三菱重工業の常務執行役員で防衛・宇宙セグメント長を務める江口雅之氏は6月12日、H3ロケット6号機(30形態試験機)の打ち上げ成功を受けた記者会見で、H3が開発当初から掲げてきた打ち上げ価格「半額」目標について、「方向性として目標が見えてきた。順調にコストダウンは進んでいる」との認識を示した。
H3ロケット30形態、初飛行成功の意義とコスト構造
今回初めて飛行した「30形態」(H3-30S)は、固体ロケットブースタ(SRB)を完全に省き、第1段を液体エンジン「LE-9」3基のみで構成するH3の最小構成機体である。太陽同期軌道(高度500km)に4トン以上の打ち上げ能力を持ち、JAXAは「打ち上げ価格の低減を目指した形態」と位置づけている。民生品の積極的な活用やライン生産方式の導入に加え、この軽量形態によって従来のH-IIAロケット比で「約半額」の打ち上げ価格を実現することが目標だ。
会見では、今回の成功がコスト半額目標に直接結びつくのか、という質問が記者から提起された。江口氏は「今回の30形態の成功が、単価半額に直接つながるわけではない」と慎重な姿勢を示しつつ、初号機からこれまで計8機の打ち上げで蓄積された経験が着実にコスト削減に寄与している事実を強調した。
「単価半額」達成への道筋——現状と課題
江口氏によれば、初号機から現在に至るまでの打ち上げ実績を通じて、さまざまな部品の製造・組み立てコストは少しずつ低下してきているという。具体的な単価については、「個別の契約次第という面もあり、実際にはインフレで資材なども上がってきているため、一概には答えられない」と言及を避けた。その上で、「単価半額に向けた活動は順調に進んでいると理解していただいていい」と述べ、全体的なコストダウンの進捗に自信を示した。
コスト半額に必要な要素技術と運用効率
三菱重工はH3プロジェクトにおいて、設計段階からコスト削減を主要命題の一つに据えてきた。従来のH-IIAが採用していた高価格な宇宙用部品を、信頼性評価を経た民生品(COTS)で代替する取り組みはその象徴である。また、ライン生産方式による量産効果もコストダウンの主要な原動力だ。30形態は固体ブースタを排除したことで、機体構造の単純化と製造工程の短縮が図られ、打ち上げ1回あたりの原価低減に大きく貢献する設計となっている。
一方で、世界的なインフレーションによる原材料費やエネルギー価格の高騰、サプライチェーン全体のコスト上昇は、三菱重工にとっても無視できない逆風だ。会見で江口氏が「一概には答えられない」と述べた背景には、こうした外部環境の不透明感が影響しているとみられる。しかしながら、30形態の飛行成功は、H3が掲げる「低価格で高頻度の打ち上げ」というビジネスモデルが技術的に成立することを実証した点で、極めて重要なマイルストーンである。
H3ロケットの競争力と今後の展望
ロケットは、日本の宇宙産業の国際競争力強化を担うフラッグシップ機として開発が進められてきた。競合するスペースXのファルコン9や、欧州のアリアン6などが市場で価格競争を繰り広げる中、H3シリーズが目標とする打ち上げ価格は、商業衛星ビジネスにおいても十分に戦える水準とされている。
江口氏は会見の最後に、今回の成功を受けて「単価半額に向けた活動は順調に進んでいると理解していただいていい」と記者団に応じた。この発言は、H3プロジェクトのコスト戦略が計画通りに進捗していることを示す、公式の見解として受け止めることができる。今後の打ち上げ頻度の向上と、さらなるライン生産による量産効果を加味すれば、目標達成は時間の問題との見方が大勢だ。
H3ロケット30形態の成功は、単なる技術的成果に留まらず、日本の宇宙産業におけるコスト競争力の真価が問われる試金石となる。三菱重工とJAXAが掲げる「半額」という目標が、現実のものとなる日はそう遠くないかもしれない。