ダイソン初の電動歯ブラシ「Dyson CameraJet」、79,800円で発売決定

ダイソンがロボット掃除機の技術を応用した初の電動歯ブラシDyson CameraJetを79,800円で発売。

投稿者 central
Dyson CameraJetはカメラとAIで歯垢を検出し水噴射で除去する新世代電動歯ブラシ。
ハイライト
  • Dyson CameraJetはロボット掃除機のコンピュータービジョン技術を応用した初の電動歯ブラシである。
  • 価格は79,800円で、カメラが口内を撮影しAIが磨き残しを検出する。
  • プライバシー保護のため画像は本体やクラウドに保存されず、LEDでカメラ稼働を示す。

英ダイソン(Dyson)が、同社初となる電動歯ブラシ「Dyson CameraJet(ダイソン カメラジェット)」を日本で正式に発売した。価格は79,800円(公式オンラインストア)で、電動歯ブラシとしては異例の高価格帯に位置づけられる。特筆すべきは、ロボット掃除機で培ったコンピュータービジョン技術を搭載している点だ。歯ブラシ内部に組み込まれたカメラが口内を撮影し、その映像をAIがリアルタイムで解析。歯垢(プラーク)の有無や磨き残しを検出すると、ブラシヘッドから水と空気の微細な噴射を自動で行い、物理的に汚れを除去する仕組みを採用している。

ダイソンが本製品で実現したのは、家電製品における「見る」機能と「動く」機能の融合である。同社のロボット掃除機「Dyson 360 Vis Nav」が、360度カメラと26個のセンサーで部屋の形状を認識しながら自律走行するのと同じ原理を、人間の口腔内に応用した格好だ。センサーが対象を検出し、その場でアクチュエーターの動作に反映させるという一連のプロセスは、両製品に共通する核となる技術思想である。

コンピュータービジョン研究の延長線上にある製品

CameraJetに搭載されたカメラは、アプリで口内の映像を確認する時と、自動噴射機能が作動する時にのみ起動する。作動中は白色LEDが点灯し、ユーザーにカメラの稼働状態を明確に伝える。収集された画像は製品本体にもクラウドにも保存されず、プライバシーは厳重に保護される設計だ。

ダイソンのコンピュータービジョンへの投資は、決して一朝一夕に成し得たものではない。同社は2005年から、単眼カメラによる自己位置推定技術「MonoSLAM」の開発者であるアンドリュー・デイヴィソン氏と協働。2014年にはインペリアル・カレッジ・ロンドン内に「ダイソン・ロボティクス・ラボ」を設立し、ロボットビジョンの基礎研究を長期にわたって蓄積してきた。CameraJetは、その20年に及ぶ研究成果を「家の床」から「人間の口の中」へと持ち込んだ製品と言える。

AI投資の成果と、ロボット掃除機で磨いた技術

ダイソンは近年、AI分野への投資を加速させている。2025年の研究開発費は4億ポンド(約87億円)を超え、その対象にはAIと機械学習が含まれている。2025年10月に発売したロボット掃除機「Dyson Spot+Scrub Ai」では、ビジョンセンサーとAIを活用し、床の汚れを検出・識別して自動で除去。特に汚れが濃い箇所には最大15回まで繰り返しアプローチする機能を備えている。

つまり、対象を見つけ、種類を判別し、その場で動作を変える――。床の上でロボット掃除機が行っているこの一連の処理は、CameraJetが口の中で行っている動作と本質的に同じである。口内という極めて限られた空間で、リアルタイムに映像を処理しながら物理的アクションを起こす技術は、ダイソンのロボティクス部門と口腔ケア部門が初めて本格的に協業した成果といえる。

79,800円の価値が問われる市場投入の狙い

Dyson CameraJetは、日本では2025年9月1日にダイソン公式ストアと主要通販サイトで販売が開始され、翌9月2日から全国の家電量販店と一部百貨店でも取り扱いが始まった。カラーバリエーションは「セラミックピンク」と「セラミックウルトラブルー」の2色展開だ。

79,800円という価格は、一般的な電動歯ブラシの価格帯(1万円前後)を大きく引き離す。高級モデルでも3〜5万円が相場であることを考えれば、この製品はまさに「電動歯ブラシの概念を変える」という、ダイソンの強い意志の表れと受け止められる。

ダイソンの挑戦史と現在地

ダイソンはこれまで、まったく新しいカテゴリーに意欲的に挑み続けてきた。しかし、そのすべてが商業的成功を収めてきたわけではない。

完成目前まで進んでいた電気自動車(EV)の開発は、2019年に中止された。2023年発売の空気清浄機付きヘッドフォン「Dyson Zone」は話題を呼んだものの、日本では公式サイトで在庫切れとなっており、その後発売されたオーディオ専用モデルも大きなヒットには至っていない。工学的な発明そのものが、そのまま事業として成立するとは限らないことを、同社の歴史は物語っている。

そして今、ダイソンの挑戦を取り巻く環境は変化している。2025年の売上高は61億3,000万ポンド(約1兆3,300億円)で、前年から約7%減少。これは2年連続の減収である。一方で、営業利益は15%増加しており、2024年に英国の従業員の約3割にあたる約1,000人を削減したコスト削減策が利益改善を支えた構造だ。

この局面でダイソンが選んだ戦略は、製品投入のペースを加速させることだった。2025年には過去最多となる13の新製品を発売。最高経営責任者(CEO)のハノ・キルナー氏は、2026年にはさらに多くの製品を、より幅広い価格帯で投入する方針を明言している。CameraJetは、そうした積極戦略の象徴的なプロダクトといえる。

口腔ケア市場における技術的優位性と課題

Dyson CameraJetの最大の差別化要因は、カメラとAIによるリアルタイムフィードバックと、物理的な噴射による除去という独自方式にある。従来の電動歯ブラシが超音波振動や回転ブラシによる「擦る」磨きが主流であるのに対し、CameraJetは歯面に直接アプローチして汚れを「吹き飛ばす」アプローチを採用している。

この方式は、ブラシの毛先が届きにくい歯間や歯周ポケットのケアにおいて、理論上の優位性を持つ。また、カメラによる可視化機能は、ユーザー自身が磨き残しを視覚的に確認できるという点で、歯磨き習慣の質を向上させる可能性を秘めている。

しかし、79,800円という価格は、一般消費者にとって容易に手を出せるものではない。口腔ケアは毎日の習慣であり、頻繁に買い替えるものではないとはいえ、この価格帯での普及には、磨き残しの低減や虫歯・歯周病予防といった具体的な効果に対する明確なエビデンスが求められる。ダイソンが今後、どのようなデータやユーザーレビューを積み上げていくのかが、市場の評価を左右するだろう。

カメラが開く、パーソナルケアの新たな可能性

CameraJetの登場は、電動歯ブラシという成熟カテゴリーに、まったく新しい技術軸をもたらした。ロボット掃除機で培ったビジョン技術を、全く異なるユースケースに転用するという発想は、ダイソンの研究開発力の高さを示している。一方で、これまで同社が新規参入で苦戦してきた経緯を踏まえれば、この製品の成否は、単なる技術デモンストレーションに終わるか、それとも生活者の習慣を変える製品として定着するかの分岐点となる。カメラとAIの組み合わせが、歯磨きという日常行為をどのように変えていくのか。業界内外から注目が集まっている。

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