米ペンシルベニア州立大学の研究チームは現地時間7月13日、皮膚に直接塗って電極として機能する導電性インクを開発したと発表した。このインクは絵の具のように肌に自由なデザインを描くことができ、乾燥後は脳波計(EEG)や心電計(ECG)、筋電計(EMG)などのウェアラブル機器の電極として使用できる。研究成果は同日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。開発チームは米国で仮特許出願も済ませている。
従来、医療現場で使用される電極は金属製やハイドロゲル製が主流だが、体を動かした際や長時間の装着時、汗ばんだ肌や毛の多い部位ではズレや剥がれが生じやすいという課題があった。今回開発されたタトゥー型電極は、これらの問題を根本的に解決する可能性を秘めている。
導電性インクとは。簡単に言えば、水性溶液にポリマーと酸性の添加剤を混ぜたもので、塗布前は透明でのり状の粘度を持つ。食用色素で着色可能なため、キツネやサメといった好みの絵柄を肌に描くことができる。乾燥時間は10分以内で、必要に応じて洗い流して塗り直すことも可能だ。この特性により、特に子どもへの応用が期待される。好きなキャラクターや動物のタトゥーがそのまま電極になることで、医療機器の装着に対する抵抗感を大幅に軽減できるからだ。
導電性インクと銀繊維が生み出すウェアラブル測定の仕組み
インクとセンサーをつなぐのは、接続電極を備えた多孔質の銀繊維である。描いたタトゥーが乾く前にこの繊維を重ねると、肌に自然と密着する。この銀繊維をウェアラブル型測定機器のポートに接続し、機器本体は衣服の下の肌にテープで固定する。インクが捉えた生体電気信号は銀繊維を通じて測定機器に送られ、そこからBluetooth経由でコンピューターに転送される仕組みだ。
論文の責任著者であるペンシルベニア州立大学のラリー・チェン教授は、将来的な活用イメージとして「高価なセンサーモジュールは本体側に残したまま、電極部分だけを使い捨てにする形が考えられる。インク1本あれば、数日から1週間にわたり複数の電極を描ける」と説明する。
肌に直接塗布する方式は、貼り付け型センサーと異なり肌との間に隙間が生じない。その結果、耐久性と測定精度の面でも有利だ。銀繊維は多孔質で、接続電極は元のサイズの150%以上に伸縮する。汗は繊維を通り抜けるため、密着性や精度、装着感を損なわない設計となっている。
12時間の心電図測定とロボットハンド操作に成功
実験では、描いた電極が最長12時間にわたって心電図の信号を記録し続け、運動中も剥がれることはなかった。また、チームメンバーの前腕に塗布した電極では、筋電計で筋肉の信号を読み取り、ロボットハンドの遠隔操作にも成功している。電極は洗い流して塗り直せるため、12時間という数値が使用時間の上限というわけではない。
研究チームは、このタトゥー電極が心臓発作の早期発見や脳波測定、ロボット義手の操作など幅広い医療分野に貢献すると見込む。さらに将来的には、ストレスホルモンのコルチゾールや血糖値を追跡するセンサーへの応用も視野に入っている。小児科医をはじめとする医療現場向けの商用化に加え、環境中の化学物質が植物の健康に与える影響を通知する「スマート植物」への展開も検討中だ。
健康記録を担うスマートウォッチやスマートリングが日常の風景となった現在、タトゥーを付けたまま病院を出てくる姿が当たり前になる日が訪れるのも、そう遠くないかもしれない。この技術は、身体に触れる医療機器の概念を大きく塗り替える可能性を秘めている。