ソニー・ミュージックパブリッシング(Sony Music Publishing)とワーナー・チャペル(Warner Chappell)など、世界的な音楽出版社数社が、AI企業Anthropicとその共同創業者であるDario Amodei氏、Benjamin Mann氏を相手取り、著作権侵害で提訴したことが明らかになった。訴状は現地時間11月21日、アメリカ合衆国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所に提出された。音楽業界とAI開発の対立が、新たな局面を迎えている。
原告側は、Anthropicが「数千もの著作権で保護された楽曲や歌詞を、無許可で大規模にスクレイピング、ダウンロードし、AIモデル『Claude』の学習に使用した」と主張。その行為を「歴史上、最も大規模かつ露骨な知的財産の窃盗の一つ」と断じている。この訴訟は、音楽業界専門メディア『Music Business Worldwide』が最初に報じた。
Anthropic、過去にも巨額の著作権和解——今回の訴訟との違い
Anthropicを巡る著作権訴訟は、今回が初めてではない。2026年1月には、Concord Music GroupやUniversal Music Groupなどが同社を提訴。さらに、複数の作家が著作者人格権を侵害されたとして起こした「Bartz v. Anthropic」訴訟では、Anthropic側に15億ドルの支払いが命じられている。この判決では、AI学習のための著作物利用そのものは合法と認められたものの、違法な手段(海賊行為)でデータを入手した点が問題視された。
今回の訴訟は、これらの先行事例を踏まえた上で、さらに踏み込んだ内容となっている。特に、Anthropicが歌詞や楽譜を含む書籍を、違法なBitTorrentを介して数百万部も入手した「悪質な著作権侵害」を具体的に非難している点が特徴だ。これは、単なるデータ収集の手法を超え、組織的な海賊行為の疑いを浮き彫りにしている。
訴訟の核心——「Claude」学習データと違法ダウンロードの実態
訴状によれば、AnthropicはAIモデル「Claude」の学習データセットを構築するにあたり、著作権で保護された膨大な歌詞や楽譜を、権利者への許諾や支払いなしに収集した。問題の核心は、その収集方法にある。原告側は、Anthropicが大規模なテキストデータセットを収集するために、一般に「海賊版」として知られる torrentファイルを活用していたと主張。これにより、著作権者の許可を得ることなく、数百万もの楽曲データを不法に入手したとされる。
この行為について、原告側の代理人は「Anthropicは、利益を得るために、クリエイターの作品を組織的に盗み出している」と強く非難。音楽出版社各社は、Anthropicに対し、損害賠償とともに、Claudeの学習データから著作権物を削除するよう求めている。
音楽業界の怒り——AI時代の「表現の自由」か「財産権の侵害」か
生成AIの急速な発展に伴い、学習データとしての著作物の扱いは、世界中で法的な議論を呼んでいる。特に音楽業界は、AIがアーティストのスタイルを模倣したり、歌詞を無断生成したりする事例が相次いだことから、警戒を強めている。今回の訴訟は、単なる権利保護の枠を超え、AI企業とコンテンツホルダーとの間の「存在をかけた戦い」とも評される。
一方で、AI開発の観点からは、既存の著作物を学習から排除することは、モデルの性能や創造性に悪影響を及ぼす可能性も指摘されている。しかし、今回の訴訟では「違法な手段」という一点が、議論の前提を大きく変えている。仮にAnthropicが合法的な手段でデータを入手していたとしても、著作権侵害に問われる可能性はあった。だが、 torrentファイルを用いたとされる行為は、米国著作権法の下でより深刻な違法性を帯びる。
「著作権侵害」の定義を問う——Bartz判決との整合性
Bartz事件の判決は、AIの学習プロセス自体はフェアユース(公正利用)に該当する可能性を示唆したが、データの取得方法が違法である場合、その例外は適用されないとした。今回の訴訟は、まさにこの判決の論理を基に、Anthropicの行為が「著作権侵害」に当たると主張している。単に学習に使うだけでなく、そのデータをどうやって入手したかが、今回の裁判の決定的な争点となる。
音楽出版社側は、Anthropicの行為を「目に余るほどの無法行為」と表現。これまでの訴訟を経てもなお、同社が違法なデータ収集を続けていると主張し、裁判所による厳格な処分を求めている。
AI開発の未来——判決がもたらす業界への影響
この訴訟の行方は、AI業界全体に重大な影響を及ぼす可能性が高い。もし裁判所が音楽出版社の主張を全面的に認めれば、AI企業は学習データの収集方法について、これまで以上に厳格なコンプライアンスが求められることになる。特に、インターネット上の公開データであっても、その取得手段が違法であれば、巨額の賠償責任が生じるリスクがある。
Anthropicは、この訴訟に対してまだ公式なコメントを発表していない。同社がどのような反論を展開するのか、また、過去の和解金や判決が今回の訴訟にどのように影響するのか、今後の法廷闘争が注目される。音楽著作権とAI技術のせめぎ合い——この裁判は、21世紀の知的財産法のあり方を問う、歴史的な一歩となるかもしれない。