米EPA、データセンターの大気汚染を非公開化へ

米EPAがデータセンターなどの公衆参加要件を撤廃する方針を発表し、環境団体が強く批判しています。

投稿者 central
データセンター建設加速のため、EPAが住民参加の機会を削減する規制緩和を提案。
ハイライト
  • EPAは1970年代から続くニューソースレビューの公衆参加要件を撤廃する方針だ。
  • データセンターの急増に伴い、地域社会と環境への影響が懸念されている。
  • 環境団体はこの変更をAIインフラ整備を優先する政権の姿勢と批判している。

米国環境保護庁(EPA)は2025年7月、特定の産業施設が大気汚染許可を申請する際に義務づけられている連邦レベルの「公衆参加要件」を撤廃する方針を発表した。この変更は、データセンターや発電所などいわゆる「Minor Source(小規模排出源)」を対象としており、地域住民への事前通知や意見提出の機会を実質的に奪うものだ。生成AIの急拡大に伴い、全米各地でデータセンター建設への反対運動が高まる中、EPAのこの規制緩和は、AIインフラの急速な整備を優先する姿勢の現れとみなされている。

1970年代から続く「ニューソースレビュー」とは何か

今回EPAが変更を提案しているのは、「ニューソースレビュー(New Source Review:新規発生源審査)」と呼ばれる許可プロセスである。これは1970年代の大気浄化法に基づき、新たに建設される工場や既存施設の大規模な改修が大気質に与える影響を事前に評価するための制度だ。対象となる施設は、埋立地や製紙工場、発電所の増設など多岐にわたり、近年ではデータセンターもその範疇に加わっている。このプロセスでは、事業者が許可を申請する際に、地域住民への公衆通知と意見公募(パブリックコメント)を行うことが連邦規則として義務づけられていた。

EPAの提案が意味するもの——「非公開」への転換

EPAが廃止を提案したのは、上記の連邦規則に定められた公衆参加要件である。今後は、各州や地方の大気質管理局が、新たな汚染源について住民に通知するかどうかを個別に判断することになる。EPAのリー・ゼルディン長官は声明で、「決定はワシントンではなく、問題や住民に最も近い州・地方自治体が行うべきだ。不必要な官僚的な規制を削減する」と述べている。しかし、環境保護団体はこの変更を、データセンターの建設を「密かに」進めるための口実だと強く批判している。

「ブルドーザーが来るまで何も知らされない」

サザン・エンバイロメンタル・ローセンター(SELC)の上級弁護士で大気プログラム責任者のケリ・パウエル氏は、「今回のEPAの変更は、データセンター建設を急ぐ政権にとって極めて都合が良い。許可は密室で発行され、住民はブルドーザーが現場に現れるまで何が起きているのか知らされない」と警鐘を鳴らす。

「Minor Source」という誤解——xAIの事例

EPAは今回の変更を「比較的排出量が少なく、環境への影響が限定的な小規模排出源(Minor Source)」に限定している。しかし、批判派はこの分類が実態を反映していないと指摘する。顕著な例が、イーロン・マスク氏が率いるxAIがテネシー州メンフィスに建設した巨大データセンター「Colossus 1」だ。同社はこれを「最も強力なAIトレーニングシステム」と称するが、その建設に際しては「Minor Source」許可を申請。これに対して地元保健当局が公衆通知を出したところ、数千件ものコメントが寄せられ、公聴会も開催された。さらに、SELCと全米黒人地位向上協会(NAACP)は、xAIが許可を得ずにガスタービンを設置したとして訴訟の構えを見せている。

この事例は、「Minor Source」という区分が実質的に大規模な環境影響を伴うデータセンターに対しても適用されうることを示している。EPAの新ルールが施行されれば、同様のプロジェクトが住民の知らないところで許可され、着工されるリスクが格段に高まる。

パブリックコメント終了——200の団体が反対意見

EPAが提案したニューソースレビューに関する規則変更に対し、SELCや環境防衛基金(EDF)を含む約200の健康・環境団体が連名で反対意見書を提出した。意見書の提出期限は先週で、EPAの報道官キャロリン・ホーラン氏によれば、提出されたコメントは4,900件以上に上り、最終規則を確定する前にこれらすべてに対応する必要があるという。

ケンタッキー資源協議会の上級弁護士バイロン・ゲーリー氏は、「EPAの提案は、地域社会の実際の生活体験に基づくデータを意思決定者から奪うものだ。その情報なしに、許可当局が施設の累積的な影響を完全に評価することは不可能である」と述べている。

なぜ今、この変更が「データセンター」を巡って問題なのか

背景にあるのは、生成AIの爆発的な普及だ。AIモデルのトレーニングと推論には膨大な計算リソースが必要であり、そのためのデータセンター建設が全米で急ピッチで進められている。これらの施設は多くの電力を消費し、しばしばその電力を賄うためにガスタービンなどの発電設備を併設する。このことが、新たな大気汚染源として地域社会との摩擦を引き起こしている。

EPAの規制緩和は、こうしたAIインフラ建設を加速させる一方で、環境正義や地域住民の健康を軽視するものだとの批判を招いている。特に、低所得層や有色人種が多く居住する地域にデータセンターが集中する傾向があるため、環境格差を拡大する可能性も指摘されている。

EPAは現在、提出された意見を精査しており、今後の動向が注目される。この決定は、米国のAI競争力と環境保護のバランスをどう取るかという、より大きな政策課題の試金石となるだろう。日本においても、データセンターの地方誘致が進む中、環境アセスメントと住民参加の在り方を再考する上で、この米国の動きは示唆に富んでいる。

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