何でもやりたい放題できる社会を拒否する。もっと賢く、もっと人間の生活を豊かにするAIの使い方を、私たちは模索すべきだ」

ホークル知事は、ソーシャルメディアやデータセンターを、かつて自身が経験したバッファローの製鉄所閉鎖と重ね合わせる。「1982年、ベツレヘム・スチールは何の説明もなく町を去った。2万人の雇用が一夜にして消えた。私はその経験から学んだ。技術の変化は必然だが、その犠牲を地域住民に押し付けるのは、政治の失敗だ」と語り、テクノロジーの変化と雇用喪失の歴史的な教訓を踏まえた規制の必要性を訴えた。

今後の焦点:モラトリアム明けと全米政治の再編

データセンター建設のモラトリアムは1年間で失効する。ホークル知事は、それまでの間に、電力消費・騒音・税制優遇・地域貢献などについて具体的な企業側のコミットメントを引き出したい考えだ。さらに、将来の技術変化(宇宙空間でのデータセンターや小型モジュール原子炉など)を見据え、柔軟に対応できる制度的枠組みを構築したいとしている。

「企業はAIを広めたいなら、自らの社会的責任を証明すべきだ。政府が規制で先回りし、企業が技術で先回りする。その緊張関係こそが、健全なテクノロジー社会の姿だ」——。ホークル知事は、選挙戦略ではなく、公共の利益を守るための現実的な規制として、テクノロジー政策を語り続けている。この発言が、AI時代の規制をめぐる全米の議論を再定義することになるかもしれない。

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