H3ロケット30形態、日本初の固体ブースタ無し打ち上げ確定

JAXAがH3ロケット6号機の打ち上げを6月12日に決定。固体ブースタなしの30形態は日本初の挑戦。

投稿者 central
ロケット30形態は最小構成で太陽同期軌道に4トン以上を投入可能。
ハイライト
  • ロケット6号機は30形態として初めて固体ブースタなしで打ち上げられる。
  • この打ち上げは2025年12月の8号機失敗後、初の再開フライトとなる。
  • 30形態の成功はH3シリーズのコスト競争力を証明し、日本の宇宙輸送の新章を開く。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H3ロケット6号機(30形態試験機)を6月12日午前9時53分59秒に種子島宇宙センターから打ち上げると発表した。この打ち上げは、H3シリーズとして初めて固体ロケットブースタ(SRB-3)を搭載しない「30形態」の初飛行となる。打ち上げ時間帯は同日11時52分46秒まで。当初は6月10日に予定されていたが、天候悪化が見込まれたため延期され、6月10日に新たな日程が再設定された。予備期間は6月13日〜30日と7月9日〜31日が確保されている。

30形態とは──固体ブースタなしの最小構成

ロケットは、搭載する衛星の大きさや目的軌道に応じて機体構成を選べる設計を採用している。形態は「H3-abc」という表記で、aは第1段メインエンジン「LE-9」の基数(2または3)、bは固体ロケットブースタ「SRB-3」の本数(0、2、4)、cはフェアリングのサイズ(S:ショート、L:ロング、W:ワイド)を示す。

今回の6号機の形態は「H3-30S」。LE-9を3基に増やす代わりにSRB-3をゼロとし、ショートフェアリングを組み合わせた最小構成だ。これまで飛行実績のある「22形態」(LE-9×2基+SRB-3×2本)とは異なり、液体エンジンのみでリフトオフする。JAXAによれば、固体ロケットブースタなしで離昇する大型液体ロケットは日本初となる。

JAXAは、この最小形態のH3-30Sを主に官需ミッションに、22L・24L形態を商業ミッションに適用する想定だ。

打ち上げ能力──太陽同期軌道に4トン以上

気になる打ち上げ能力は、30形態で太陽同期軌道(SSO、高度500km円軌道)に4トン以上。地球観測衛星などの需要が多い軌道であり、JAXAは「30形態の打ち上げで特にニーズが見込まれる軌道」としてSSOを挙げている。

H3シリーズ全体では、ブースタやエンジン基数の組み合わせにより、静止トランスファ軌道(GTO)へ約2〜7トンの打ち上げ能力をカバーする。最大の24形態はGTOに6.5トン以上を目指し、衛星需要の大半をシングルロンチでカバーする設計だ。30形態はそのラインナップの下限を担い、低軌道・中型衛星クラスの打ち上げを低価格で実現する役割を担う。

コスト削減戦略──軽量形態で約半額を実現

開発の柱は、柔軟性、高信頼性、低価格の3つだ。低価格化については、宇宙専用部品ではなく自動車など他産業の民生品を活用し、生産方式を受注生産からライン生産に近づけることで打ち上げ価格を引き下げる。JAXA宇宙輸送技術部門は、H-IIAの後継機としての価格目標について「固体ロケットブースタを装着しない軽量形態で約半額を目指しています」と説明しており、この軽量形態こそが30形態である。

文部科学省の宇宙開発利用部会に提出されたJAXA資料でも、30形態は「太陽同期軌道4トン以上の打ち上げ能力で、打ち上げ価格の低減を目指した形態」と明記されている。1本あたり平均推力220トンのSRB-3を省略できることが、価格低減の鍵となる。

固体ブースタなしで飛ぶための新機構

SRB-3を省くことは、単にメインエンジンを1基増やせば済む話ではない。6号機では複数の新しい仕組みが初めて投入される。

ひとつが「ホールドダウンシステム」だ。22・24形態ではLE-9が立ち上がってもSRB-3がおもりとして機能するため機体は浮き上がらないが、30形態にはそれがない。そこでリフトオフ前に3基のLE-9が正常に立ち上がったことを確認するまで、機体エンジン部の射座金具4カ所を機構で押さえつけて拘束し、確認後に火工品(分離ナット)で4カ所同時に解放する仕組みだ。

また第1段燃焼の終盤には、推進剤の消費で軽くなった機体の加速度増加を抑えるため、推力を約66%に絞る「スロットリング」を実施する。22形態では約20秒間だったが、30形態では約60秒間と長時間になる。スロットリング自体は3号機で飛行実証済みだ。

打ち上げに先立ち、種子島では実機を発射台に固縛してフライト用LE-9を燃焼させる「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」を2025年7月24日と2026年3月15日の2回実施し、3基クラスタ構成の第1段推進系と地上設備を組み合わせた機能と性能を確認している。

実衛星は搭載せず──VEP-5と超小型衛星6基で飛行実証

6号機はシステムレベルの刷新を伴う試験機であるため、実衛星は搭載しない。代わりに性能確認用ペイロード「VEP-5」をSSOに投入して飛行実証を行う。30形態は当初、試験機2号機として「だいち4号」を載せて打ち上げる計画だったが、2023年3月の試験機1号機(22形態)打ち上げ失敗を受けて計画が見直され、22形態で実績を積んだ後に30形態を実証する現在の流れになった。

相乗りする副衛星は6基。東京科学大学のPETREL(海洋観測)、静岡大学のSTARS-X(テザーによるデブリ捕獲実証)、仏UnseenlabsのBRO-22、九州工業大学などのVERTECS(宇宙背景放射観測)、BULLのHORN-LとHORN-R(デブリ化防止装置の実証)だ。

注目すべきは新開発の「超小型衛星搭載アダプタ」だ。試験機2号機の搭載方式では衛星分離時などの衝撃環境条件が機軸方向4000Gと高かったが、リング形状アダプタを介して搭載することで1000G程度に緩和できる見込みだ。JAXAはこれを「Falcon 9と同等の衝撃環境」としている。小型衛星の多数機打ち上げ需要を取り込むための重要な布石となる。

8号機失敗からの再開フライト

は2024年2月の試験機2号機以降、3号機から7号機(HTV-X1搭載の24形態)まで成功を重ねたが、2025年12月22日の8号機(22形態、みちびき5号機搭載)で打ち上げに失敗した。文部科学省対策本部の発表(2026年4月23日)によると、衛星フェアリング分離直後に衛星搭載構造の一部が損傷・破壊したことが起点で、衛星搭載アダプタ(PSS)に生じた剥離が分離時の衝撃で進展し、不安定破壊に至った可能性が極めて高いとされた。

対策として、当面の実用衛星搭載機ではファスナ結合方式、30形態試験機では補修方式の適用が妥当と判断されている。JAXAは6号機の打ち上げに際し、PSSの健全性を含めた機体の最終評価・点検を行ったうえで、後続ミッションの確実性を高めるための飛行データを追加取得するとしている。6号機は30形態の初飛行であると同時に、8号機失敗後初の打ち上げ再開フライトでもある。

30形態の成功は、H3シリーズのコスト競争力を証明すると同時に、日本の宇宙輸送システムの新たな章を開くことになる。固体ブースタという補助なしで、液体エンジンのみで飛び立つ大型ロケットの挑戦。その成否は、日本の宇宙開発の未来を大きく左右するだろう。

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