暗号資産(仮想通貨)市場で長期的なリターンを得るには、年間を通じて最も上昇率の高いわずか10日間の値動きを捉えることが極めて重要だ――。世界最大のイーサリアム(ETH)財務企業であるBitMineのトム・リー会長は、過去10年以上の市場データに基づき、このような見解を示した。同氏によれば、この「奇跡の10日間」を逃してしまうと、年間リターンはマイナスに転落する可能性が高いという。
年間リターンを左右する「上昇率の高い10日間」
トム・リー氏が指摘するのは、暗号資産市場において値動きが極端に偏っているという現実だ。年間の取引日250日のうち、最もパフォーマンスの良かった10日間を逃した場合、その年のトータルリターンはマイナスになる。これは過去10年以上にわたって確認されてきた傾向であり、相場の本質的な特徴と言える。
この現象が投資家にもたらす示唆は明確だ。底値を正確に見極めようとしてキャッシュポジションを維持している間に、年間の利益を生み出す急騰を逃すリスクが常に存在する。タイミングを計るよりも、一定のポジションを継続して保有することが、結果的に高いリターンを獲得する確率を高めるというのがリー氏の主張である。
直近の市場急騰が示す「底値待ち」のリスク
具体的な事例として、リー氏は8月中旬以降のイーサリアム(ETH)の値動きを挙げている。ETHは約1,900ドルから一時2,600ドル付近まで急騰。この短期間で暗号資産市場全体の時価総額は約5,000億ドル増加した。同時に大規模なショートポジションの清算が発生し、下落を見込んでいた投資家の買い戻しが上昇をさらに加速させる展開となった。
底値を待ち続ける戦略を取っていた投資家は、この上昇局面を完全に逃したことになる。リー氏は、市場から一時的に離れることが、長期投資家にとって最大の機会損失を生む要因になると警告する。
ファンダメンタルズ改善を反映した「軌道修正」
リー氏は直近の上昇について、ファンダメンタルズの改善を価格が反映し始めた「軌道修正」と表現する。過去の低迷期には、企業の撤退や資金流入の減少、暗号資産の用途縮小が相次いだが、現状は状況が大きく異なる。特に注目されるのが、金融資産のトークン化の流れだ。
大手金融機関によるブロックチェーン活用が加速する中、株式や債券などをデジタル化する基盤としてイーサリアムが利用されている。Robinhood ChainやCoinbaseのBaseといったイーサリアムのレイヤー2上で、トークン化資産を扱う動きも本格化している。こうした需要の拡大が、価格上昇の背景にあるとリー氏は分析する。
AIエージェントの普及がもたらす新たな需要
リー氏が強気の見通しを支えるもう一つの柱が、AIエージェントの拡大だ。将来的にAIエージェント同士が少額かつ高頻度の取引を行うようになれば、即時決済やスマートコントラクトに対応した暗号資産のインフラが不可欠になると同氏は予想する。具体的には、エージェント間のマイクロトランザクションの決済手段として、イーサリアムやステーブルコインなどの暗号資産が利用される可能性が高いという。
このAI関連の需要に加え、トークン化の進展による需要も、現在のETH価格には十分に織り込まれていない。リー氏は、市場がこれらの構造的な変化をまだ適切に評価できていないと指摘する。
BitMineの戦略と今後の市場見通し
BitMineは現在、140億ドル相当を超えるETHを取得しており、最終的にはイーサリアム総供給量の5%を保有する目標を掲げている。これは同社の強気の確信の表れであり、長期的な価値向上を見据えた戦略的な判断と言える。
トム・リー氏の分析が示すように、暗号資産市場では短期的な値動きに一喜一憂するよりも、構造的な需要変化を捉えた長期視点の投資が重要になる。上昇率の高い10日間を逃さないためにも、市場から距離を置くリスクを認識し、継続的なポジションの維持が求められる。