暗号資産(仮想通貨)市場に新たな波紋が広がっています。米資産運用大手Grayscaleがイーサリアム(ETH)とソラナ(SOL)のステーキングETFについて、得られた報酬を現金化して四半期ごとに株主へ還元する方針を7月17日付のSEC提出書類で明らかにしました。運用開始は8月7日前後とみられる一方で、肝心の利回りの原資となる両ネットワークのプロトコルそのものに、報酬を削減する提案が浮上しています。この動きは、投資家に分配されるリターンと、ネットワークの経済設計の長期的な持続可能性の間で、深刻なトレードオフを生じさせる可能性をはらんでいます。
Grayscaleが示したステーキングETFの報酬体系
GrayscaleがSECに提出した書類によれば、同社が運用するイーサリアムおよびソラナのステーキングETFでは、バリデーター(検証者)として参加することで得られるステーキング報酬を、定期的に現金化した上で投資家に分配する仕組みを採用します。具体的には、報酬を四半期ごとに集計し、株主へ還元する方針で、これによりETF投資家は仮想通貨を直接保有することなく、ステーキングによる収益を受け取ることが可能になります。このファンドの運用開始は8月7日前後とされていますが、まさにそのタイミングと並行して、報酬の源泉そのものを縮小しようとする動きが両チェーンで活発化しているのです。
ソラナの提案「SIMD-0550」——インフレ率倍増と利回り低下
ソラナのエコシステムでは、「SIMD-0550」という提案が注目を集めています。この提案の核心は、年間のディスインフレ率を現在の15%から30%へと倍増させるというものです。ディスインフレ率とは、時間経過とともにインフレ率(新規発行率)が低下していく速度を指します。この率を引き上げることで、新規発行量の減少ペースが加速し、結果としてネットワーク全体のインフレ率がより速やかに低下します。
具体的な試算を見てみましょう。現在のステーキング利回りは約5.84%ですが、SIMD-0550が実装された場合、この利回りは約3年後には2.25%まで低下すると見込まれています。発行量の削減効果は顕著で、6年間で累計1890万SOLの発行が抑制される計算です。これは現在のSOL価格に換算すると、約14億7000万ドル(約2100億円)もの規模に相当します。この提案が承認されれば、ETFを通じて間接的にSOLを保有する投資家が受け取る分配金は、中期的に大幅に目減りすることになります。
イーサリアムの「EIP-8363」——ステーキング比率に応じた報酬焼却
一方、イーサリアムにおいても同様の議論が進行中です。8月初旬に草案が公開された「EIP-8363」は、より段階的かつ動的なアプローチを採用しています。この提案の仕組みは、ネットワーク全体のETHのステーキング比率が上昇するにつれて、バリデーターへの報酬から差し引かれ、焼却(バーン)される割合を高めていくというものです。極めて重要なのは、供給量の約半分にあたるETHがステーキングされた時点で、バリデーターへの報酬が全額焼却されるという点です。
提案者の一人は、このような改革が行われなければ、2028年1月までに7000万ETH以上がステーキングされる可能性があると警鐘を鳴らしています。これは供給量の過半数を超える水準であり、流動性の低下やネットワークの中央集権化リスクを高めかねません。EIP-8363は、過度なステーキングを抑制し、ETHの流動性を確保すると同時に、報酬発行の持続可能性を高めることを目的としています。
発行量減少がもたらす二面性——希少性か、利回りか
これらの提案に共通するのは、ネイティブトークンの新規発行量を減らし、インフレ圧力を抑制するという設計思想です。発行量の減少は、ステーキングに参加しないトークン保有者にとっては、自身の保有分が希薄化される割合が低下するという明確なメリットがあります。長期的に見れば、トークンの希少性が高まり、価格の上昇要因となる可能性も指摘されています。
しかし、その裏返しとして、ステーキング報酬、ひいてはETF投資家への分配額は減少します。特に小規模なバリデーターにとっては、運営コストを賄うための報酬が減少し、ネットワークへの参加を続けることが採算面で難しくなる可能性があります。これはネットワークの分散性を損なうリスクもはらんでいます。
現在、市場は「希少性の向上」と「利回りの低下」のどちらをより高く評価するか、難しい判断を迫られています。両ネットワークは、このバランスを取る上で、まさに賭けに出ていると言えるでしょう。特にGrayscaleのETFのような伝統的な金融商品を通じて流入する新たな投資家層は、高い利回りを期待して参加する可能性が高く、報酬削減は彼らの期待を裏切る結果になりかねません。
ステーキングETFの将来と市場への影響
GrayscaleのETFは、規制当局の承認を得た初めてのステーキング型商品の一つとして、暗号資産市場と伝統的金融市場の接点として重要な役割を果たすことが期待されています。しかし、報酬の原資となるプロトコル自体の設計が変更されれば、この商品の魅力は大きく変わります。
投資家は、単にトークン価格の値上がり益だけでなく、「ステーキング利回り」というインカムゲインを期待してこれらのETFに投資するからです。もし利回りが長期にわたって低下することが明確になれば、ETFの需要そのものに影響を与える可能性があります。一方で、供給量の減少がトークン価格の上昇を招き、トータルリターンで見た場合に投資家にとって好ましい結果をもたらす可能性も否定できません。
市場参加者は、これから数ヶ月の間に、両ネットワークのガバナンスコミュニティがこれらの提案をどのように議論し、最終的に採択するのかを注視する必要があります。そして、その決定がもたらす影響は、イーサリアムとソラナのエコシステムに留まらず、ステーキング報酬を組み込んだ金融商品全体の設計思想や、ひいてはプルーフ・オブ・ステーク(PoS)を採用する他のブロックチェーンにも波及するでしょう。ソラナとイーサリアムの選択は、今後の暗号資産エコノミーの方向性を決める重要な試金石となります。