KDDI、AIで商業施設開発の市場調査を最短1日に短縮

KDDIとJR西日本SC開発がAIで市場調査を1日に短縮する新サービスを発表しました。

投稿者 central
KDDIとJR西日本SC開発が共同開発した業界特化型AIサービス。
ハイライト
  • 従来4カ月かかっていた市場調査を最短1日に短縮するAIサービスです。
  • KDDIの高精度な位置情報データとJR西日本のマーケティングノウハウを融合。
  • 不動産や都市開発分野への応用も視野に入れ、3年間で10億円規模を目指します。

KDDIとJR西日本SC開発は2026年8月20日、商業施設開発における市場調査、分析、戦略立案をAIで一気通貫に支援する新サービス「KDDI Market Compass」を発表しました。KDDIが保有する高精度な位置情報・属性データと、JR西日本SC開発が実店舗運営で培ってきたマーケティングノウハウを組み合わせた業界特化型AIで、従来約4カ月かかっていた調査プロセスを最短1日にまで短縮します。

KDDIは、通信事業者として蓄積したデータ基盤を武器に、AI社会に向けた事業展開を本格化させています。自らを「AIネイティブ社会」の実現に向けたプラットフォーマーと位置づけ、データと業界知見を掛け合わせたサービス開発を推進中です。

「KDDI Market Compass」とは? 最短1日に短縮する業界特化型AI

「KDDI Market Compass」は、KDDIとJR西日本SC開発が共同で開発した、商業施設開発における調査・分析・戦略立案をAIで一気通貫に支援する業界特化型AIサービスです。従来は複数部門や外部調査会社との連携を経て約4カ月を要していたプロセスを、最短1日にまで短縮できます。

サービスはSaaS形式で提供され、ショッピングセンターや複合施設など、床面積が比較的大きい商業施設を主な対象としています。

中核となるのはKDDIの人流データです。スマートフォンユーザーの許諾を得て取得された位置情報は、数分単位かつ狭域メッシュ単位で人流を把握できる鮮度の高いデータ。通信サービス契約情報に基づく性別や年代といった信頼性の高い属性データと組み合わせることで、人々の行動傾向や地域特性を詳細に分析できます。

KDDIは従来から位置情報データ活用サービス「KDDI Location Analyzer」を提供してきましたが、分析に留まらない点が大きく異なります。生成AIとJR西日本SC開発のノウハウを組み合わせ、「お客さまの意思決定支援までを提供できる点がこれまでのサービスとの大きな違い」だとしています。データ分析の先にある「どのような戦略を取るべきか」という経営判断の材料を提示するところまでが、このサービスの射程です。

AIネイティブ社会を見据えるKDDIの戦略——「ビッグデータの5V」が競争力の鍵

KDDIがAI分野に本腰を入れる背景には、社会の変化に対する明確な認識があります。

KDDI ビジネスグロース事業本部 AIインテグレーション事業推進部長の北条裕樹氏は、通信が社会の基盤になったようにAIも社会のあらゆる場面で利用される「AIネイティブ社会」が到来すると指摘。現在のAIは単なる業務支援ツールから、自律的に行動・判断するエージェンティックAIやフィジカルAIへと進化しており、企業にはAIを導入するだけでなく、活用できる環境の整備が重要になると説明しています。

さらに、AIモデルの価値が高まる中で競争力を左右するのは「どのようなデータを持っているか」だと北条氏は言います。重要なのは量だけでなく、種類、鮮度、正確性、価値というビッグデータの5V。この観点で見たとき、KDDIは許諾ベースで取得された鮮度の高い位置情報データと、契約情報に基づく正確な属性データを保有しており、AI時代のデータ基盤として強みを持つというわけです。

商業施設開発の課題——「ローカライゼーション」とツーサイドプラットフォーム

サービス開発を主導したJR西日本SC開発は、JR西日本グループにおけるショッピングセンターセグメントの統括会社です。全国第2位の売上高を誇る「ルクア大阪」などを直営で経営する事業会社でもあります。

同社の舟本恵氏は、ショッピングセンターを取り巻くマーケティング環境が大きく変化していると指摘します。スマートフォンの普及によって生活者のニーズは急速に細分化・多様化し、ECモールのようなデジタル空間であればパーソナライゼーションがしやすい一方、物理的制約のある実店舗ではそれが難しいという課題がありました。

