ブラックロックが運用するビットコイン現物ETF「iShares Bitcoin Trust(IBIT)」の設定来リターンが、2026年8月31日時点で米国株の代表的指数であるS&P500に連動するETFをわずかに上回った。分配金再投資ベースで比較すると、IBITのトータルリターンは67.74%に達し、バンガードのVOOが記録した66.14%を1.60ポイント上回る結果となった。しかし、同じリターンを達成するまでの道のりは全く異なるものだった。IBITの最大ドローダウンは53.30%と、VOOの18.69%の約3倍に達し、投資家が耐えるべき時間と値幅に大きな開きがあったことが明らかになった。
ブルームバーグのETFアナリスト、エリック・バルチュナス氏はこの状況を、IBITを「絶叫マシン」、VOOを「公園の散歩」に例えた。この比喩は、同じ投資リターンを得るために投資家が経験する心理的負荷の違いを如実に表している。日本においても、仮想通貨(暗号資産)を金融商品取引法の下で規制する制度改正が進み、ETF解禁に向けた環境が整いつつある中で、このデータが持つ意味は大きい。
IBITのリターンは67.74%、VOOを上回るも道のりは過酷
2024年1月11日に米国で現物ビットコインETFが上場してから2026年8月31日までの期間を振り返ると、両者のパフォーマンスは対照的だ。IBITは上場時、ビットコイン価格が4万7000ドル前後だったところから、2025年には約12万6000ドルの史上最高値を記録。その後、約5万8000ドルまで下落し、現在は7万7000ドル前後で推移している。このジェットコースターのような値動きの結果、上昇相場で築いた優位の大半が往復ビンタで失われた。一方、VOOの最大下落は2025年2月19日から4月8日にかけての18.69%にとどまった。
また、運用資産規模にも大きな差が出ている。IBITの運用資産は約600億ドルだが、VOOは2026年6月にETFとして初めて純資産1兆ドルを突破し、その差は約17倍に開いている。この数字は、投資家の資金がより安定した資産へと流れる傾向を示していると言える。
日本で進む暗号資産ETF解禁への道筋
このデータが日本にとって特に重要なのは、国内の制度整備が動き出しているからだ。仮想通貨の規制を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正法は2026年7月15日に成立。公布から1年以内の施行が見込まれており、2027年中には新しい規制枠組みがスタートする可能性が高い。これにより、日本でも暗号資産ETFの解禁に向けた環境が整うことになる。
税制面でも、一律20%の申告分離課税への移行を盛り込んだ改正所得税法が同年3月31日に成立。新税率の適用は施行日の翌年1月1日からで、2028年1月開始が見込まれている。証券各社も準備を加速させており、SBI証券と楽天証券が販売方針を表明。野村証券や大和証券もグループ内で商品開発を進める考えを示しており、国内の口座開設数はすでに1400万を超えている。
投資家が最初にチェックする「設定来リターン」の落とし穴
制度が整い、証券口座から株式と同じ画面で暗号資産ETFが購入できるようになったとき、多くの投資家はまず「設定来リターン」を確認するだろう。IBITの67.74%という数字は確かに魅力的に見える。しかし、この事例が示すのは、同じような累積リターンでも、その途中で半値以下まで下落する局面に耐える必要があったという厳しい現実だ。
ブラックロック自身、分散投資の目的でビットコインETFのポートフォリオ配分を2%と推奨しているが、これは値動きの大きさを織り込んだ上での数字である。金融庁の資料によれば、国内の投資経験者の間で暗号資産の保有率はFX取引や社債を上回る状況にある。制度の受け皿は確実に整いつつあるが、投資家が本当に確認すべきは「上がるかどうか」ではなく、「下がったときに何%まで耐えられるか」という点だと言えるだろう。
同じリターンでも、耐えた時間と負荷が違うという教訓
IBITとVOOを比較したこのデータは、投資の本質を改めて問い直させる。リターンだけを見れば、たしかにIBITはS&P500を上回った。しかし、その過程で投資家が経験する最大下落率は3倍近くも異なり、心理的な負荷は比べ物にならない。投資の世界では、リターンとリスクは表裏一体であり、どれだけの時間、どれだけの値幅に耐えられるかが、最終的な成果を左右する。
日本で暗号資産ETFが解禁されたとき、投資家はこのIBITの事例を一つの道標として、自らのリスク許容度を冷静に見極める必要がある。リターンに惑わされず、自分の投資スタイルに合った商品を選ぶことが、長期的な資産形成の鍵となる。