そこでJR西日本SC開発が目指したのが、マスマーケティングとパーソナライゼーションの中間に位置する「ローカライゼーション」です。施設が商圏とする地域の生活者を深く理解し、その地域に最適な価値を提供する。地域のニーズを最大公約数的に束ね、限られた床面積やテナント数の中で最も価値の高い形に編集していくという考え方です。

この実現に不可欠なのが顧客起点マーケティングです。従来の商業施設開発では開発会社がテナントを介して顧客を理解することが多かったのですが、現代においては開発会社自らが地域生活者を直接理解する必要があります。舟本氏は、ショッピングセンターは単純な場所貸しではなく、生活者とテナントの双方を理解して両者の価値をつなぐツーサイドプラットフォームの役割を果たすべきだと述べています。

具体的な実例が、大阪駅西口に開発した「バルチカ03」です。市場の定義、顧客理解と仮説構築、戦略への翻訳という3段階、細分化すると9段階に及ぶプロセスを経て設計されました。調査・分析を行い、レポートにまとめて社内で合意形成を図るまでには専門的な知見と相当な時間・費用が必要で、「バルチカ03では一連のプロセスに5カ月以上を要した」といいます。生活者のニーズが早いサイクルで変化する中、市場調査にこれだけの時間をかけることは大きな経営課題でした。

9段階のマーケティングプロセスをAI化、100人分のペルソナも自動生成

KDDI Market Compassは、JR西日本SC開発が確立した9段階のマーケティングプロセスをAIサービスへ移植したものです。ユーザーが目指すゴールと施設の条件を入力すると、AIがKDDIの位置情報データを用いて実際の人流に基づく商圏を自動分析します。競合設定についても、エリアや業態に応じて競合候補を自動抽出するため、抜け漏れを防げます。

特筆すべきは、商圏データから想定来訪者のペルソナを100人分自動生成できる機能です。KDDIのデータアーキテクトグループに所属する佐々木黄菜氏は「データだけでなく、消費者のインサイトも分析に取り込める。生成されたペルソナに対する仮想インタビューを実施し、その結果を可視化することで、定量データだけでは見えにくい潜在ニーズや行動特性を把握できる」とアピールします。属性情報だけでは捉えきれない、生活者の心理や行動の背景にまで踏み込んだ分析が可能になるということです。

分析結果を踏まえ、AIは「どのターゲット層を狙うべきか」「どのような施設コンセプトやテナント構成が有効か」といった出店・リニューアルの戦略仮説を提示します。出力結果はWord形式のレポートとしてダウンロードでき、そのまま社内の意思決定資料として活用可能です。新規開発だけでなく、施設開業後の定点観測やリニューアル検討にも継続的に利用できる設計になっています。

約4カ月→最短1日、コスト60%削減。属人化の解消ももたらす

導入効果は具体的な数字で示されています。従来は複数部門や外部調査会社と連携して約4カ月を要していた市場調査、分析、戦略立案のプロセスが最短1日で実施できるようになり、分析コストは約60%の削減が見込めます。

加えて、専門人材の個人的な経験やスキルに依存していた分析プロセスがAIによって標準化され、属人化の解消と品質の均一化が図られる点も大きなメリットです。高度なマーケティングノウハウを持つ人材が限られている商業施設業界にとって、この標準化は業務効率化を超えた意味を持ちます。

不動産・都市開発へ応用、3年間で累計10億円規模を目指す

KDDIはまず商業施設開発向けに提供を開始しますが、その適用範囲はさらに広がります。北条氏は「不動産開発における市場性評価や、都市開発におけるエリア分析など、地域やエリアの市場性を分析して意思決定を行う幅広い領域に応用できる」と説明。すでに不動産や都市開発領域の企業からも強い関心が寄せられているといいます。

事業目標は、今後3年間で数百IDの獲得、累計で約10億円規模の売り上げです。「このサービスを単なる業務効率化ツールとは考えていない。高額な調査コストが課題となって十分な分析ができなかった地方都市や小規模な施設でも活用できるようになることで、地域活性化や地域コミュニティーの維持への貢献も目指している」と、北条氏は地域社会への波及効果にも期待を寄せます。

KDDIは本サービスを第一弾として、小売り分野や物流分野など、さまざまな業界の実践知とデータ基盤を組み合わせた特定事業特化型AIの開発を進めていく方針です。AIが社会の基盤となる時代に向け、通信事業者が持つデータと現場のノウハウを結びつける動きは、今後さらに加速しそうです。

この記事をシェア